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第五話 初戦闘(女神の道行は遠い)



「日本酒うめぇ! 歯牙でもねぇ! 未熟者でぇ! パンポコケャ!」


「あの、王様から言われてましたよね? 装備を整えろって。そのためのお金ですし、鎧だって買った方が……」


「鎧ィ~? 盾があれば何でもできる、そんなもの要らねぇ! 私服でええ! なんたって、僕の盾は最強なんだ!」


「……」



 私、アウレは少し困っています。

場所は城下町。時は勇者召喚の儀より一時間ほど後の事。

私と倫太郎さんは城下町にて必要な装備を整えたのち、勇者としての力を見せてもらうという理由である村にいる魔物を倒してきてもらうという任務を負っています。

しかし、そんな大変な事を前にしても倫太郎さんは先ほどからこのように言って必要な装備を全く買おうとはしないのです。

それどころか、盾のみにひたすら興味を向けられるていて、他の物には目もくれていません。

盾以外にも必要な物がある事を知ってもらわなくてはいけないんです。いけないんですけど……



「ママァ、何あの人? 変な人~」


「シッ! 見ちゃいけません」


「聖女様が付いてるって事は、偉い人なんだろうが……聖女様もお気の毒に……」


「なあ、あの男、薬物でもヤッてんじゃねぇか?」


「可哀想に……我が主、女神アウレ様。どうか彼の生きる道に幸を……」



 私がアウレなんですけどね。もうやだこんなの……

ああ、でもこの肉体は確かに別の人のものですね。私本人ではないです。

名前は確か、レイラさんでしたね。……なんだか、とても愛されてそうな名前ですね。

まあ、でも今はそんな事より……



「ああっ! びゃあ! dfjhsどヴぃsdヴぃあs! 盾! 盾です!」



 そう言って、もう何度目かは分かりませんが倫太郎さんは一目散に武器屋へと走っていきました。

……もう、こっそり帰っていいかなぁ……ダメだよねぇ……




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




――――――とある武器屋にて。



「盾! 盾! こっからここまで、ぜぇんぶ、ほちい! うぅ~、えいっ!」


「そんなに持ってどうするんですか……すみません、ご迷惑をおかけしまして」


「……聖女様も大変なんだな。まあ、頑張んな」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




――――――とある防具屋にて。



「盾は、武器だルォォォオオオオオ!?!?!!?!? 分かってんのかてめぇよぉ!!!! さては盾アンチなんだろ!? そうなんだろ、なぁ!! 盾はァ! 武器ィ!!!!!!」


「ヒィ! そ、そう言われましても……」


「盾はなぁ、まごう事無き武器なんだよお前さん。分かっておられますか店員さん? 盾はねぇ、殴る事も体重を乗せてタックルする事も出来る防御も他の武器に比べてしやすい防犯対策にも使われるいわば万能武器! そう、武器! 武器なんですよ! みんなどいつもこいつもやれ盾は防具だのやれ盾は装飾品だの、お前ら頭の中に脳みその代わりに豆腐の搾りかすでも入ってるんちゃうか!? あ゛!? おまけにテーブルにもなるんやぞ! 弾除けだけだと思うなよ! 盾の裏に催涙スプレーや伸縮可能な警棒、その他お金や物を入れておくスペースもある! はるか昔の時代じゃあ、盾は他の武器とも一緒に使われてた事からもその有用性かつ汎用性がよみとれますことでしょぉおおおおおお!!?!? 分からんのですか!? 私は知っている、知っておるぞぉおおおおおお!!! 盾が無ければ戦いの有利不利にも響くレベルだったのですからなぁああああああ!! テ ス ト ゥ ー ド っ て 知 っ て る ? 盾壁だよぉおおおおおおおおおお!!!」


「も、もうそこらへんにしてください! 本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




――――――道具屋にて。



「店員さん、入りましたよ。お元気ですね」


「えっ? あ、いらっしゃいませ! お好きな物を選んでくださ」


「めちゃんこアイスバーの正面突破がね、小学三年で五の四三二一で境界線のヴァイオリンの音色の如く、信じられない狂信の導きがァ、丁度果てなき分け目にある九十度のおばあちゃぁああああああああん!!!!!! いやぁああああああああ!!!!」


「……」


「申し訳ありません! 申し訳ありません! 本当にすみませんでしたぁ!!!!」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




――――――そして、いま、やっとわたしたちはそうびをととのえてじょうへきのそとにたどりつきました。

ここがすたーとらいんです。やっと、やっとすたーとらいんにたてました。

ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!



「ドッチャドドッチャッ! ドッチャドドッチャッ! ドッチャドドッチャッ! ドッチャドドッチャッ!」



 ……う、うぅ……、う、うぅぅ……



「右を見ながら、左を見る。意味はお分かりか? 早速実践しますね。…………ンアァァァアアアアアアア! 目がァァアアアアア!!! 目がァァアアアアアア!!!」



 うぅ、うぅぅぅ、うううううぅ……



「天☆然☆朝☆日!」


「うわぁぁぁあああああああああん!!」


「!?」



 勇者さんがこちらへ顔を近づけて真顔でそんな事を言ったから、涙が抑えきれなくなりました。

もういや! なんなんの!? 本当に、勇者に選ばなきゃよかった! ふざけないでよぉ! もうやだ!



「もう、やだぁぁあああああああ!! こんなに頑張ってるのに! なんで歩み寄ってきてくれないのぉ!

