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第六話 全てを終わらせるとき(早計)



「り、倫太郎さ~ん!? どこですか~!!」



 私は周囲に呼び掛けますが、反応はありません。

ま、まさか、自爆…………!?



「そ、そんなぁ!」



 なんて事でしょう!? し、死んじゃった……?

そんな! あんなにこっちを振り回しておいて、こんな序盤も序盤で!?



「……」



 あまりの事に、私は思わずへたり込んでしまいました。

……あ、あはは、な、なんて人だったんだろう。

散々こっちに迷惑かけておいて、こんなところで? まだ、旅も始まってないのに?

勘弁してよぉ……



「……!」



 しかし、ここで私はある事を思い出しました。

勇者が死んでしまったのなら、次の人を呼ばなくてはならない。

少なくとも、一人は、別の人を。



「……」



 同時に今までの事を思い出します。

転生する前の段階じゃあ、いきなり床を舐めたり、盾についてもうなんか滅茶苦茶喋ってたし。

転生後も、いきなり発狂するし、盾以外目もくれないし、周りの人に迷惑かけるし……

少なくとも、次に来る人が全く同じではないはずです。

そうだ! 気持ちを切り替えましょう! 倫太郎さんはしっかり埋葬して、新しい人を呼んでこよう!

そう思い、私が立ち上がった時でした。



「耳垢、障子、ボロクソ~ボロクソ~、バババババババーン」


「……」


「ユ~ラレンゲ、ユラレンゲ。もうね、ゴリマッチョ」



 ……ふと、私の後ろから、声が聞こえてきました。

ゆっくりと振り向くと、そこには――――――



「からい」


「……」



 ――――――無傷の、倫太郎さんが立っていました。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「すっぴろすっぽん! びよよよよ~ん!!!」


「……」


「あまだ、もれみそ。うううう、うううううううううう、ううううう!!!!!」


「……」


「! この本前に読んだ記憶がある。……ビール瓶? あ、マキアージュか」



 倫太郎さんは、虚空に向かって何か言っています。

目の焦点が合っているだけに、ちょっといつもより怖いです。

……まあ、気を取り直しましょう。

倫太郎さんは生きていましたので、このまま旅を続けます。

何故か倫太郎さん自身はおろか、盾や鎧でさえも全くの無傷でした。

でも、倫太郎さんは生きていたのでよしとしましょう。……よしとします。



「それにしても、暗い森ですね」


「ほうら、明るく、なったろう?」



 倫太郎さんはそう言って、指先から光を出します。

初級の光の魔術ですね。『道しるべの光』とか、そんな名前だったと思います。

ここは、任務で指定された場所です。ここにいる……巨大な魔物を討伐しろ、という命令だったはずです。

あ、そうだ。今思い出したので訪ねてみましょう。



「そういえば倫太郎さん、いつの間に魔術なんて使えるようになったんですか?」


「これはですねぇ、産業廃棄物の処理棟に設置されている二酸化塩素の報酬を三倍額でお譲りした自社生産の自信作、開放的な素晴らしいアズベラランプッチョでございます」


「……答えてくれないんですね」


「しょうがないでしょ? 使えるモンは使えるんだから。仕方ないね」


「……はぁ」



 まともに答えたであろう部分から推測するに、多分本人も何故使えるのかは分かっていないようですね。

ただ、なんとなくで使えるものではないと思いますので……やはり、この人は魔術の分野の天才なのは変わらないでしょう。



「申し上げません! えぇっ!? これは良好な反面教師。せっかくだから、一粒いただきましょう」


「……あ、もう一ついいですか?」


「アズドラベロン?」


「他にどんな魔法が使えるのか、見ておきたいんです。今のところ、この世界で言うエンチャントと身体強化、後は……近距離ではありますが、全方位への魔術的な攻撃、ぐらいしか見ていませんので」



 私がそう言うと、倫太郎さんはすっごいしかめっ面をしてこう言いました。



「当社にお任せください! 安心と信頼の実績! 値段もお手頃価格! 受付員数を増員してお待ちしております!」


「……では、やってみてください」


「とおいなぁ」



 倫太郎さんはポリポリと頭を掻きながら、片手を空中にかざします。



「みみんこ? 負けん気? マシュマロになっちゃえ~!!!」



 ……倫太郎さんが何か唱えましたが、何も起きませんでした。

辺りに気まずい空気が流れだします。



「……」


「……」


「躁鬱……アセロラ……」


「……」



 なんか言っていますが、何も起きていません。何も、起きていません。

多分、あの戦いの時は火事場の馬鹿力かなんかだったのでしょう。

普通の時には使えないのでしょう、多分。



「……進みましょうか」


「見てないの?」


「……はい?」


「それ」



 構わず先へ進もうとする私に、倫太郎さんは何か言って私を指さしました。

指さす方向を見ると……服、ですね。私の服に何かしたのでしょうか?



「……服、がどうかしましたか?」


「まあ、すぐにわかるよ」



 総倫太郎さんが言い切ったと同時に、その変化は訪れました。

まず、何かプチプチという音がし始めました。

それと同時に、少し息苦しいような、そんな感じがし始めます。

こ、これは一体……!?



