第四話 最狂の勇者※アレックス視点
「くっ……」
俺以外の者に連れて行かれる勇者は、先ほどとは違い狂った言動はそのままであれど
周囲の者の言葉を聞き、素直に従って神殿から出ていく。
確かに、あれは普通の者ではないだろう。
曲がりなりにも、王国騎士団の副団長ともあろう者が手も足も出なかったのだからな。
「……肩が痛むか、アレックス」
「ッ! 陛下、お見苦しい所を……これぐらい、なんて事はありません」
「……そうか。それでも痛むようならば医務室に連絡を入れておこう。痛みが引き次第、職務に励むがよい」
そう言って陛下もこの部屋を後になさろうとする。
しかし、無礼と言われようがここで聞かないわけにはいかない事があった。
「お待ちください、陛下」
「……どうした?」
「何故、あのような狂人風情に、この国の行く末を任せるのですか! 陛下があのような者に、頭を下げるなど……!」
陛下の側近が俺の言動を咎めようと近づくのを陛下が手で制しなさった。
「……言いたい事はよく分かる。アレックス。だがな、あの者はそなたを一蹴し、宮廷魔術師にして稀代の天才と謳われたあのローザにでさえ杖を使わせた。この意味が分からぬわけではあるまい」
「……ッ! ですがッ!」
俺は声を荒げずにはいられなかった。確かに、ローザは強い。
この国に魔術師は数いるが、あの者の強さは恐らくトップクラスだろう。
そのローザに、魔力の消費を抑えかつ魔術の威力を増幅させる、杖を使わせる事がどんな意味かは分からないわけではない。
そも、杖という物は魔術師が未熟な時か今の自身の実力では万全に事に当たれないと自覚した時のいずれかの時に使うものであるという。
ローザは、断じて未熟な魔術師ではない。となれば、必然的に後者だろう。
「力の証明は充分であったろう? それに、もう皆も待てんのだ」
「……」
「王都周辺は良い。騎士団の者達のみならずこの宮廷には魔術師も、優れた鍛冶師も、豊富な資源もある。だがな、それで守れるのはこの周辺だけなのだ。それより先には手が届いておらん。ひとえに、わしの力不足ゆえだ」
「! そ、そのような事は……」
「それに、だ。此度のような勇者召喚の儀は一度や二度ではない。何度も行われておる。失敗も数知れぬ。そのうえで、かの魔王を倒しうる力は我々の国にはない。理解してくれるな、アレックス」
「……」
俺は黙って頭を下げた。陛下にこのような事を言わせてしまうなど、無礼もいいところ。騎士団の恥さらしであろう。
しかし、気持ちが沈んでいく俺に陛下はこう言ってくださった。
「とはいえ、私とて勇者を無条件に信用するわけではない。そこは見定めなくてはならない。民のため、ひいては国のために」
「……」
「故に、勇者としての力を見せてもらう事にしたのだ。その力が、勇者に値するとした時に初めて勇者とするのだ。……良いな、アレックス?」
「! ハッ!」
「では、療養中の団長にもよく伝えておいてくれるな? 頼んだぞ」
そう言って立ち去る陛下を、今度こそ俺は見送った。




