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敵は誰か(2)

 私は用意した原稿を広げると、聞き取りやすいよう意識して読み上げる。


 起案内容、発議に至った経緯、決闘法の廃案が成立することによる帝国全体へのメリット。

 それを聞く帝国の重鎮たちは、私がそれを語ることへの不満を隠そうともしていない。

 それでも、私の発言を遮ることなく聞き留めていることに心の中で感謝する。


「ポーラニア帝国と戦争し、敗れた国の令嬢である私がいうのもおこがましい話ですが」


 説明の最後に、私は議会に参加している貴族たちに視線を向けながらこう述べる。


「ポーラニア帝国には未だ発展の余地があり、私はその開拓に持てるすべてを捧げています。決闘法の廃案が帝国の発展を後押しするものであると確信し、本議案についてご承認いただきたく、審議をよろしくお願いいたします」


 言い切って頭を下げると、議場を静寂が包んだ。


 拍手などは期待していない。私という個人に対して思うところがあるというのは承知の上だ。

 そう、問題はこれからだ。


「では、この議案について質問のある方は挙手を願います」


 議長が発言を促すと、すぐにひとりの手が挙がった。


「リシャール公爵、発言をどうぞ」


 議長に指名されて立ち上がったのは、婚約披露パーティーの場でも真っ先に手を挙げて物申したリシャール公爵家の当主、ダミアンだった。


 帝国最大の家格である公爵家としての責任というのもあるだろうが、それにしても臆せず真っ先に発言する姿勢は称賛に値する。


「ディゼルド令嬢。あなたはイクリプス王国の出身である。帝国との戦争に敗れ、帝国優位の講和が結ばれたことを不満に思い、決闘法の廃止による帝国の軍事力低下を望んでいるのではないか?」


「ディゼルド令嬢、お答えください」


「はい。ポーラニア帝国とイクリプス王国の戦争はすでに終結しており、講和会議や賠償も済んでおります。現在、両国は友好的に通商の用意をしているとレイジ殿下から聞き及んでいます」


 リシャール公爵の懸念はじゅうぶんに想定できたので、回答も準備していた。

 私はよどみなく答える。


「今後は他国からの脅威に備えて両国で軍事同盟を結ぶことも考えるべきです。その観点では、むしろ帝国は今まで以上の軍事力を有するべきと考えています。ここ数十年で一度も決闘がおこなわれなかったことを鑑みるに、決闘法の廃案が軍事力の低下につながるとは考えておりません」


 私の回答に、リシャール公爵は「うむ」とだけ答えて着席した。



 その後もまばらに手が挙がって質問を受けたが、どれも想定内のもので詰まらず回答することができている。

 当主たちの顔つきも少しずつ緩みを見せ始め、かなり手ごたえを感じていた。


(いける……!)


 挙手がなくなり、そろそろ採決に入るか――そう思った矢先。

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