第三十一話 一☆転☆攻☆勢
――――――翌日、会議の行われるその日。
私と倫太郎さん、アオさんにジョージさんはその会議の行われる場所へと向かっていました。
その名も会議室。そのまんまですね。
「……」
私達が部屋の前に着くと、部屋の見張りであろう騎士の方にドアを開けてもらって中へと入りました。
……私たちは椅子へと座りに行きます。……大丈夫です。きちんと上座や下座については倫太郎さんにも教えておきましたし。
「もぃでもいいですか?」
倫太郎さんはきちんと間違えずに座ってくれました。良かった……!
それぞれが所定の位置に着いた後、しばらく待っていると色々な方が入ってきました。
どの方も、この国の色々な分野、土地を治めてらっしゃる方です。
そして、その方たちに仕えている騎士の方たちも入ってきました。……なんだか緊張してきました!
「……うむ、すまない」
「それでは失礼します」
そして最後に入ってきたのは王様と、今回の会議のきっかけとなったエバンさんです。
「ではエバン。よろしく頼むぞ」
「はい、お任せください。……この度は、お集まりいただき誠にありがとうございます。ではこれより、会議の方を始めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
エバンさんはそう言うと、こちらに向かって一礼します。
席に着いた皆さんは、皆真剣な眼差しでエバンさんを見つめています。
「エバンさん。今回は最近妙な行動を起こしている魔王軍に対する会議と聞いてきたのだが、間違いはないかい?」
「はい、その通りでございます。人類にあだなす魔王が、ここのところ奇妙な動きを見せております。それに対する私の見解、そして得られた重大な情報、それらを皆様方に申し上げるべくこの会議を開かせていただいた所存であります」
一人の貴族の質問にエバンさんは額の汗を拭いながら受け答えしています。
「とはいえエバンさん。貴方は戦に関しては余り関わってこなかったじゃありませんか。その情報、戦に関わる事なのでしょう? 情報はともかく、貴方の見解は場を混乱させるだけのものではないと言い切れるのですかね?」
先ほどとは違う方が意地の悪い質問を飛ばしています。
エバンさんは再度汗を拭いながら、しかし真剣な表情で言葉を続けます。
「おっしゃる通り、私は戦に関しては素人に毛が生えた程度。しかし無知ではありませぬ。また、今回の一件には……王国の危機、ひいては国王陛下も深く関わってしまう代物なのです。場合によっては……その命でさえも」
「それはそれは……随分大きな事柄なのですな」
「ええ。故に、この度の会議はただの情報のやり取りではすみませぬ。ここにいらっしゃる皆様方、どうか無為な他言は避けてくださいますようお願い申し上げます」
会議場の雰囲気が、エバンさんの言葉で更に重くなります。
……あ、なんだかちょっとトイレに行きたくなってきちゃいました。我慢我慢……。
そこまで話したところで、エバンさんは真剣な表情のまま懐から紙の束を取り出します。
「では本題に……と、その前に、忘れるところでありました。国王陛下?」
「ん? どうしたエバン?」
しかし、話を始めようとするそのタイミングでエバンさんは国王陛下に向き直ります。
国王陛下はエバンさんの方を向き、何かあったか尋ねました。
そして、エバンさんは、
「早速ですが、――――――死んじゃって~☆」
そう言った次の瞬間、目にも止まらぬ速さで国王陛下へとエバンさんは躍りかかります。
国王陛下へ、エバンさんの右手が触れる、次の瞬間!
「、おおっとぉ!」
「ペパーミントキャンデー!」
先ほどまで首をグルグル回していた勇者さんが、エバンさんと国王陛下の間に盾を滑りこませました。さっきまで持っていなかった事から、恐らくはあの空間の裂け目から取り出したのでしょう。
「何をするエバン! 血迷ったか!」
国王陛下がそう叫び、皆が席を立ってエバンさんから距離を置きます。それに伴い、御付きの騎士たちはそれぞれ己が主を守るために主の前へと出ます。
エバンさん……!? どうしちゃったんですか!?
「あーあ、エバン、エバンね。そんな奴もいたよね」
「何!?」
「エバンさんったら、僕がちょっと○○○を弄っただけで昇天しちゃったんだもん、困っちゃうよねぇ♡」
「き、貴様は……エバンではないな!」
そう国王陛下が叫ぶと、そのエバンさん? は高笑いを始めます。
「そうとも! そうともさ! 君らってホント馬鹿! 最初の時も、今もこうして! 成長しなよ! 使えば使うほどテクニックは加速するんだぞう!」
そう言って、エバンさん? は顔の皮膚を自分の両手で引き裂きました。
しかし、引き裂かれた皮から血は溢れる事無く、ただの被り物であったことが伺えます。
そして、中から姿を現したのは……!
