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早朝の月  作者: 野松彦秋
第2章 友との交流
15/18

赤い傘(2)

入学式が終わって間もなく、通されたゼミ専用の教室、

30名程度の学生がちょうど座れる教室であり、大学の基本的なルール、

履修登録の仕方、年間行事の説明等等、今日から貴方は大学生という

資料が一人づつに配られる様に、座席毎に置いてあった。


入学式から、1週間程度一緒に行動を共にするメンバーとして

担任の助教授の方が説明してくれた。

先ずは、簡単にそれぞれの自己紹介をして、スタートした事を

覚えている。今になっては、名前等忘れてしまったメンバー達だが、

顎髭を伸ばす者、どう見ても同年代と思えない老け顔の青年、

逆に高校生みたいに幼く見える者、数名女子学生もいた。

高校迄、ほぼ同じ年の者が同級生だった私には流石大学になると、

雰囲気が変わるなと、大人の社会に仲間入りした様なドキドキした

気持ちになった事を覚えている。


自己紹介を終え、その場で担任の先生より、メンバーで集まる

最後の日の週末に懇親会する事を提案され、運悪く、その会の幹事に

指名されてしまった。雰囲気は、面倒臭い事をコイツならやってくれる

だろうというものだった。


華やかな大学生活の始まりから、ちょっとしたハードルを押し付けられた

私の気持ちは憂鬱だった。

しかし、今振り返ると、その仕事を受けた御蔭で、今でも続いている親友達と

出会う事ができたし、導かれるようにしてできた縁に感謝している。

又『たら、れば』で人生は語れてしまうから、人生の成り行きは怖い。


この仮クラスで、私は4名の友人と出会い、その後私を入れて5名で

楽しい学生生活を共に行動するグループとなる。

そのメンバーと初めて仲良くなったのが、その懇親会だった。

そのメンバーの一人、大山は長野出身の仮面浪人をしている学生だった。

故郷の方言が残る彼の独特な話し方を今でも鮮明に覚えている。

生真面目な彼は、性格も面倒見も良く、優しい青年だった。


大学近くの賃貸のマンションに住む彼の部屋で、グループのメンバーで

ワイワイする事が一番楽しかった思い出である。

故郷に彼女を残し、東京で一人浪人生活をしていた真面目さ、

但し、彼の本命の大学には落ちてしまい、できればもう一度受験したいと

いう彼の部屋には、未だ目標の大学の赤本が有った。


ある日、いつも通り彼の部屋で飲み会をする為に集まった私達は

彼の部屋で赤い傘を発見した。男の部屋に女性用の傘がある事を

指摘し、彼に冷やかしながら聞くと、彼は照れながら、故郷の彼女が

一週間遊びに来てた事を認めた。その時の彼は、とても幸せな顔をしていた。


次の日の昼前、私はバイトが有る為彼の部屋から急いで駅へ向かおうと

すると運悪く雨が降り出した。結構雨脚が強く、私は傘を持って

来なかったため、躊躇していると、彼は彼女が忘れていった赤い傘を

貸してくれた。

私は、女性モノなので、ちょっと恥ずかしいと説明し丁重に断ろうとしたが、

「全然恥ずかしくない、持ってけ、風邪ひくぞ」と怒って渡してくれた。

彼の迫力に負け、私は断る事が出来なかった。


彼の部屋から、最寄りの駅迄、恥ずかしさを押し殺して赤い傘をさし

歩いたことは、25年以上経過した今も覚えている。


彼と出会い、別れが来る迄僅か1年にも満たないものになる事等、

その時の私には想像できなった…。





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