第二十五話 狂人(イカレちーの)VS変態(○○○で×××な△△△) 後編 ~君が知ってる世の情け……ない姿~
「アオさん……?」
アオさんはマントンを睨みつけています。その目には、恐ろしいまでの殺気が込められていました。
「まさか、魔王軍からの勧誘を断って人間側に着くなんて……まさか、これが流行りの寝取られ? ウッ……ふぅ」
「何やつかと思えば……かの『裏切りのマントン』じゃったとはな」
『裏切りのマントン』……前にマントンにつけられていた二つ名です。人類でありながら人類を裏切り、魔王側に着いた四天王として君臨した時につけられた名前。
あ、そういうことですか。アオさんは昔の知識しか知らないから『教育上、子供に見せられないヤバい奴マントン』に名前が変わった事を知らないんでしょう。二つ名が変わったのは最近ですし。
「ここで会ったが百年目……死んでもらうぞ、マントン!」
「ぬふぅ♡ 女の人から向けられる豚を見るような目ってたまりませんなぁ♡」
アオさんは尾をしならせ、地を蹴って飛び上がります。
対するマントンは下品な格好&ポーズで迎え撃ちます。
「去ねぃ!」
アオさんは凄まじい水の奔流、水のブレスをマントンに向かって放ちます。
しかし、
「愛撫にしては、ムードが足りません♡」
そのブレスは、マントンを左右に避けるように分かれて当たりません。
「なら、これならどうじゃ!」
アオさんは物凄い速さでマントンまで近づきつつ身を翻して、木をもへし折る威力の尾で滅多打ちにします。
ですがこれもまた、
「ん? これって、よく考えたら女の子からのヒップアタックって事だよね? 何? 僕の体力尽きるまで○○○を枯らそうとでもいうの? ん?」
並の人間ならば原形を留めていないであろう威力で滅多打ちにされたはずのマントンには傷一つなく、また空中でのその位置すら全く変わっていません。衝撃すら、何らかの手段で打ち消していると見えます。
これは……四天王最強というのは伊達ではない事を痛感させられますね。
「じゃあ、次は僕から……♡ 一☆転☆攻☆勢」
「っ!?」
次に動いたのはマントンでした。マントンは、数十もあろうかという魔力の弾を瞬時に空中に展開し、アオさんへと撃ちだします。
「猪口才な!」
対するアオさんは水のブレスで迫りくる魔力の弾を一掃します。幸い、魔力の弾はアオさんには当たりませんでしたが……
「い、いない!?」
「おのれ、どこじゃ!」
弾はブレスに当たると爆発し、その爆発の光に紛れてマントンの姿は見えなくなってしまいました。一体どこに……
「ここだよ子猫ちゃん♡ 今夜は離さないよ♡」
「っ!!」
直後に私の後ろから、マントンの囁き声が耳朶を打ちました。
振り返るとそこには、
「あっは~ん♡ My Love♡」
「ひぃやぁあああああああ!!!」
私を素っ裸で抱擁するマントンの姿が! って、いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃいいいいいいいい!!!
「天誅」
「お゛っほ゛♡」
汚い一声の後に、マントンは私から離れました。
急いで距離を取ってマントンを見ると、頭に盾のヘリがぶつけられていました。間違いなく倫太郎さんでしょう。
「んもう、勇者くんったらぁ♡ 嫉妬しなくても次は君なのにぃ♡ 次の番が待ちきれないのね♡ いいわ、お兄さんが愛して、あ・げ・る♡」
「お前は! ここにはあってはならぬ存在! かのハイパーメビウスにもそう書いてある! ここで裁きを下してくれる……!」
そう言って倫太郎さんは展開した八枚の盾と共にマントンへ再び殴り掛かります。
倫太郎さんは複数の盾を駆使して、マントンを直接盾で殴ったり、フリスビーのように盾を飛ばしたりしているようですが、やはりマントンに完全に防がれてしまいます。
「退くのじゃ、勇者!」
そうこうしていると、アオさんは再びマントンめがけてブレスを放ちました。
倫太郎さんは凄まじい反応速度でブレスを躱し、マントンには直撃しました。
しかし、やはり先ほどと同じようにマントンは無傷で水のブレスを受け切ってしまいました。
「くっ……!」
「あはは、無駄だよ。僕はエメトフィリアだから興奮はするけど、それだけじゃ達しないよ~ん☆ それに……」
竜のブレスを受けた後とは思えないような涼しい顔で、マントンは倫太郎さんや私の顔をぐるりと見渡します。
「真面目な話、この中で僕を相手に出来るだけのテクとモノ♂ を持っているのは勇者君だけ。君ら二人は手加減してもこれなんだから、もう少し自分の武器(意味深)を磨かないと明日はないゾ♡ こんな風に……」
そう言うと、マントンは上へと手をかざします。すると瞬時に、その手の中心へと膨大な魔力が収束していき――――――
「『地から離れられず』♡」
「ぐっ!?」
「ぐぁ!?!?」
「むぅん!」
凄まじい負荷、重さが突如として身体に降りかかりました。
あまりの重さに、二本足で立っていられずに地に四つん這いとなってしまいます。しかし、それでもまだ重い、苦しい……っ。これは、恐らく重力操作の、魔術……。
アオさんもたまらず墜落してしまいましたが、倫太郎さんだけは踏ん張って耐えているようです。
「ほら、みんながいやらしい獣みたいに四つん這いになってるのに、勇者君はピンピンのギンギンにそそり立っている♂ のがわかるでしょう? これが精力の差、いわば生死をかけた(意味深)戦いに参加できる資格♂ のある者なのさ……♡」
マントンの言葉の意味は分かりませんが、耐えられるのは倫太郎さんだけの様です。ですが、このままの状態はまずいような……
「そして、足を引っ張る者がいると……」
「っ!?」
マントンは重力操作をしたまま、私へと向かって魔弾を放とうとします。ま、まずい……!