「いっやっほう! 世界の生きとし生ける存在全てのおかずにして主食、マントンだよ~ん☆」
ふざけた姿をした人間、四天王の一人、マントンでした!
エバンさんは、一体どこに……
「貴様ぁ! エバンを何処へやった!」
「え? 死んでるに決まってるじゃん☆ それとも埋めた場所を教えてほしいの?」
「き、貴様ぁ……!」
国王陛下が怒りのあまり唸っています。
そこへ一人、マントンへと飛び掛かった人が居ました。それは……
「御前を荒らすとは……! マントン! 貴様どこまで人をコケにすれば気が済む!」
ジョージさんです。ジョージさんは剣を抜き放ち、そのままマントンへと飛び掛かっていったようです。
しかし、マントンはジョージさんの剣を片手でつまんで止めています。
「あれぇ!? ひょっとしてあなた騎士団長様ぁ!? いんやぁ、あんまりにお姿が変わっていたので気が付きませんでしたよ! 随分色っぽくなりましたねぇ! 奥様とは今もお盛んで?」
「貴様が言うかぁ!」
ジョージさんは足でマントンの鳩尾を蹴り上げます。
吹き飛ばされて壁にたたきつけられたマントンは、しかし全くの無傷で顔も余裕に満ちています。
「その様子だと、随分ご無沙汰って感じ? いんやぁ、駄目よ? 奥さん寝取られちゃうよ? 欲求不満なのは分かったけど、奥さんもそれは一緒、」
「殺す! 今! ここでぇ!」
ジョージさんは怒りに我を忘れてマントンに斬りかかります。
しかし、
「んもう、駄目だよ。僕は用事があってここに来たんだか、らぁ!」
「っか、はぁっ!?」
マントンが手から放った魔弾に吹き飛ばされ、今度はジョージさんが壁にたたきつけられました。
ジョージさんは凄まじい勢いで壁にたたきつけられ、そのまま気を失ってしまったようです。
「さぁて、皆々様? あ、ドアは今は開かないから無駄な努力はしない方がいいよ? 僕が用事があるのは勇者くんと聖女様だけなんだからぁ……ねぇ?」
その一言で、ジョージさんとマントンのやり取りの間に会議場から出ようとしていた人たちの動きが止まります。
マントンはそう言いながら、中指と親指を重ねて自身の前へと持ち上げます。
「さっきも言ったけど、僕が用事があるのは勇者くんと聖女様だけなんだからぁ……後の人はいいや。バッハハーイ☆」
マントンがそう言って指を鳴らしました。
次の瞬間、私と勇者さん意外、そうこの場にいた全員が、突然として消え去りました。
……これは、転移魔術……!
「はぁい、これで三人っきりだね……やっちゃう? やっちゃう? 三人でするプレイも中々いいと思うんだぼかぁ」
「ま、マントン……! ここの人たちを、どこへやったんですか!?」
「えぇ~? そこ気になるぅ~? 君らも大体わかるでしょ? どこに送られたか? そのための会議なんだから!」
「え? ……っ! ま、まさか!」
今回の議題は、平野に留まっている魔王軍の事……ま、まさか!
「そう、みんなあの平野の、魔王軍のど真ん中に落とされました! パチパチパチ!」
「な、何てこと! 早く助けに……『天よりの一撃』!」
「おっと」
私が壁を破ろうと魔術を放つと、それをマントンは同じく魔術によってかき消します。
その様を見て、マントンは再び高笑いを始めます。
「はっはっははぁ! 無駄だよ~ん☆ 悪いけどぉ、僕が満足するまではお二人には我慢していただきます♡ そう寸止めってやつさ!」
「くっ! 何のつもりですか! ここがどこか分かっているんですか! 大体、何であなたがここに……」
「それを今から話すのさ、聖女様。いや……」
そう言ってマントンは、下卑た笑いをやめました。
その顔は、見た事もないような顔をしていました。顔は無表情で、目はこちらを射殺すかのような、深い憎悪に満ちています。
これは……いつもと様子が違う!
「女神様?」
「!」
「ようやく、ようやく待ち望んだ場面なんだ。逃がさんよ?」
そう言って、マントンはゆっくりと、その憎悪に満ちた瞳のまま、ニタァと笑ったんです。




