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第二十一話 しらばっくれても無駄無駄無駄ぁ! あんたがやったっていう証拠はばっち②



 アオさんは私たちを一瞥して話し始めました。


「わしはな、まあお主らも知っての通り、ある湖に棲んでおった」


「それは聞いています」


「ぼほんて。きみがちょ」


「まさか、討伐対象になるとはの。して、その理由は知らん。なんせずっと寝ておったでの。なんでじゃ?」



 アオさんは首を横に振ります。……まあ、理由としては簡単なものですが。



「今ジェンキンス王国含めた周辺国は魔王軍による侵攻を受けています。これはご存知ですよね?」


「ああ、寝る前にもそんな話が有ったような気がするでの……それがどうしたのじゃ?」


「分かりませんか? 力のある湖の竜、それもかつて神とまで崇められていた存在。しかし、魔物です」


「まさか、それだけでかの?」


「いえ、具体的にはもう少し。その魔物は魔王側についているのかそうでないのかが分からず、また姿を現す事はありませんでした。そして、ギルドには、その、……本当に寝ていたんですよね?」


「……何かあったのかの?」


「実は、その湖の近くでやたらと嵐が起こるとか、落雷があるとか、……近くの川の氾濫などがあって、その時に竜の姿を見たという声が多く寄せられたんです。それに、天候に関わる魔術の痕跡も……」


「あり得ん! そんな無意味な事に労力など割くわけがなかろうが!」


「……結果として、天災を引き起こす竜として討伐依頼が出されたんです。関係ないのなら多分アオさん以外の誰かだと思うんですが……心当たりは?」


「……ない事もないがの」



 アオさんは悔しそうに顔を歪めています。その様子からは、とても嘘を吐いているようには見えません。



「また、倫太郎さんがアオさんを捕らえた日。あの日以降、魔術の気配がぱったりと無くなったんだそうです」


「な、なんじゃと!?」


「城を出る前にローザさんから伺いました。……そういう事もあってか、その、……」


「みなまで言うな。くっ……腹立たしいことこの上ない。何なんじゃ一体」



 アオさんは忌々しそうに床を殴ります。……まあそうですよね。

やったわけでもない濡れ衣で責められたなら、そりゃ我慢できませんよ。



「まあ、私はアオさんがそんな事をするとは思いませんし……私は味方ですよ」


「ボフォースフィロータタス剣と握手会」


「……すまんの、二人とも」



 多分、倫太郎さんも私と同じような事を言ったのでしょう。しかし、アオさんは少し元気をなくした様子です。……話は続けるべきでしょうか。



「アオさん、もし今日は気分が優れないのならもう……」


「いや、大丈夫。その濡れ衣を着せよった阿呆に、誰に喧嘩を売ったか思い知らせるまでよ」


「そ、そうですか……」


「して、どこまで話したか……というても、目が覚めてからはお主らと歩いた道のりしか知らん。となれば過去の話か」



 そう言うと、アオさんは少し遠い目をして懐かしむように話し始めました。



「わしはな、覚えとる限りでは四百年以上はわしは生きとる。まあ正確な年は知らんがの」



 そうして始まった話は、私たちの生まれるずっと昔の話でした。

今よりも技術が未発達の時代。魔術が今より少なかった時代。その頃に、アオさんは持てる力を使ってきまぐれにあちこちに雨を降らせていたそうです。

 そして雨に一喜一憂する人を見て楽しんでいたそうです。



「わしには、人が見ていて面白かったという面もあったんじゃろうな。無論、わしを打ち倒しに来た者もおった。その時には遠慮なく返り討ちにさせてもらったがの」



 そんな風にあちこちを回っていくうちに、あの湖にたどり着いたそうです。

 水の竜、という事もあってかアオさんは水場を好んでいたようで、海や川、湖なんかを中心として回る事が多かったようです。

 そして湖付近でしばらく暇つぶしをしていると、あの湖の付近に昔あった村でいつの間にか神様扱いされていたそうです。



「まあ、雨降らせるだけで神とはの。存外、悪い気はせなんだし、請われるまま雨を降らしておった」



 神と崇められ、捧げものもくれるのならと受け取り、雨だけでなく時には人の姿で人と触れ合う事もあったそうです。

 そんな彼女も、そこを拠点としつつもずっとそこに留まるわけではなく、ちょくちょく世界を飛び回って色んなものを見ていそうです。そして、そこで、



「今は四天王じゃったか。火山に住まう竜と会うての」



 はじめて似た種類のものを見つけて、彼女達は縄張り争い……という事もなく、意気投合してあちこちを一緒に飛び回ったそうです。

 基本的に争いというものは、竜はあまり行わないのだそうです。



「縄張り? 竜はあまりそう言った事は意識せんの。そんなもの気にするのは獣くらいじゃろう。あやつらは生きる事がわしらより大変じゃからの。つがいの話なら、また別じゃが」



 そうして、アオさんは時々村に戻り、時々は火山の竜とともに過ぎ行く時を謳歌する……と、そんな風に過ごしていたそうです。ところが、そんなある時に転機がアオさんに訪れます。



「あやつは、魔王と呼ばれるものに手を貸すと言ったのじゃ」



 魔王。古い時代からどこからか現れ、人類に害をなす相手。

現魔王は、魔王たちの中で一番長く活動をしている魔王ですね。

 生まれてからしばらくは何のアクションも起こさなかったそうですが、ここ十四、五年ほどから活動を活発にしだしたと記憶しています。

 その魔王に、アオさんと仲の良かった火山の竜が手を貸す事になったそうです。



「最初はの、特に人にあだなす真似はせんかった。じゃが、次第にやる事がな。わしも、長い事ひとところに追ったからじゃろうが人に情でも湧いたんじゃろうな。見ておれんようになっての。特に最近のは酷いもんじゃって。……わしのいた湖の近くの村は、その活動の飛び火を受けて消えてしもうた。守り切れんくての」


「それは……」


「あやつがやったわけではなかった。じゃがあやつもわしと同じくらいには人に興味があったはずじゃ。だというに、それでもそんな場所に居続けるあやつが、分からんようになってしまった。その時に袂を分かったわけじゃ。そしてその時に……」


「『何かあれば、友として、一度だけ馳せ参じよう。或いは、お主から会い来るというなら私の居場所を伝えよう』と、そうして一度だけあやつの場所が分かるようになったわけじゃ」


「……」


「まあ、それでここ十年程寝ておっての、叩き起こしたのがお主らというわけじゃ」



 アオさんがこちらを向きます。……なんだか、聞いても良かったんでしょうか……



「それは、その、えっと……大変、でしたね」


「ワイハー? さっきも言ったけどワイハーはねぇんだっての!」


「気を遣わずともよい。わしが勇者と共に行くのも、きっと何かの因果であろう。その火山の竜は、その時が来ればわしが相手をしよう」



 そう言ってアオさんの話は終わりました。……うう、空気が重いです。



「では……最後は勇者じゃったかの?」


「! そ、そうですね。倫太郎さんが最後ですね」


「ワイハー? ……ワイハーは無し。はい決まり。これでおしまい。いいね?」



 そう言いながら、倫太郎さんは照れ臭そうに頭を掻きます。最後は倫太郎さんの話、ですね。




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