普通にしゃべれるのにぃ! なんで!? ねぇ、なんでぇ! なんでよぉ!!! なんでなのぉ!?!?!?」


「……いがぐり? そこから注文書?」


「んああああああああああああああああ!!!」


「……脱糞ですか?」


「あああああああああああああああああああああああ!!!!」


「脱糞ですねぇ、これは」


「た゛れ゛か゛ぁ゛、た゛す゛け゛て゛ぇ゛!!」


「ダメです」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



 私はもうあらん限りの声で泣き続けました。

だって、私だって、女神と言えど女の子だもん。涙くらい出るもん。

しかし、私は軽率でした。ここは外だという事をすっかり忘れてしまっていたのです。



「!!」



 突如、倫太郎さんが私に突進をしてきました。

そのまま倫太郎さんに抱えられたまま私は、倫太郎さんと一緒にゴロゴロ転がります。



「ッ! な、何するんですか……」


「敵だ! 上から赤い扉が来るぞ、せっかくだから!」



 倫太郎さんの言葉は相変わらず意味不明でしたが、言わんとしてる事は分かりました。

私が先ほどまでいた場所には、何かが立っていましたから。

それは……



「ゴブリン? しかし、一体だけですね」


「おっ? スレイヤーになる? スレイヤーになる?」


「まあ、よく見る魔物ですよね……」


盾魂(たてだましい)を見せてやる! この盾の、くそみそにしてくれる!」



 倫太郎さんは、そう言って盾を構えました。

もう先ほどまでの格好とは違い、倫太郎さんは軽装ながらきちんとした装備をしています。

……武器を除いて。っていうか、やはり両手とも盾でした。

左手には中盾を着け、右手には身体ほどの大きさも有ろうかというほどの大盾を持っています。

っていうか、言いましたよね!? 武器はほかにもあるって! ああ、もう! 今更言ってもしょうがないですよね!



「……仕方ありません、倫太郎さんは下がってい」


「おんどりゃぁああああああああ!!!」


「えぇえええええええ!!!!」



 私の制止を聞かずに、倫太郎さんはまっすぐそのゴブリンに突っ込んでいきました。

っていうか、速ッ!? なんで、あんな速度……! この感じは、身体強化系の魔術!

教えてもいないのに、どうして……おまけに、あんな上位のものを……



「グギッ? グギギ?」


「壁のシミ数えてる間に終わるさ」


「ッ!? ギ、」



 そうして倫太郎さんは右手の大盾を加速した勢いのままゴブリンに叩きつけます。

その盾には、かなり強力なエンチャントがかかっていました。あれ? いつ覚えたんでしょう?

 そんな盾で叩きつけられたゴブリンははるか後方に吹っ飛んでいき、一度も地に着く事無く、近くの木に叩きつけられてしまいました。

頭が潰れていますし、身体もぺちゃんこで全く動きませんし……確認するまでもなく、死にましたねあれは。



「こんなもんよ! やるでしょ? 戦いは全て根幹に根差している、当然の事。貴様がいるから、この世界から争いが無くならないんだ!」


「でも、ちょっとやりすぎな気もします……」



 勝負は確かに倫太郎さんの圧勝でした。瞬殺ですし。

しかし、あそこまで、しかもゴブリン一体に使うようなものじゃありませんし……

けれど、その次の瞬間にそんな考え事をしている余裕はなくなりました。



「グ、グギギ!!」


「グガァ!」


「グゴググググ!」


「ガァ!!!!」



 近くの草むらから、隠れていたであろう数匹のゴブリンが現れました。

わざわざ説明するまでもなく、その顔は仲間を殺された事に対する怒りに染まっています。

……ここからは、私も、



「ちぇぇえぇええええええすとぉぉおおおおおお!!!」



 ――――――そんな私の意志を無視するかのように、弾丸のような速さで倫太郎さんはゴブリン達に突っ込んでいきました。

ああ、もう……私、遠距離攻撃しかないんですよ!? 当たったらどうする気なんですか!?



「ギ!?」


「ヒィィ、ハァァアアアアアア!!!」



 倫太郎さんは盾で攻撃を防ぎながら反撃していきます。

しかし、相手も先ほどのような奇襲でもなければ一撃でやられるような真似はしません。

数の有利を差し引いても倫太郎さんが有利ではありますが、このままでは時間がかかるでしょう。

――――――しかし、私は忘れていました。倫太郎さんが、頭がおかしい事に。



「うぜぇ……チェックポイントのリスト更新してやろうかぁ!」


「ギギィ!」


「そこまで言うならなぁ……その、便所の虫のクソにも匹敵する、お前たちにも死を迎えさせてやろう!」



 倫太郎さんはそう言ってその集団に囲まれるような位置に着きました。

な、何やってるんですかあの人は!?

それと同時に、倫太郎さんの身体の中で魔力が収束していくのを感じます。

こ、これは……!?



「「「ギガァ!!」」」



 ゴブリン達はこの好機を逃さず、各々の得物を振りかざして一斉に倫太郎さんに飛び掛かります。

それと同時に、倫太郎さんは大盾を地面に叩きつけました。



「死を受け入れたまえ! 誰だ!? もえろ! 不時着ッ!」



 倫太郎さんの言葉と共に、倫太郎さんを中心として光の爆発が起こりました。

その光は、見るも鮮やかな緑色で、倫太郎さんとゴブリン達を飲み込みました。

凄まじい光の奔流に、私は思わず目をつぶってしまいました……



「……」



 ………………………………、ど、どうなったんでしょう。

恐る恐る目を開けてみます。すると、そこは……



「……!!」



 小さなクレーターのような跡と、周囲に煙がいくつか立ち上っているのが見えました。

そこには、ゴブリン達の姿もなく――――――



「……倫太郎、さん?」



――――――倫太郎さんの姿もありませんでした。


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