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手を取り合って(4)

 講和会議を経て、条約を結んだ各国の重鎮はそれぞれの国へと帰っていった。

 ルナリア王国との関係が改善したとはいえないけれど、これだけ大規模な戦争を仕掛けて大敗したとあってはそう簡単に立て直すことはできないだろう。


 ポーラニア帝国はルナリア王国とイクリプス王国から多額の賠償金を獲得し、ルナリア王国との国境防衛をより厚くすることにした。緊張が高まらない程度には他国との国境も防衛を固めることになる。

 そして、残った資金でディゼルド領との国境を結ぶ街道の整備を進めて移動時間をさらに短縮させるようだ。



 今回の戦争を誘発し、イクリプス王国に危険をもたらしたオースティン殿下は、王宮にて処刑されたらしい。

 その一報が私たちの下に届けられると、レイジは「そうか」とだけつぶやいて手紙をしまった。


 驚いたのは、どうやってルナリア王国と通じていたのかというところで。

 なんとオースティン殿下は自室から地下道を掘らせてルナリア王国の間者と地下室で会っていたのだという。地下道はルナリア王国から長く伸びており、そこからルナリア王国軍がいきなり王都に乗り込んでくる危険性さえはらんでいた。

 正式な書面とは別にアランが送ってくれた手紙によると、殿下の部屋を調査していた際にアランが地下道に続く隠し扉を見つけたらしい。

 あわてて調査したところ、ルナリア王国から王都に直通する地上への道は完成に近いところまで掘り進められていたようで。

 そうなる前に地下道をふさぐことができたのは幸いだったと記されていた。


「アランもいつの間にか成長していたのね」

「オースティンは熱心に指導してくれていたと聞いている。ただ、ステラが帝国に渡ったこの一年で急に様子がおかしくなったと気になっていたようだった」


 私はレイジの執務室で、アランから届いた手紙に目を通す。

 アランから届いた報告は目を疑うようなものばかりで、私がいかに国の内情に疎かったのかと痛感させられた。


「父上がオースティン殿下との婚約を受け入れていれば、こんな戦争も起きなかったのかしら」

「そんなことを言わないでくれ」


 私がぽつりとつぶやくと、レイジは私の両肩に手を置いてずいっと私を見つめる。


「俺だって、ステラがもし戦場で命を落とすとか、すでに婚約してしまっていたら平常心ではいられなかっただろう。だが、帝国でもイクリプス王国でも伴侶はひとりと決まっている。帝国の貴族令嬢だって、大半が俺との結婚を望んでいたが、仮にそのうちのひとりを選んだとしてもそれ以外の全員が同じ想いを抱くことになっただろう。さまざまな因果が絡み合って、結果的にこうなったというだけだ。ステラが気に病むことではない」

「レイジ……」


 暖かいレイジの言葉が胸にしみ込んでいくけれど、そのすべてを受け入れることは、今の私にはできそうにない。

 きっといつか、これでよかったと思える日がくるんだろうか。


「これが最後の一枚ね……あら」


 アランから届いた手紙の最後には、オースティン殿下の跡を継いで王太子の座に収まったのは第一王女であるメア殿下だと書かれていた。

 アランは王太子の補佐として引き続き王都でメア殿下のお世話をしているが、当人は国王の座に就きたいと思っておらず、第二王子にその座を譲るつもりらしい。

 そうなると自分は第二王子の補佐になるべきではと言うと、断固として拒否されたのだという。


 僕は自由奔放で自分を振り回す殿下から目が離せないし、父上たちは急増した領地の仕事で手いっぱいなので、お姉様はしばらく領地のことを忘れて帝国でゆっくりとお過ごしください。そう手紙は締めくくられていた。


「ふうん。アランが王女殿下に振り回されてるのね……大変そう」


 自由奔放な王女様が相手では大変そうだけど、アランが無事に成長してくれるならそれが一番ね。


「……それだけか?」

「え、なにが?」


 レイジの問いの意味がわからず、私は呆けてしまう。


「……いや、ステラらしいなと思っただけだ」


 頭を抱えたレイジに、私は首を傾げてみせることしかできなかった。


 ---


 私が帝都に帰ってきてから二週間後。

 ルナリア王国からの侵攻、およびイクリプス王国の陰謀のすべてを打ち破った記念として、戦勝記念パーティーが皇宮で開かれることになった。

 集められたのは帝国じゅうの貴族とその令息・令嬢。つまり、私とレイジの婚約披露パーティーとほぼ同じ規模での開催となる。

次回、最終話です。

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