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序章 雷鳴
決着の日は雨だった。
うっそうとした森に夜が訪れ、雨だれは首を垂れた彼の背中を激しく打った。血が滲み、ボロボロになった体は、それでも両手の弓と矢を離そうとはしなかった。
肩で息をして膝をつく彼を、無数の兵士が遠巻きに取り囲む。
逃げ場はないが、彼としても逃げるつもりはない。
彼の正面からゆっくりと女が歩いてくる。
兵士たちが不安そうに見つめる中、女は意を決したように腰の刀を抜き、天高く構えた。
彼は血の滲んだ口元をニッと上げると、全力で立ち上がる。
雷鳴が轟いた。
稲光は全てを白く包んだかと思うと、刀は彼の体を貫いていた。
「これでよかったんだ」
彼のそんな声を聞いたのは、その女だけだった。