第三十四話 接続 ※視点混合
「倫太郎さぁぁああああん!!!」
最早動けない倫太郎さんへ、破壊の化身ともいえる魔力の塊が降り注ぎます。
私の叫びも空しく、倫太郎さんは、マントンの魔術によって……
いや、そんなのいやだぁ! 倫太郎さん! 倫太郎さぁん!
「……何?」
「……えっ?」
突然、倫太郎さんへと向かっていた魔力の塊が霧散して消えました。
一体、一体何が……
「……」
いつの間にか、倫太郎さんが不自然な恰好で立ち上がっています。
まるで操り人形のように、吊り下げられているかのように、明らかに不自然な立ち方です。
そのうえで、手のひらを前に突き出しています。
まさか、倫太郎さんがマントンの魔術をかき消した……?
「お前……」
「……まだ、……」
倫太郎さんの口から、言葉が漏れています。
……いえ、流暢にはっきりとした口調で倫太郎さんは何かを言っています。これは……
「まだ、まけられない。しねない。だから……」
「……お前は……!」
「ごめんね」
「なんなんだ、それは!?」
倫太郎さんの目の前には、何やら透明な壁のようなものがうっすら見えます。どうやらあれでマントンの攻撃を防いだようです。
しかし、あれからは魔力が感じられません。一体あれは……
「――――――権能、起動」
「っちぃ!」
マントンは高威力の魔弾やをこれでもかと打ち込みますが、壁は全く消えません。
その透明な壁の内側で倫太郎さんが何かを唱えています。今までのような狂った口調ではなく、息も絶え絶えな様子さえも感じません。
「赤き焦燥に招かれて、青き衝動に導かれて」
「くそが!」
「それでも選ぶは尊き緑」
「何なんだお前! どうして、お前が!」
「私が纏う衣こそ、調和の証たる緑の印」
「お前は勇者のはずだろ! なんで!」
先ほどまで言葉一つ発するのさえ難しかったであろう倫太郎さんは、驚くほど滑らかに、淀みなくスラスラと、何かを詠唱しているようです。
しかし、魔術ではないようです。魔力が集まっていません。一体、一体何を……
「調和たれ、調和たれ。私こそ、ああ私こそが――――――」
「お前は――――――」
その時私は気づきました。気付いてしまいました。倫太郎さんの傷が治っていっている事。そして、倫太郎さんの声が、いえ声は倫太郎さんのもののはずなのに――――――
「――――――『存在』の証明である」
「一体誰なんだ!」
――――――その声は、倫太郎さんのものではないと、そう確信できてしまった事に。
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わしらはどこへとも知れぬ場所へ飛ばされたのち、そこがわしらの死地になるかもしれぬと思わずにはいられなんだ。
「くぅ、こんな事……!」
最早生きておるのはわしとジョージ、そしてあの場にいた人間がいくらかと人間の王のみじゃ。
「ハッハァ! 人間風情がいい気味よ! ガルドーザ様の仇!」
囲まれて、一方的に嬲られる。そうなる前にとわしは竜へと戻って何人か掴めるだけ掴んで空を飛び、何とかここまで逃げておる。
後ろからは、魔術による攻撃がわしの方へと向かってきておる。
躱しながらここまで来たが、一体どうすればよいのやら……
「ぐぅ……」
この人間の王は、怪我を負っておる。本当なら地上に降りて治療すべきではあるのじゃが……今の状況では降りる場所はおろか、降りる事すらままならん。
救援を望もうにも、勇者はマントンの相手をしとるじゃろうし……ここにわしらがおる事を知っておる者はどれだけいるか。
「っ!」
そんな事を考えておったら、飛んできた魔術がわしの背中に命中しおった。
く、後ろに目があればの……!
