表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/42

第三十七話 魔王軍、起動! おっぴょ~♡

 倫太郎さんの、魔王討伐の発表の翌日。時刻は昼過ぎほどでしょうか。

 あの後私たちは王城に泊まるように言われました。なんでも、方針を決めた後に素早く伝達するためだそうです。



「……」



 ジョージさんは所用で朝からおらず、倫太郎さんは買い物と準備との事でアオさんと外に出ています。今この部屋には私一人です。

 また私だけ……デジャヴを感じる。



「……」



 私はその間、倫太郎さんの事を考えていました。

 いくらなんでも、倫太郎さん一人では魔王を討伐する事は不可能に近い事です。もちろん、私たちが付いていますし可能な限り協力はしますからそんな事にはさせませんが、魔王相手にきちんとした「戦い」になるのは恐らく倫太郎だけです。

 現状では、倫太郎さんの実力は……かなり強い部類ですが、魔王相手となれば話は別です。劣勢になるであろうことは避けられません。

 それでも本人がやると言うからには私が止める事は筋違いでしょう。尤も、出来る手段があるうえでの話ですが。

 とはいえ、そんな方法が果たしてあるんでしょうか……



「……ん?」



 そんな事を思いながら窓を見ていると、城外が騒がしくなっている事に気付きました。

 外で人だかりができています。何かあったのでしょうか?



「……どうしたんでしょうか?」



 そう思って部屋から出ようとした時に、急にこの部屋のドアが開け放たれました。

 驚きはしましたが、入って来たのはジョージさんでした。



「ジョ、ジョージさん? どうしたんですか、そんなに慌てて」


「レイラ様! ご無礼をお許しください! 勇者……リンタロウ殿はいらっしゃいませんか!」


「準備があると、今は王城の外ですが……どうかしたんですか?」


「っ! リンタロウ殿はいつお戻りに!?」


「分かりません。何かあったんですか?」



 そう言うと、ジョージさんは切らした息を整えてこう言いました。



「……、魔王の軍勢が、この国内の混乱に乗じてこちらに来ているのです」


「なんですって!?」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「……」


「……というわけですので、私は一般の冒険者に扮して軍へ加勢する事となりました。これはあくまでレイラ様とリンタロウ殿、そして湖の水神様へのみ伝えるように言われた事ですので、どうか他言無用でお願いします」



 今、国は頭脳となる人材が多く欠けています。当然いまだ混乱している地域の方が多いです。

 だというのに、こんな時に魔王軍が攻めてくるなんて……。それに、今回は四天王の残り二人がその魔物の軍を指揮しており、二手に分かれて攻めてきているとの事です。確かにこれは急務でしょう。

 ……ひょっとして、マントンの行動はこのためのものだったのでしょうか?



「……分かりました。倫太郎さんとアオさんにも帰ってきたら伝えておきます」


「申し訳ありません。よろしくお願いします」



 そう言ってジョージさんは慌しく部屋を出ていきました。

 倫太郎さんとアオさんが戻ったのは、その一時間後でした。



「……! 倫太郎さん! アオさん!」


「いま戻ったぞ。何やら騒がしいが何かあったかの?」


「あぼぎゃまきみきみかま~ん」



 帰ってきた二人に、事情を説明するとアオさんは顔を青くして唸りました。



「なんと……そんな事が起こっておったのか」


「ジョージさんは冒険者に交じって軍への加勢に行くと言っていました。私達もじきに動く事になるかと思います」


「……」



 倫太郎さんも私の説明を静かに聞いてくれています。

 私たちにも多分指示があるでしょうけれど、それでも勇者をどう動かすかは厳しいとジョージさんはおっしゃっていました。



「ただ、勇者を国の防衛としてここに残すか、攻められている地域に送るかで揉めているんだそうです」


「……難しい話じゃな、それは」


「はい。国は今混乱の最中にありますし、それを治める事も重要ですが魔王軍への対処も急務ですし……被害が出始めるのも時間の問題ですし」


「……」



 アオさんも倫太郎さんも、難しい顔をして俯いてしまいました。

 ……気持ちは分かります。これからの事や今の事を思うと憂鬱になってしまうのも無理はありません。

 とはいえ私たちが足踏みするわけにはいきません。



「後に私達にも指示が来るでしょう。それまではなるべく城内で待機としたいんです。どうでしょう?」


「わしは構わん」


「ぴゅーぴゅー、ぼぼぼぼぼぼぼんきーん」


「……ふむ、勇者もそれで構わんそうじゃがその前にレイラと二人で話したい事があるそうじゃ」


「? それは構いませんけど」



 倫太郎さんが話、ですか。倫太郎さんは真剣な表情でこちらを見つめてきてます。そうまじまじと見られるとちょっと照れますね。

 とはいえ話自体は構いませんが、二人きりだと話が出来ないと思うんですが……



「でも、私はアオさんの翻訳なしでは倫太郎さんの言葉が全部は分かりませんし……」


「……それもそうじゃな。勇者、どうする気じゃ? 筆談でもするのかの?」


「アンガーアンガー、小癪な真似をする奴の口の中一杯にコインを詰め込んでやれ」


「……問題はないそうじゃな。二人きりで、が望ましいらしいの」


「倫太郎さんがそう言うなら……」



 倫太郎さんは確信をもってアオさんに伝えていました。伝えること自体には問題が無いのでしょう。

 倫太郎さんが話したい内容は……まあ、おおよそ見当はつきますが。



「話す時は、今夜にすると言っておる。レイラ、よいな?」


「はい。ではまたその時に」



 そうして二人は部屋をあとにしました。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 その夜。

 約束の時間になるまでに私が城内の方に色々聞いて回ったところ、どうやら明日にやってもらう事を倫太郎さんへ伝えるそうです。

 つまり明日以降は残るにせよ向かうにせよ、気を引き締めなくてはなりません。



「……遅いですね」



 ……そんな事を思いながら待っていましたが、倫太郎さんは中々来ませんね。

 夜との事だったのですが、そろそろ深夜になってしまいます。



「ふぁ……」



 時間を意識したらなんだか眠くなってきました。普段ならもうとっくに寝ている時間ですし。



「うぅん……」



 な、なんだか途轍もなく睡魔が強くなってきます。これは、まずい。

 ま、まだ倫太郎さんが来ていないのに……こ、このままでは……



「だ、だめ……寝ちゃう……」



 半ば……意識が…………だめ………ね、ちゃう……

 う、ぅ…………っ……………………



「スヤァ……」



 私の、起きていた時の記憶はそこで途切れています。

 はい、私は寝てしまったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