告白
四角い顔の祖父と初めて対面した公園のブランコに私は座っていた。
周囲は、朝日が昇り始め、遠くから押し寄せるような風の音が聞こえる。
自分が少年の頃、父とキャッチボールをする為に、朝5時半の公園にグローブとボールを持って走って向かったあの公園の匂いがする。
父より先行して公園に着いた私は、朝露が残る公園の草や地面にボールを弾ませ、父が来るであろう生家の方向を眺めて、今か今かと待っていた日々を思い出す。
夢の中の明るさは、私の心の状態とリンクしているのだろうか…。
祖父と会った時の公園は夜の様に暗かったのに、今は同じ場所でも雰囲気が全然ちがうのである。
私は、心の何処かで分かっていた、大山が来てくれる事を…。
少年の時の様に生家の方角に視線を向けていると、彼はやってきてくれた。
「中年のおっさんだなぁ、ボス※、なんか寂しそうだな。」
25年以上前と同じ様に、彼は私のあだ名で私に呼びかけてきてくれた。
※懇親会の幹事を任された時、仮クラスのメンバーがふざけてつけた私のあだ名は、ボス(取り仕切る人)だった。
「大山、変わってないな、久しぶり、最近、よくお前を思い出して来てくれるとは…、うれしいよ。」
「俺の夢の中にようこそ!。」
そんな挨拶からはじまった彼との会話は、まるで映画『ゴッドファーザーⅢ』でアルパチーノ演じるコルリオーネが
ローマ教皇候補の神父さんに、自分の人生で犯した罪をあらいざらい告白するシーンの様だった
人生の分岐点は、間違いなく彼の死だった事。
大学卒業時に、中国語を全くしゃべれない状況で中国へ留学する事を決めれた理由は、自分の夢に向かって走る事が出来なかった大山に彼の分まで夢に向かって走る自分を見せたかった事、23歳から40歳迄中国で自分が思っていた限界以上に頑張った事、日本に戻り、娘の為に精一杯頑張った事、頑張っても離婚し、最愛の娘と離れ離れになってしまった事。
頑張っても、頑張ってもどうにもならない事が人生には有る事を気づかされたことを私は彼に聞いてもらった。
「ボス、見てたよお前の事、人生って思い通りにならないな…。」
「生きるって、そういう事なのかな。」
「だけど、うらやましいよ、そんな経験ができたお前が。人生を歩んでいるお前が。」
「お前の人生もっと、俺に見せてくれよ、陰ながら応援するから。」
口少ない彼の言葉に、応援してるよという彼のやさしい表情に、私は心の底から泣いた。