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共同戦線(3)

「なんですって……!?」


 私は驚愕の声を上げて、後ろに控えていたクラリスを見る。声にこそ出していないが、クラリスの表情は青く、険しい。


「ディゼルド領内で帝国からの使者の手紙を受け取りましたが、ディゼルド領を出るのに検問を抜ける必要があり、隠れて突破するために時間を要してしまいました」

「検問……? なに、それは?」


 内部的にはよくも悪くも牧歌的なイクリプス王国は、領地間の往来に検問を設けていない。今回はイベントということもあって他領との行き来は激しく、検問なんてしていないはずだけど。


「ディゼルド領を離れることが危険であるといって、王太子殿下が自主的に敷いたもののようです。一部の商人や他領の貴族など、身元が証明できて移動の必要がある人物のみ通行を許可していました」


 危険といえば聞こえはいいけれど、国境でしか戦争が起きていないのにそれ以外の移動を制限するのは過剰なようにも思う。

 オースティン殿下はいったいどうしてそんなことを……?

 気になるけれど、今は目の前の事態に向き合わなけば。


「だが、お前はそれをかいくぐって来てくれた。感謝する」

「ありがたきお言葉。バスティエ領騎士団は全戦力をもって国境の防衛にあたっており、当面は戦線を維持できるが長期戦になればどうなるかわからないとのことでした」

「わかった。すぐに今後どうするか検討しよう。ステラ、クラリス、悪いがそのまま天幕まで来てくれ」

「……ええ」


 私はレイジにしたがい、本陣の天幕へと向かった。



「ポーラニア帝国にも攻撃!? なるほど、違和感の正体はこれでしたか」


 レイジからの情報共有に、グライン侯爵がうなる。


「自ら攻撃を仕掛けておいて消極的に戦うのはなぜかと考えておりましたが……まさか帝都騎士団をここにとどめておくことが狙いだったとは」


 婚約披露イベント中にルナリア王国がイクリプス王国へと侵攻したとなれば、友好国になるポーラニア帝国としても共同戦線のために帝都騎士団を動かさざるを得ない。そうしてイクリプス王国、ポーラニア帝国の最高戦力を国境に呼び寄せておいて、手薄になったポーラニア帝国の国境を主戦力が攻撃する。

 それがルナリア王国の狙いだろう。


「相手の狙いはわかった。だが、わかったところでどう動くかは考える必要がある」

「そうね。あそこまで防御に徹した相手を崩しきることは簡単ではないわ」


 私たちは一刻も早くバスティエ伯爵領の救援に向かわなければならない。目の前の敵を倒しきっても、その間に帝国が落とされたら被害は甚大では済まないから。

 だからといって、目の前の敵に背を向けて戦力を動かす選択しも簡単には選べない。今度はイクリプス王国側の防衛戦力が手薄になり、相手が押し返してきたら押し込まれるリスクがある。


 理想は、今の戦力でなんとか目の前の敵を撤退まで追い込んでから救援に向かうことだけど……時間をかければかけるほど国境が破られるリスクは高まっていく。

 万全の策など存在しない。どう動くのが最善なのか、私は決めかねていた。


「……俺は、今ここにいる戦力で目の前のルナリア王国軍を壊滅・撤退に追い込んでから急ぎポーラニア帝国国境の救援に向かうこととしたい」

「レイジ……?」


 一番帝国の利益を優先したい立場であるはずのレイジが、その決断を下したことに驚きを隠せない。


「ですが、レイジ殿下は一刻も早く帝国の救援に向かった方がいいのでは?」


 イクリプス王国側の立場を代表して、父上が問う。


「できるならそうしている。が、今前線の戦力を減らすことはできない。ここで前線を破られるリスクを冒すことは帝国にとって長期的な損失になりえる」


 その代わり、とレイジは言葉を続ける。


「イクリプス王国側のルナリア王国軍を撤退に追い込んだ後、ディゼルド騎士団にはポーラニア帝国救援軍として引き続き共同戦線を張ってほしい」


 レイジは、すでに次を考えていた。父上はすぐにうなずく。


「ええ。受け入れましょう」

「グライン領主としては、殿下の判断を歓迎いたします。一刻も早く我が国境の安全を確立して」



 作戦を立てるにしても少し休憩しようということで、いったん私たちは天幕を出ることにした。

 天幕を離れ、私とレイジはふたり連れ立って陣の端に歩く。


「レイジ、お願いがあるのだけど」

「ダメだ」


 私が言葉を続けるより早く、レイジは強い語気でそれを拒絶した。

 ……やっぱり、レイジは私がなにを言いたいのかわかっている。


「いいえ。やっぱり、目の前の戦線を早く攻略するにはこれしかないわ。……私も前線に出る」


 強い決意を瞳に宿し、私はレイジに詰め寄った。

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