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早朝の月  作者: 野松彦秋
第1章 祖父との交流
4/18

ブランコに座る男

青年は、泣いているような、怒っているような顔をしていた。

どことなくプラットホームで、出会った青年よりは老けている

印象を受けたが、間違いなく彼だと私は思った。


人を見つけただけで喜んでいた私は、彼の事情お構いなく話しかけた。

私の夢なのだから、問題無く交流ができるという自信もあった。

「あの、すみません、ちょっとお尋ねしますが…。」

青年は、声をかけられて初めて私の存在に気づいた様子で、顔を上げ

私を見る。顔を見上げるが、青年からは直ぐに言葉が出ず、

ほんの数秒だが、気まずさが残る沈黙が走る。

沈黙に耐えきれず、私が改めて口を開く。

「あの、すみません、変に思われるかもしれませんが、ここは何処ですか?」

「此処がどこだか分らず、歩いてきたら貴方を見かけたので…。」


四角い顔の青年は、いや青年というより周りが暗いせいか30代前半も見えるので

壮年の男性にも見える。

彼は、困惑したような表情で暫く考えている。ようやく口を動かした彼の返答は

「わかりません、気が付いたら私もここに座っており、自分の夢だと思って

 独り考え事をしていたら、貴方が来たのです。」

予想外のまともな受け答えに、少し面を食らった私は相手には

悟られないようにと思いながら、血の気が引くような思いになっていた。

心の支えになっていた土台がグラグラと揺れている自分を必死に抑えた。


これ、俺の夢じゃないのか?さっき見たのは『ほりえ食堂』じゃなかったのかぁ?

じゃあ、ここは何処だ???


混乱しかけた私は、焦りを打ち消す思いもあり、彼に聞いた?

「私達、今日上野駅のプラットホームで、会いましたよね?

千円札を落としたかどうかと貴方は私に確認しましたよね??」

「いえ、会ってません、貴方とは初めて会いました。人違いです。

もし千円という大金を拾ったら 私は、人に聞かず、交番に届けます。」

と彼は冷静な口調で即答した。


千円という金額を大金と表現した彼を少し変な奴だなと思ったが

突っ込むのも失礼だと思い、あえて何も言わず、私は沈黙した。


この人、確実に俺より年下だよな、唯、なんか年齢以上に物腰が

落ち着いているなぁ、若さが無いというか、今どきの若者ではないような?


「あなたは、ここに来る前の記憶あります、私は友人とお酒を飲んで

 帰宅して寝た記憶があり、気が付いたら知らない場所を

歩いていたんですけど。」


私の質問に対し、彼は少し記憶を呼び起こすような表情をした後

「私は、仕事を終え家に帰ったが、食事の際、家内から娘の小学校受験が

2月にあり、 父兄同伴の面接がある事を聞かされ、参加するかどうか

決めてくれと言われて 酒を飲んで考えていたら、気が付いたら

ここにいたんです…てっきり 疲れて寝てしまい、自分の夢の中

だと思っていた。夢じゃなければ、此処はどこなんですかね?」


気持ちは分かるが、質問に質問で返すのは反則だと言いたい私だが

そんな余裕はない。

家内って、奥さんのことだよなあ、今どき自分の奥さんを家内と呼ぶ若者いるかぁ?

妻、奥さん、うちの嫁という人はいるけど、家内なんて昭和の時代だよなあ…。

コイツ何者だ??


私の中で、混乱よりも青年に対する疑問、いや興味が大きくなっていた。


 










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