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再起(2)

「帝国貴族の収入は減少傾向にある。俺はこれを増加傾向に転じさせたい。そのためには現在各貴族領内で完結している事業を他の貴族家と協業するなど、貴族間の連携が必要になると思っている。貴族間で連携をとるための手っ取り早い方法が両家の婚姻だ。だが、各貴族家……特に上位貴族は、自分の家の令嬢を俺と結婚させたいがために貴族間での婚約・結婚を保留していてそれが一向に進んでいない」


 なるほどと思い、私は皇太子の目を見やる。


 この見目好く実績十分な皇太子が、ポーラニア帝国の貴族令嬢にとって最大の優良物件であることは疑う余地もない。だから、上位貴族の令嬢は皇太子との婚約を求めて他の貴族令息との縁談は保留しているのだろう。下位貴族の令嬢が上位貴族の令息に嫁ぐことはあっても、その例は多くないはずだ。


 そうやって貴族間のつながりが生まれない原因が皇太子自身にあることは理解しつつも、帝国に価値を生まない令嬢との結婚はしたくないと縁談を断り続けているのだろう。


「そこで、だ。ちょうどいいところにイクリプス王国との戦争が終結し、王国につながりができた。俺が参戦するまでポーラニア帝国軍の侵略を防ぎ続け、領地を発展させ続けてきたステラリア令嬢の手腕は良くも悪くも帝国じゅうに知れ渡っている。そんなお前を婚約者として迎えれば、俺の婚約者の座を狙っていた令嬢は反発するだろう」


「まあ、そうでしょうね」


「そこで今の帝国貴族に対する不満を告げ、貴族に変革を促す。俺の婚約者になりたければ、ステラリア令嬢以上の成果を帝国に示し、自身が帝国にとって価値のある存在だと認めさせろ、と」


 私以上の成果とはなんだろうか。国民に戦姫(せんき)令嬢(れいじょう)とか言われて偶像視されるくらいということだろうか。それってかなり要求が高いのでは……?


「つまり私との婚約は、そうやって帝国貴族が領地の変革に取り組み、令嬢に結婚する価値が生まれるまでの仮契約ってことね」


「そのとおりだ。当然、イクリプス王国との良好な関係を維持するための象徴でもあるが」


 当初私が予想していた皇帝の側室とは異なるが、皇太子妃という立場も人質という意味ではそう大差ない。人質にするには正妻という立場は少し過剰にも思うが……どうせ二年の契約なのだ、その間に帝国を立て直すことができれば人質など用済みということだろう。


「そこまで進めば、条件を満たしたとして恩赦を言い渡すことは容易だろう。帝国で爵位を得て定住するなり、イクリプス王国に戻るなり、好きにすればいい」


 皇太子は簡単に言うが、そこまで進むのにどれだけの期間を要するのか想像もつかない。仮に十年かかったとして、それまで帝国内の婚姻が進まなければ帝国にとって大きな損失となるだろう。


「契約期間は二年とする。それまでにお前を超える価値のある令嬢が現れなければ、そのままお前と結婚することになるだろう」


「はい?」


 反射的に声が漏れて、慌てて口をつぐむ。


「俺にとっては、帝国を発展させることが第一だ。もし期間内に期待する成果を上げることができなければ、お前には相応の責任を取ってもらう」


「責任って……皇太子はそれでいいの?」


「帝国を発展させるためなら致し方ない。嫌なら期間内に成果を出すことだ」


 目を伏せて重々しく吐かれたその言葉に、私も嘆息する。


 この皇太子は、帝国を発展させるというただその一事のために、人生を投げうって私と婚約しようとしている。その姿はまるで、国境を守るというただその一事のために人生を投げうっていた私の姿と重なるようで。


「はあ……わかったわ。その契約、受けましょう」


 言って、目の前の婚約証明書にサインする。


 皇太子は震える手でそれを受け取った。


 望まない婚約なのだ、本当は受け取りたくない想いもあるんだろう。


「協力、感謝する。これをもってお前は書類上俺の婚約者ということになる。よろしく頼むぞ、ステラリア令嬢」


「こちらこそ。生き延びるためにできることはやりましょう、レイジ皇太子」


 差し出された手に自らの手を重ねる。皇太子がうっと呻いてもう片方の手を胸に当てたのは、それほどこの婚約に忸怩(じくじ)たる想いがあるからだろう。


 国境ひとつ守れなかった令嬢に何ができるのかは知らないが、契約を結んだ以上はその想いに応えてみよう。

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