「ぐぅ!」
僅かに崩れた体勢を狙って、ここぞとばかりに大量の魔術が撃ち込まれる。
わしも、いよいよ年貢の納め時かの……
「……っ! あ、アオさん!」
ジョージがこちらに泣いて縋りつきよる。全く、泣きたいのはこちらじゃというに。
ああ、長い道のりじゃったの……
そう、わしが諦めかけた時じゃった。
「ハロー? こんにちは! 大丈夫?」
背筋に怖気が走ると同時に、そちらを反射的に見た。
そこには――――――
「大丈夫? 大丈夫! 後は僕に任せてね!」
――――――勇者、じゃった。いや、確かに勇者じゃった。
勇者は、わしと並んで飛行しておった。恐らくは魔術じゃろう。
勇者はわしに一言挨拶すると、そのまま後ろの魔物の群れの方へと飛んで行ってしもうた。
確かに、確かに勇者じゃった。じゃが、じゃが……
「ゆ、勇者殿……?」
あれは、勇者ではない。なんじゃあれは。
あんな、悍ましい、緑の気は、一体、
「くっ……!」
わしは飛んで逃げた。力の続く限り。
しかし、それは後ろも魔物たちから逃げたのか、それとも勇者から逃げたのか。
わしには、分からなくなっておった。
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「……」
私達は、今王城の前に居ます。
そこには、国王陛下、ジョージさん、アオさんとそれから会議に居た方……全員ではありませんが。
どうやらアオさんたちはあの後魔王軍から必死に逃げていたようで、そこを倫太郎さんに助けられたのだそうです。……そして、そして当の倫太郎さんは
「ぼほんこる?」
……皆を助けた後、ここまで皆を転移させてくれました。
言葉は……はい、いつも通りに戻っているっぽいですね。はい。
「勇者殿……かたじけない。この度の不祥事は全て私の責任……。だが、まずは勇者殿へ感謝を」
「ももう、かんぽきん等の健やかなる発展に根差しまして、つきましてはおおきな桃と信じられないような願わくば……」
「……」
元に、戻っています、よね?
あれは、あれはいったい何だったんでしょうか……。
「……のう、レイラ」
私が、そう考えていると隣にいたアオさんがこちらに話しかけてきました。
「レイラ、勇者の事なんじゃが……」
「はい……」
「……わしの記憶が正しければ、勇者はマントンの相手をする事になったはず。違うか?」
「それは確かに」
相手、というよりはかなり一方的なものでしたが……ですが、倫太郎さんは私を守って戦ってくれました。これは嘘じゃありません。
「ならば、その時から既におかしくなっておったかの?」
「……いえ……」
アオさんの言うおかしくなった、とは恐らく途中からの倫太郎さんの様子の事でしょう。
マントンとの戦いの途中、倫太郎さんは何やら詠唱のようなものを唱えてそのままあんな感じになってしまいましたし……
「恐らく、マントンとの戦いの最中にあのような感じに……」
「……そう言えば、マントンはどうした?」
……やっぱり、そこも言わなくちゃいけませんよね。
「倫太郎さんが、その、倒しました」
「……それは、」
「はい。おかしくなってから、です」
倫太郎さんは、おかしくなった直後にマントン掴みかかって、そのまま……
「倫太郎さんがマントンさんに掴みかかって……それで……」
「それで? どうやって倒したんじゃ?」
……信じてもらえないかもしれませんが、そのまま言いましょう。
「マントンが、爆発したんです」
「は?」
「ぐちゃぐちゃに、その、飛び散って、それで……でも何が起こったのか全然分かんなくて……」
魔力は、感じませんでした。でも、マントンの身体は、まるで体内に爆薬でも仕込んであったかのように飛び散ってしまったんです。……あんなの、人の死に方じゃ……
「肉が、べちゃって……う、うっぷ……」
「む、すまぬすまぬ! 思い出すのが苦であるならば、思い出さずとも良いわ」
「うぅ……はい。で、その後に、アオさんを助けに行くからここで待ってて、と王城の外へ……」
「……そう、か」
アオさんは眉間にしわを寄せて、何か考え始めてしまいました。
「……倫太郎さん」
私は倫太郎さんの方を見ます。今は、ジョージさんが倫太郎さんに感謝の意を述べているところです。
倫太郎さんの言葉の意味は分かりませんが、ジョージさんが握手しようと差し出した手を舐りなめているところから、恐らく感謝の意は伝わっているのでしょう。
でも……
「倫太郎さん……」
倫太郎さんは、どうしてしまったのでしょうか……。




