第十六話 総じてヤク(ハッパ吸うなよ、みんな!)
「硫化硫黄ってなんだよ! それって単なる硫黄じゃねぇか! 馬鹿! バーカ!」
「……もはや言ってることの意味が分かりませんよ、ってそれは最初からでしたっけ」
「大丈夫? 見れば分かるでしょ!? 大丈夫なわけないじゃない! この贖宥状! 接触形態形成!」
「……はぁ」
場所は王城、時はあれから大体五時間後。
今は戦勝祝賀会の真っ最中です。なんせ、四天王が倒されたのですから。祝わない方がおかしいというものです。
ですがいろいろと問題はありました。四天王の一人がこんなに早く倒れた事、倫太郎さんが四天王を倒す過程で国の結界を難なく抜けてしまった事、等々……。ですが、そういった事は全部、
「……あの勇者ならば、あり得るやもしれん」
この王様の言葉で全て解決してしまった。いいんでしょうか。
そしてそのまま戦勝祝賀会に移行してしまいました。……いいんでしょうか。
というか、その一番祝われるべき勇者の倫太郎さんはさっきから出される料理に目もくれず、ブリッジしたまま壁に張り付いています。そしてそのまま近くを通る人に意味不明な言葉の羅列を放っています。…………いいんでしょうか。
「ピッパッパッパラッポ。硬直寸前の間違い探し。ボキャ貧が疼くが如し鍾乳洞の磔が喚き散らす三角定規の申し訳なきポロシャツ。興味がおありではないと? グッドネス!」
「……」
「諸々の小中学生の皆々様へって感じではないでしょうともさん気が無いとは知りも知らぬ様子見の機械仕掛けの栄養ドリンク仕込み。この空想の街並みは、中年太りの畑に連なる大いなる術式を秘めたアリンコ」
「……」
倫太郎さんは置いておいて、アオさんはというと……
「モグモグモグモグ」
アオさんは出される料理を、一体その身体のどこに入るのかという量を食べています。
……もとは竜ですし、食べる量も桁違いなのでしょうが今は人の姿のままです。
凄まじい食べっぷりと、まったく膨らまない腹を見て周りの人は大層驚いています。
「モーレンカンプ、スパイシー、ミントな瞬きに備えて、勝利の方程式。カミワザ! ォ~イ! ない! なぁああい! オッス、開口一番ひげもじゃ封印パック」
「モグモグモグモグ……」
「……はぁ」
……いいんでしょうか。いいんでしょうか、こんなので。
あの四天王を倒したその祝いが、こんなので、こんな形でいいんでしょうか……?
そんな風に私が悩んでいると、誰かが倫太郎さんに話しかけるのが見えました。
あれは、王様の側近、大臣の……えっと、エバンさんでしたっけ?
「……勇者殿、お忙しいところ申し訳ないのですが、そろそろお時間です」
「っ! とでも言うと思ったか間抜けが! マネジメント料の半額はエキサイトにシュートされるお決まりなんだぞ! 知ったかぶりも猫の前では双六が如しだな!」
「……えーっと、その、ついて来ていただけますかな?」
「満タンのパッケージ。強制労働に送る、はなむけの言葉。『ビバップハローございせんでしたとさ。でめきん』って、ぷわわわわわわわわぁああああああ! ぷわぷわわわ!」
「……」
……大臣さん、明らかに会話に困っている。そもそも会話じゃないけど。
……そうだ、アオさんを連れてこよう。あの人なら倫太郎さんの言葉が分かるし。
勇者さんの前で固まる大臣さんの前に、今だ料理を食べ続けているアオさんを引っ張ってきます。
「! これはこれは、聖女レイラ。お目にかかれるとは、なんと光栄な……」
「何やら困っているように見えたのですが……。大丈夫でしょうか?」
「なんじゃレイラ。わしは今大皿をさらえるところなんじゃ。放してくれんか」
「……そちらは、勇者様の使い魔の……そちらの方が、いかがなされましたか?」
不思議そうな顔をする大臣の前で、私はアオさんにこういいます。
「アオさん。大臣さんが勇者と話したいみたいなんです。お願いします」
「何……? まったく、食事もゆっくりとれんとは……」
アオさんは渋々といった様子で、勇者さんの言葉を聞きます。
「モテモテクールナイスすっぽん。戻れないあの日の夕日に差し掛かったクソなすび。またその話ですか? 見るも無残なカタツムリの協奏曲は晴れやかなる程にみみっちいゴミの苦し紛れの問題をさもありなんとも虹のかかる大海原に三平方の定理から消毒中に揉みこまれたステップとシュガーの響きのなんたるかを」
「……ついていく、案内してくれ。早急に向かおうと言っとるが、何のことじゃ?」
「……! こちらの方は、勇者様の言葉が分かるのですか!?」
「はい、そうなんです」
「お前の明日の左の掛け算の模擬試験の妖怪の目ん玉をちゅうちゅう吸うてやろうかこのマミィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「……なんだか通訳みたいだね、と言っておる。その通りじゃの」
「なるほどなるほど。……では、勇者様。ご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
そう言って歩いていく大臣さんの後ろを、倫太郎さんはナメクジのようなそれでいてなんだか悪魔にても憑りつかれたかのような動きで続いていきました。まるでB級のホラー映画のようですね。
……本当に、いいんでしょうか。あれで。
「へっぷへっぷへっぷ。ポォォォオオオオ!! ノォォオオオオオオオオ!!!」
「……はぁ」
……私には、どう見ても良くないようにしか見えないんですが……。




