第十八話 今夜はぁ……豚しゃぶだぁ……(ネットリ)
「そぅら全身全霊無味無臭で取ってこい小沢ぁ!」
そう言って倫太郎さんは空間の裂け目から召喚した小沢と呼んでいるそれに投げた枝を取ってくるようにしています。
「ぢホfjds不意アS度Gはd使うvはSぢうヴぁうSDヴィあSDヴィ佐渡v」
呼ばれた小沢さんはそのまま小走りに走っていきます。
小沢さんの姿は、最初に見た時から想像もつかないほど異質で奇妙な不気味な恰好でした。
前に見た太くて長い首は、丸っこいスライムのような黒く半透明の楕円形のずっしりしたからだから生えているものでした。
その身体の下には、小さな節足動物のような足が無数に生えており、円形に並んでいます。
まるでゲジゲジの様ですね。それらを素早く動かして前に進んでいるようです。
そして、投げた枝まで小沢さんは辿り着くと、
「裾アHぢ亜Hプsdf」
身体から突如、半透明の腕を生やしてそれを持ち上げました。
もう、何なんでしょうね。小沢さんって。
「うおー、すげー」
「ちょっとキモーい」
「やっべ! かっちょいい!」
「……」
その様子をすぐそばで見ているのは村の子供たちです。彼らは疫病にかかって苦しんでいましたが、今は健康そのもの、ピンピンしています。一人静かな子もいますが、その子も健康そのものです。
子供たちはみな、キラキラと笑顔で自分の健康さを振りまいています。眩しいですね、ホント。
「はぁ……」
……あの後の事態を話しますと、結果から言えば全員病は完治。みなさん後遺症もなくピンピンしており倫太郎さんにはそれはそれは多くの感謝の意が集まりました。
それに引き換え、何もしなかった……いえ、正しくは何もする間もなかったのですが、私はこの村の教会の関係者の方に苦笑いをされてしまいました。
……当然ですよね。与えられた役割を果たす前に勇者である倫太郎さんが全部やっちゃったんですから。これでは聖女の名折れ、恥じる事はあっても誇る事などできはしません。
「……」
っていうか、手伝いとは聞いてたけど全部一人でやるなんて聞いてない!
なんで事前に言ってくれないの! 聖女の名が関わる仕事なんだから、もう少し配慮してくれてもいいじゃない! ちょっと前まで張り切ってた私の気持ちを返してよ!
そりゃまあ、村の人の病が治る事が一番ですけど! だからって、これじゃあ私何のために来たんですか! 立つ瀬がないですよ! もう!
「さあさあ、小沢君の背に乗りなさいな乳飲み子諸君? 枕カバーもびっくりするぞぅ」
「「「わーい!!」」」
……それで今、倫太郎さんは子供たちの相手をしている、という事です。
あの小沢さんに恐れることなく子供たちは背によじ登っています。
小沢さんは何も言わず、また子供を襲うような真似もしません。
……これでいいのかなぁ。そうだ、いいに決まってる。みんな元気なんだし。
私以外、元気なんだし。
「はぁ……」
「落ち込んどるのか?」
不意にかけられた声の方を向くと、そこにはアオさんが立っていました。
「飯を食えば、気も良くなろう。どうじゃ?」
「まだお昼には早いですよ……良いんですよ、私は今回も何の役にも立てませんでしたし」
「そんな事無いと思うがの」
「でも、今回も私なんて要りませんでしたよ。勇者さん一人が居れば全部うまくいくんでしょうね……」
安っぽい嫉妬、僻みだなんてわかっています。でも、私が必要な場面があるとは思えません。
戦闘になれば足を引っ張るのは私でしょうし、アオさんみたく倫太郎さんの通訳が出来るわけでもないですし。必要な要素なんて皆無ですし。
「そんな事は無いぞ。第一、お主が居なくてはわしは魔物、勇者は狂人の類じゃ。誰も勇者一行と認めはせんよ」
「……それは聖女の肩書があれば誰でも出来ますよ」
「じゃな。しかし、今回はお主じゃ。お主しかおらん。それでは不満かの?」
「……」
「それにの、お主が人の国の王、ヴァンダムじゃったか。あやつと話して色々融通してくれとるのも知っておるぞ? それが無くては勇者の転移魔術の行使も認められんかったじゃろうて」
「まぁ……」
それも国王の娘、という立場をフルに利用した結果ですけど。
ただ、アオさんがこちらを慰めてくれているのは伝わります。なんだか申し訳ないですね。
「……すみません、アオさん。気を使っていただいて」
「いや、大したことはないぞ。迷いは生きておれば必ず出てくるものじゃしの」
「あはは、そうですね」
女神になってから、もうどのくらいか。迷いもたくさんありましたけど、まさか私よりも短い時を生きる地上の方から言われてしまうなんて……反省ですね。
「それとなレイラ。お主と勇者の事で一度聞いておきたい事があっての」
「? なんでしょう?」
アオさんから質問は珍しいですね。一体何でしょうか。
「わしはな、少し迷うておる。今までずっと気になっておったが、聞くべきかそうでないか、悩んでおっての」
「……私もアオさんに悩みを聞いていただきましたし、遠慮なさることはありません。何より、私たちは一緒に旅する仲間じゃないですか」
「そうじゃの。そう言うてくれるとありがたい。本当は勇者にも聞くべき事なんじゃろうが……」
アオさんはそう言うと、倫太郎さんに一瞥をくれます。
なるほど、確かに私とアオさんは普通に話せますが倫太郎さんの言葉は私には分かりません。
三人の会話にはなり難いと、そういう面で気を遣ってくれているのでしょう。
「気を遣っていただいてありがとうございます。大丈夫ですよ。最初に私からという事ですよね」
「……そうじゃの。勇者の言葉はお主には分からんそうじゃからの。では聞くぞ? 無理ならば答えんでもよい」
そう言ってアオさんは私が予想もしなかった事を尋ねてきました。
「……お主ら、レイラと勇者は神の使いか何かかの?」
「……っ!」