「こうなってしまう。仕方ない事なんだね」
「!」
放たれた魔弾が私へとぶつかる直前、突如現れた大きな盾によってその魔弾は打ち払われて消えました。
そうです。この中で唯一、マントンの重力操作の中で問題なく動けた倫太郎さんだけが私への攻撃を防いでくれたのです。
「数ある対抗できる戦力が、弱い者を守らないといけなくなる。ふふっ、これがいわゆる介護プレイってやつかな? かわいいね♡」
「……」
「り、倫太郎さん……」
「でも倒れている仲間は二人いる。果たして、勇者一人で防ぎきれるものかな? 勇者のモノ♂ はひとつしかないんだよ?」
そう言ってマントンはアオさんの方を顎で差します。
アオさんは、どうやら頭から激突したようで気を失っているようです。確かに、あのままアオさんが狙われたらひとたまりもありません。
「俗にいう男の取り合い、修羅場だね。うんさいこう! ああ、いいものが見れたなぁ……たまらねぇよ……」
「ホホンホホホホホホン」
「ん? ……まあ、勇者君の言う事はちょっと分からないけど安心するといいよ。今日はもうこれ以上は何もしないから。前戯だけで終了とか、早すぎもいいところでしょ?」
そう言うと、マントンは不意に重力操作を解除しました。
一体、何故……? 私達を仕留めるチャンスじゃ……?
「どうして……私たちを倒すために来たんじゃ……」
「えっ? ああ違う違う。僕はね、今回はちょっと遊びに来ただけなんだ。これ以上やると魔王様にどやされちゃうかもしれないから、今日はここでお開き。まあ、ちょっとどころか大分、期待未満だったから白けたってのもあるけど」
「……っ! 逃がすと、思いますか?」
私は杖を身体の支えにしながら、ゆっくりと立ち上がります。
確かに私では実力不足ですが、それが四天王を逃がす理由にはなり得ません。四天王による被害はただでさえ他の魔物よりも甚大なもの。それにマントンは四天王の中で一番神出鬼没な存在とも言われています。ここで逃したら次は……
「逃げられるよ。君には僕のケツ♂ を追いかけるだけの力もないでしょ?」
「……っ、それは、」
「大体、僕に勝てないのに魔王様に勝てるわけ無いでしょ? あの人は超絶テクニシャンだよ☆ それに、近々残りの四天王も動き出すみたいだし……」
「っ!?」
マントンが今とんでもない事を、さらっと言ったように思います。
その事が事実なら、静かだった『岩のローグ』も動き出すって事に……
「それに、このまま戦っても勇者君が消耗するだけ。勇者君と一対一なら胸がドッキュン☆ するけど、君らが居たら正直萎えちゃう。萎え萎え。だからもう帰るってわけ。今後には期待してあげるから、そのたわわな果実を使いこなせるようにガンバ☆」
そう言うと、マントンの後ろに空間の裂け目のようなものが出現しました。恐らく転移の魔術の一種でしょう。
「じゃあね、勇者君と青い竜さん……と、」
マントンは私の方を向いて、
「女神様♡」
そう言葉を残して、マントンは自分の尻をぺチンと叩き、恍惚とした表情を浮かべて裂け目の中へと消えていきました。
その放たれた言葉の衝撃に、マントンの気持ち悪ささえも忘れ……る事は出来ませんでした。いややっぱ気持ち悪いものは気持ち悪いんです。




