第二十話 フリーズドライの食品ってすっげえよな。最後まで技術たっぷりだもんよ①
「さて……」
場所はゴザ村。所は、ゴザ村にある唯一の宿の一室。
あの後、なんでも妻を治してもらったお礼として宿屋の主人がここに格安で泊めてくれるという事で、お言葉に甘えて一室お借りしています。
「レイラ、話とはなんじゃ?」
「小県議会は当分掃除が済まないそうですが、時間というのは幽玄。すなわちおしゃぶり」
その部屋で、私はアオさんと倫太郎さんを集めてある事を話そうと思っています。
それは……
「皆さんに集まっていただいたのは、他でもありません」
「なんじゃ、改まって」
「ニーハイソックスの絶妙なライン」
「今回あつまっていただいたのは、今後に関してです」
ここで一度、私は言葉を切ります。
「まず、みなさんに伺いたいのは、私たちはお互いの事をどれだけ知っているかという事です」
「……そうじゃの。確かに、わしらは互いをよく知らんの」
「知ってるんだぞ。レイラのバストは今は106だぞ」
「ン゛ん゛!? ……コホン。とにかく、倫太郎さんは勇者としての使命もありますが、幸い倫太郎の活躍が予想以上のものであったために多めの休暇とお金をいただく事が出来ました」
私はそう言って、ヴァンダムさんから預かってきたお金の袋を見せます。
「初耳なんじゃが?」
「盾買いましょう盾」
「そりゃ、倫太郎さんは大臣さんや国王陛下と意思疎通が難しいですし、アオさんは使い魔という立ち位置ですし、大金を預けるわけにはいかなかったのでしょう」
「まあの。光り物にはとんと興味が湧かん」
「盾は?」
「それに、一応今後の予定も決まっているそうですのでそのために英気を養ってほしいそうです。そのための休暇ですね」
一応、伝えられたことの大事な点はそんなものだったと思います。
なので、これからの予定なのですが……
「なら、わしは自由にさせてもらおう。幸い、ここはわしの元居た場所にも近い。一度帰って様子が見たくてな」
「盾ェ……」
「盾は無しです。それと、アオさんにも一緒にやってもらいたい事があるのでそれが済んでからにしていただきます」
「……はぁ。そこまでしたい事とはなんじゃ?」
「ワイハー? だからワイハーは無いって」
よくぞ聞いてくれました! それでは、これからの私たちの旅に、いえ私たちの事を知るために大事な事をしていきます。その名も、
「自己紹介です!」
「は?」
「ヴェ!?」
二人は「何をいまさら」みたいな目をしていますが、関係ありません。
なんせ、私たちは互いの事をよく知らずここまで旅をしていたのですから!
「そもそも、倫太郎さんに関しては私は意思疎通が取れていないのでよくわからない事が多いんですよ」
「一理あるの」
「ヴェ!?」
「アオさんも、今でこそ倫太郎さんの使い魔という立ち位置ですけど、最初は討伐対象でしたし話し合う事も無かったですし」
「それは……まあ、の」
「ヴェ!?」
「それに、アオさんと話していて思いました。私たちはもっと絆を深め合うべきなんです。お互いの事を知らないのに、安心して背中を預けるのは難しいと思うんです」
よく考えてみれば、お互いの事がよく分かってないのにここまで来れた事が異常なんです。
四天王を討伐したりとか疫病の伝染を止めて治したり。殆ど倫太郎さんが規格外だからこそ何とかやってこれたようなものです。このままではいけません。
「それに、アオさんは倫太郎さんの言葉が分かるんですよね」
「そりゃあの」
「なのでこの機にお互いの事を深く知り合いたいと思います。異議のある方?」
全員を見渡すと、倫太郎さんがおずおずと言った感じで手を上げています。なんでしょうか?
「どうぞ、倫太郎さん」
「へべれけのおの、しだきたおす、みみうちかんけつちょうのまま」
「……アオさん、お願いします」
「それはこの場にいる全員か、と聞いておるの」
「もちろんです。仲間外れはいけません」
そう言って私は胸を張りました。その時にボタンが一つはじけ飛んでしまいました。
そのボタンは倫太郎さんの額に命中しました。……ああ、やっぱやだなこの胸。
「……と、とにかく! 全員です! 一人だけ逃げるっていうのは無しです!」
「だそうじゃの。……服、直さんで良いのか?」
「いいです! 後で直しますから! いいですか!?」
そう言って倫太郎さんを睨むと、倫太郎さんは少し悲しそうな顔をして手を二回叩きました。
「小沢、おいで」
そう言うと、私たちのいるスペースに突如空間の裂け目が出現し、中から小沢さんの首が出てきました。
「自己紹介」
「d使Hさdぃsh部sfh部位亜hbヴィ」
倫太郎さんの言葉を聞いた小沢さんは、口から得体のしれないスライムのような生き物を吐き出しました。……何が始まるんです?
「ぎぃぃぃぃいいいいいえゃいあああああああああああ!!! あああああああああああああああああ!ぢぅうううううういいいいおおおおおおおおんばさばぁくぁああああああああああああああああ! あかかかかかああああああああああああああああ」
そのスライムは出てきた直後からとんでもない叫び声をあげ始めました。
アオさんも私も、思わず耳を塞いでしまいます。
「なんですかこれぇ!?」
「自己紹介」
「やめさせてくださぁい!」
私が渾身の叫び声で倫太郎さんに伝えると、小沢さんはスライムを一飲みにし、再び空間の裂け目に帰っていきました。
つ、疲れた。とりあえず、小沢さんは無しにしましょう。
「……お、小沢さんは無しにします」
「じゃあ伊藤さん」
「っ! ああああ! もう! 小沢さんも伊藤さんも無しです! ここにいるアオさんと私と倫太郎さんだけです! いいですね!?」
私はあらん限りの力を込めてそう叫びます。すると、倫太郎さんは少し驚いたようにしながら頷いてくれました。よし、もう大丈夫。もう不確定要素は来ないんだ。うん、落ち着け私。
「……のう、レイラ」
「はぁはぁ。はい?」
「少し、落ち着こうぞ?」
「……ですね。失礼しました」
私は軽く深呼吸をして、二人に向き直ります。
「それでは気を取り直して、まずは言い出しっぺなので私から話したいと思います。まずは――――――」
話の内容は、簡単に言えば私のこの身体の中身は女神アウレであること。アウレとはこの国の国教である宗教の女神である事。そして、今は勇者である倫太郎さんを手助けするためにこの地にいる事を、もう少し詳しく話していきました。
「……というわけなんです」
「まあ、おおよそは聞いた通りじゃの」
「ピーピーピー」
「ですけど、この事は一般の方には内緒にしておいてほしいんです。お二人とも、お願いしますね?」
「分かっておる」
「ピーピーアー」
「それでは……次は、どちらから話しますか?」
そう言うと、今度はアオさんがゆっくりと手を上げました。
「わしからいこう。問題はあるまい?」
「私は構いません。倫太郎さんは?」
「ペネレイト。ミカヅキモ。ワイハー? だからワイハーはないっつってんだろ!?」
「構わんそうじゃ」
「それでは、アオさんお願いしますね」
そうして、今度はアオさんの自己紹介が始まりました。




