君の口癖は死にたくない。
この小説は君を忘れないために書いたんだ。
私、死にたくないんだ
君はいつもそう言っていた、そりゃ人間誰しも1回は死にたいや死にたくないとか思うだろうけど、君は他の人より死にたくないって気持ちが強いんだなって思うほど、普段から『死にたくない』と口に出している。
「なんでそんなに死にたくないの?怖いの?」と聞いてみると
「うーん、やっぱり怖いね、死んだ先にあるのが『無』だと思うとすごく怖い」
それは僕だって怖いけど、多分この世界では死んだ先とか考える前に、今生きるのに必死な人が多いと思うし、あんまり考えてない人が大半を占めてるんじゃないかな。
「電車でこんなに遠くまで来ちゃってどうするの?」
「たしかに、1時間かけて海まで来たけど帰りがめちゃくちゃめんどくさい」
「わかるー、行きはいいけど帰りがね〜……」
「もうそろそろ帰る?」
「私はもうちょっとだけ海を見ていたいな」
「わかった、そうしよう」
今日は学校がいつもより早く終わったから、2人で海を見に行こうと無理やり引っ張られて、1時間かけてここまで来たけど、なんか青春してるなって感じがするし、来てよかったと思ってる。
「もう、こんなところまで来てスマホを触るとか、レディーに失礼だよ」
「ごめんごめん、今いい話が思い浮かんだからつい」
「新しい小説書けた?」
「まだかな、まだもう少しかかりそう」
「書けたら私にも見せてね」
「わかったよ」
「そろそろ帰ろっか、って、またスマホ見てるし……」
「ここら辺の道わからないからマップぐらい見せてくれ……」
「それならしょーがない!!」
そう言って立ち上がった君は、後ろにある海と夕日が似合っていて、とても綺麗だった。
「えーと、こっちかな…いや…こっちか…すみません方向音痴なもので…」
「その方向音痴なんとかした方がいいよ…生活に支障が出るレベルだと思う…」
そういわれてもなんとか出来るものなら今頃何とかしているんだよな…と思いつつマップを見ながら歩いていると…いきなり君が僕より前に出て僕を勢いよく突き飛ばしてきた、思わず僕は後ろに転んだが前を見た瞬間トラックが急ブレーキで止まれたものの、君はギリギリのところではねられていた。
「えっ」
勢いよく飛ぶ君を見た瞬間、僕は震えていた。
アスファルトの硬い地面に体や頭を叩きつけられた時の鈍い音は、頭から一生離れないだろう。
僕はトラックの運転手に救急車を呼ばせて、君に走って駆け寄り、膝枕をして名前を呼ぶが、意識はほとんどない、血は少しずつ体からこぼれ落ち、君を冷たくしていく。
「スマホ…見て歩いちゃ…ダ…メって…あれほど言ったのに…」
「本当にごめん…!こんなの…僕が殺したも同然だ…」
「大…丈夫、私、もう死ぬの…怖くないから…」
「なんでこんな時に落ち着いて話してられるんだよ……!」
「なんで…かな…君がいると…落ち着くんだ…」
僕は泣きそうになりながらも早く救急車が来ないかずっと辺りを見回す。
「ねえ、最後に……私を……ちゃんと見て……」
「最後とか言うなよ…君に見てほしい小説もまだある…し…君の顔も見たいし…また…君の声も聞きたいし…君に…触れたいし…君と一緒にまだ……」
僕は泣くのを我慢出来ず、ポタポタと君の頬に涙が落ちていくのと同時に、気付いた君への好意、ただそれを気付くのに時間をかけすぎたんだ。
「多分……間に……合わない……だからお願い……これからずっと君の記憶の中に…私を置いておいて…今私は死ぬことより……君に忘れられる方が……怖いんだ……」
そう言いながら君も泣いていた。
「わかった、君をずっと覚えてる、何十年先でもずっと…覚えてる」
「ありがとう……嬉しい……好きだよ……」
「僕も……好きだよ」
そう言った時には、君の目からは光を失い、動かなくなってしまった、僕はその場で泣きじゃくって、冷たく、抜け殻のようにぐったりとした君を抱きしめながら泣いていた。
「大丈夫、まだ覚えてるよ」
あれから数年が経ち、僕は君を忘れてしまわないように気を付けている、いや、気を付けていてもいなくても、あれを忘れられるわけがない。
「この前書いた小説は、君との思い出を交えたりしたんだ、ほんとにいい小説だよ、君にも読んで欲しいな…」
「大丈夫だって、今からそっちに行くからさ。」