「あ、あの、一体何を……」


「服、脱いどいた方が良いかもね」


「は、はぁ!? こんな、場所でですか? い、嫌ですよ! っていうか、一体何したんですか!?」


「あっそ」



 そう言うと、倫太郎さんはくるりと後ろを向きました。

そんな間にも、プチプチという音はどんどん多くなり、息苦しさも増していきます。



「……っ、い、いったい、何が……」



 そう思いながら、息苦しい部分のボタンをはずそうと服に手を掛けます。

……そこで初めて違和感の正体に気付きました。



「っ!?」



 その違和感の正体を確かめるべく、急いで服をまくります。

す、するとそこには……



「………………………………」



 元々この身体にあった、慎ましやかなモノは消え去り

代わりにたわわにぶら下がった果実(このからだのむね)がそこにありました。

なるほど、後ろを向いたのはこうなる事が分かっていたからなんですね……



「……倫太郎さん」


「おぺれけちょんぱぁ」


「元に戻してください」


「それは出来ん相談だなぁ」



 未だ後ろを向き続けている倫太郎さんの肩に、私は手を掛けます。

そして、あらん限りの力を込めて肩を掴み、再度尋ねます。



「元に、戻して?」


「ために、なったで、あろう?」


「戻せ」


「帰る」



 そう言うが早いか、倫太郎さんは信じられないほどの数の身体強化を瞬時に重ね掛けし、私の腕を振り切って凄まじい速さで森の中へと走っていきました。

当然、私のこの身体では覚えている身体強化を重ね掛けしたところで倫太郎さんには追い付けないでしょう。

………………

………………………………

………………………………………………………………………………………………

ホント、最低。



「はぁ……」



 しょうがないので、苦しくない程度に胸元のボタンを開けて私は再度服を着ます。

結果、聖職者ならぬ性職者のようなほど胸元を開けざるを得ませんでした。

これは倫太郎さんを早いとこ捕まえて、早急に戻してもらわねばなりませんね。そう、早急に。



「…………って!」



 いや、待て、違う! そうじゃない!

魔物の討伐は、倫太郎さんに課せられた任務なのに! あの人どっか行っちゃった!

うわぁあああ!? どうしよう!?



「り、倫太郎さん! ど、どこに行ったんですかぁ!?」



 私は森の中で叫びましたが、返事はなくただ私の声が反響するばかりでした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ……。



「はぁ……」



 どう、しましょう。どこにもいません。森の中を進んでみましたが、どこにも。

それどころか、迷っちゃいました。どうしよう。自衛は出来ますが、あまり長時間居たくはないですし……



「……! あれは……」



 それでも周囲を探していると、森の奥に何か光が見えました。

あれは、ひょっとして倫太郎さんの光でしょうか。

ダメもとですが、行ってみましょう。



「……」



 その光を追って走っていくと、途中で光は消えてしまいました。

しかし、追っていく途中で辿り着いたのは森の開けた場所でした。

そこは湖で、その周囲には湖を取り囲むかのように草が生えています。

ひょっとしたら、ここの付近を倫太郎さんが通るかもしれません。



「倫太郎さぁん! どこですかぁ!」



 そう湖に向かって私は叫びました。

しかし、しばらく待ちましたが、何の返事も聞こえてきません。

……この付近にはいないのでしょうか?



「……ここにもいないのかなぁ」


「ンベロベロバァ!」


「きゃぁ!?」



 突如後ろから聞こえてきた声に、私は思わず距離をとって振り向きます。

そこに居たのは……倫太郎さんでした。



「……居たなら返事してくださいよ!」


「三口径・ビビッと来てね」


「どうでもいいんで、早くこの胸を戻してください」


「んガガガアガガガアガガガアガガガ!? 私はこの高ぶりを抑えんといかんのですぅ! ヒィィハァァアアアアアア!!!」


「どうでもいいって言ってるでしょ!? 早く戻して!」


「あ! あそこにおわすは伝説のド・ラ・ゴ・ン! プゥルルルルルル↑ トゥルン↓と飲み込め!」



 倫太郎さんはそう言うと、拳にかなりの魔力を収束させて湖に放ちました。

撃ち込まれた魔力の弾は湖に入ってしばらくすると、とんでもない爆発を起こして水を四方八方にまき散らしました。

さながら、短めのスコールのようです。



「……あの、びしょびしょなんですけど」


「今僕ちゃんの視界に入らないで。濡れ透けだから」


「はぁ? …………!!」



 そう言われて、自分の姿を再度見ます。

……、まあ、当たり前なんですけどね。服って濡れると多少なりと透けるものもあるんですよね。

あはは、これじゃ聖女じゃなくって性女じゃないですかやだー。

…………もう、いい加減、あったまきました。どれほどまで人の尊厳を奪えば気が済むのでしょうか!

女神だから人じゃない? そんなの関係ありません!

私は倫太郎さんに素早く近づき、両手で胸ぐらをつかんで身体を下げさせます。



「も・ど・し・な・さ・い!」


「それは承諾しかねます」


()()()!!」



 顔を赤らめて目をそらす倫太郎さんに、私がそう言っていると

また湖の方から凄い爆発と水しぶきが飛んできました。

……これは、倫太郎さんじゃないですよね?



「騒がしい……人間風情が、我が眠りを妨げるか」



 そんな声が湖から聞こえてきました。

嫌な予感がして、そちらを向くとそこには――――――



「我が眠りを妨げた事、後悔させてくれよう」



――――――大きな竜が、そこに居ました。

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