敵は誰か(1)
私が決闘法の廃案を検討し、レイジ殿下が貴族会議に改正案を発議すると宣言してから二週間が経過した。
今日はいよいよ、帝国議会にて廃案についての議論がおこなわれることになる。早ければ今日中にも決議をとり、公布に向けて動くことになるという。
今日中に決議がまとまらないのであれば次回に持ち越しということになるが、持ち越すほどはっきりしない発議は通らないことが多いらしい。
つまり、私が目指すのは今日中の決議、承認。
サブリナ令嬢の協力を得ながら(レイジ殿下は協力を拒否した)、今日まで準備をしてきた。
泣いても笑っても今日が本番だ。
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現時点では帝国貴族でない私は、議会そのものに参加することができない。控室で静かにその時を待つ。
「ステラリア・ディゼルド様。どうぞこちらへ」
(きたっ!)
警備兵から呼び出しを受け、控室のソファから立ち上がる。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ、クラリス。少し待っていてちょうだい」
侍女兼護衛として控えていたクラリスと別れ、警備兵に従って議場へと向かう。
議場へは少し距離があり、二分程度歩いたところで巨大な扉に突き当たった。
「ステラリア・ディゼルド様のご入場です」
警備兵がなにやら合図すると、扉の向こうからうっすらと声が聞こえ、扉がゆっくりと開く。
(うわっ……)
目の前に開かれた光景、その重厚感にぐっとつばを飲み込んだ。
耳にしてきた帝国議会とはこれほどのものか。
大勢の貴族当主が一堂に会し、長机にずらりと並んでこちらを見ていた。
王国にいたときには経験したことのない圧力に肌が粟立つ。
「失礼いたします」
緊張を悟られないよう、努めて優雅にふるまう。
警備兵に案内され、わたしは証人の発言台に立った。
私を見る帝国貴族たちの視線は一様に冷たく、まるで敗戦後に私を糾弾する裁判を受けているような気分だと感じる。
「ステラリア・ディゼルド令嬢。あなたは今回レイジ・ド・ポーラニア皇太子殿下が発議した決闘法改正案の起案者で間違いありませんか?」
「ええ、間違いありません」
議長であるノーステッド侯爵――ポーラニア帝国宰相であり、セルジュやサブリナの父である――が私に問いかける。
その目には侮蔑も温情もなく、ただ冷静に物事を見極めんとする公平な姿勢が見て取れた。
「皇太子殿下は、本議案の説明をあなたに一任しました。発議に至った理由、その正当性など、起案内容の詳細についてご説明願います」
「承知いたしました」