第三十話 ペパーミントキャンディーってなんであんなに美味しいんでしょうか?
「……」
宿屋での盾尽くし事件から四日。
あれから私の方は何とか関係各所への挨拶回りは全て済ませる事が出来ました。
五日ほどですが、この利用した宿とも離れる事になりそうです。
「……はぁ」
アオさんは特にやる事もなく、倫太郎さんの翻訳のために王城へ向かうとき以外は自分の支度金で飲み食いしています。……そういう目的のものじゃないんだけどなぁ……。
ジョージさんは、知り合いに接するのはまずいという事で倫太郎さんについているか、私に付いているかのどちらかでしかありません。
そして、倫太郎さんは……、
「……一向に、教えてもらえないんですよねぇ……」
そう、私はやる事は大体済ませましたし、アオさんは基本的に倫太郎さんと一緒のとき以外は基本的に自由ですし、ジョージさんは身体の事情から知り合いに会うわけにはいきませんので私か倫太郎さんに付くぐらいです。
しかし、倫太郎さんは違います。
この国に未曽有の被害を齎した、四天王の最強格であるあのマントン。その相手に対する対策のためにしょっちゅう王城に出向いています。
四天王や魔王の所在地ももちろんの事なのですが、主としては対策がしづらいマントンへの対策を話し合っているのだそうです。
でも、一人で実行するという理由から私には、その内容は伝えられていません。同席しているジョージさんやアオさんも、口が堅くて教えてはくれませんでした。
そんなことされると余計に気になっちゃいますよぉ……一人だけ知らないなんてぇ……
「うーん……」
一応、今日の夕方にはこの宿を引き払うことになっています。それが済み次第、一度王城の方へ戻るのだそうです。
……それまで何してようかな。暇だなぁ。
「……聖書……」
一応、この国の聖書は持っています。聖女ですし。
でも、正直中身そっくり覚えてるくらいには読み込んでますし、暇つぶしにはならないでしょう。
でも、暇をつぶせるようなものって他には何も持っていませんし……ああ、本の一冊でも持ってきておけば……
……暇……気になる……
「はぁ……」
こんな感じで、私は今日を過ごしました。
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夕方、倫太郎さんとジョージさん、そしてアオさんが戻ってきてから私たちは王城へと向かいました。
まあ、倫太郎さんが転移の魔術を使ってくれましたので特に苦労は無かったんですが。
「さて……とりあえず、皆が集まったタイミングで伝えるように言われている事があります。どうか聞いてほしい」
場所は王城の一室。応接間の一つですね。
そこに私たちが来たタイミングで、ジョージさんがそう切り出しました。
「何ですかジョージさん?」
「今後の行動について話さなくてはいけない事があります。騎士団との打ち合わせもありましたし、勇者……リンタロウさんやアオさんにも話しておかなくてはいけない事です」
ジョージさんは一旦言葉を切りましたが、さらに続けます。
「……四天王のうち、マントン以外の者の動きが確認されたそうです」
「!」
「ふむ」
「ペパーミント」
「彼らはこの国から南の、国境にある平野に集まっているそうです。……騎士団で排除を試みたそうですが、まるで歯が立たなかったために撤退したそうです。その時に四天王と思しき者達を確認しました」
「それって、もしかして……」
「はい。エスペランザとローグです。エスペランザはともかく、ローグが動くのはかなり珍しい事です」
四天王の残り二人。『火のエスペランザ』と『岩のローグ』……! この時になって動き出すのはやはり……!
「勇者さんの動きに反応して……」
「十分考えられます。正直なところ、他にも理由は考えられるかもしれませんが……ただ、彼らはその平野に留まって全く動かないままなんです」
「動かない?」
「はい。微動だにせず、その平野の一画に留まっているだけなんです。攻撃を仕掛ければ反撃はするようですが、一定距離離れるとそれ以上は追撃してこないと。それ以外の事は全く不明で……」
「うーん、確かによく分からないですね……」
とはいえ留まり続けるには何か理由があるのでしょう。私も気になりはしますが、判明していないのなら私が考えてもしょうがありません。
「尤も、この国は魔王からの被害を受けている国の中では最も余力がありますし、力もあります。何より勇者……リンタロウさんもいらっしゃいますし、勝つ見込みは十分にあります。ただ……」
「意図が分からないのは怖いですよね」
「結局、そこに戻ってしまいまして……」
そう言ってジョージさんは項垂れます。……一体、相手は何を考えているのでしょうか。
「まあ、そう悪いニュースばかりでもありません。実はですね、今回の事に対し一つ重大な情報があると大臣のエバンさんから話をいただいたんです」
「エバンさん?」
パーティーで勇者さんと話していた大臣の方ですね。
でも、エバンさんは経済の方面では敏腕と伺っていましたが、争い事はあまり好きでも得意でもなかったような記憶が……。
「ええ。今回の事態に対してある情報とそれを踏まえたうえでの名案があるとの事で、様々な役職のトップの方々に集まっていただいたうえでその案に対する会議をするというのだそうです」
「エバンさんって、戦は得意でしたっけ?」
「……あまり記録自体ありませんでしたし、有ったものも……失礼を承知で言わせてもらえるのならあまり目立ったところはなく定石に則ったものである、と私は思います」
エバンさんも貴族ですし、私兵は持っているようですがあまり規模は大きくなかったと思います。
まあ彼の住んでいるところは比較的治安も良いですし、気候も住む人たちも穏やかな所だとは聞いていますし、仕方ない事でもありますが。
そもそも、戦いの記録自体があった事にちょっと驚いちゃいますね。
「とはいえ、私達の視点では予想もつかない事があったのかもしれませんし、案はともかく情報は気になります。そして、その会議というのが明日にあるのです」
「なるほど……」
「それ故に、今回の会議の後に私たちのおおよその行動が決まるとも言えます。心して参加しましょう」
そこまで言い切ったのちに、私とアオさんとジョージさんはお互いの顔を見合わせて頷き合います。
一方倫太郎さんは……
「ペパーミントキャンデーって、何でこんなに美味しいんだろうなぁ~。おいしいなぁおいしいなぁ」
「「「……」」」
テーブルの上に置かれていたガラスの入れ物から雨を取り出しては食べています。頬一杯に。入れ物の中はもう既に空に近い状態です。
「倫太郎さん……話、聞いてました?」
私が思わずそう尋ねてしまうと、倫太郎さんはくるっとこちらを向いてニコッと笑います。
そのため、頬に詰め込まれていた飴が少しこぼれてしまいました。
「聞いてたとも。甘い香りがするとか言いながら離れていこうとするクモのぬいぐるみのように、あしながおじさんのために今日も頑張りませう!」
「……話自体は聞いていた。明日の会議で対策について話し合うんでしょ、と言っておるの」
「……ならいいですけど」
本当に大丈夫でしょうか……。
まあ、ともかくこれからの事は明日になってからですね。気を引き締めて会議に臨みましょう!




