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第十五話 四天王、今や三天王 ※???視点

――――――とある部屋にて、三人の者たちが話し合っている。



「ガルドーザがやられたようだな……」



響きのあるアルトボイスでそう言ったのは、赤い衣のように鱗をまとった竜の姿をしたものだった。



「誠実ではあったが、あいつは四天王の中では最弱であったからな、致し方あるまい」



アルトボイスに答えを返した地の底から響くような重低音の声の持ち主は、全身を巨大な岩のような殻で覆った巨大な亀のような姿をしたものだった。



「ハッハァ! あいつは所詮、鼻フックをつけて半裸で街中を練り歩く事もできない四天王の面汚しよ!」



最後に調子の良さそうな甲高い声でそう言ったのは、下着と目元だけを覆うマスクを着け、全身を荒縄で縛り上げられたまま鼻フックをつけた人間の男だった。

その男の言葉の内容にどうやら異議があったようで、亀と竜はその男にこう返した。



「出来たとして誰もやらぬわ、そんな事」


「面汚しはお前だろ」


「お? やんの? やんの? やっちゃうの?」



 竜の言葉に、半裸マスクはモザイクのかかった振動する怪しげな棒のようなものを振りかざす。

だが、その半裸マスクに対しそれ以上竜と亀は何も言わなかった。

……無理もない。半裸マスクは、こんななりでもこの魔王軍四天王の中で最強なのだからだ。

その実力は、他の四天王が束になってもかなわないほど強い。そうまさしく、魔王軍の切り札と言っても過言ではない者なのだ。



「しかし、とはいえ四天王の一人がやられた事は事実だ。この場にて早急に対策を立てねばなるまい」


「そうだな。……距離的に近いのは、私か」


「エスペランザちゃん? 行くの? 行っちゃうの? 行くって言って☆ 行っちゃうって言って☆ 言って言って♡ ン゛き゛も゛ち゛い゛い゛の゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」


「……少し黙っていてくれないか、マントン。話が進まない」



 ――――――竜の名前は、エスペランザ。亀の名前はローグ、そしてこの半裸マスクの男の名前はマントンである。

エスペランザは別名、『火のエスペランザ』とも呼ばれる火山に住む火の竜であり、空を飛べるほか炎を操る力を持っている。また、火に関する魔術のスペシャリストでもある。

大してローグは、『岩のローグ』と呼ばれるほどに硬い身体を持ち、また異様なほどの再生能力も持っている。こちらは水と地に関する魔術が得意であり、その腕は宮廷魔術師に勝るとも劣らない。

マントンは元々は人間であったため最初の別名は『裏切りのマントン』だったのだが、あまりのその変態性ゆえに近年は『教育上、子供に見せられないヤバい奴マントン』と呼ばれている。ふざけた二つ名である。

この者達は、魔王軍の四天王。まさしく、魔王軍の戦力の中でもトップクラスといって過言ではない者達だ。



「とはいえ、ガルドーザのあの様子を見ただろう。何もできぬまま飴玉に変えられてしまったのだぞ? 策はあるのか?」


「……正直、今回の戦いを見ていて他の者たちは相手にすらならない事が分かった。ガルドーザも、戦いに優れてこそいたが魔力は並の魔物より少し多いくらいだった。恐らくその魔力の低さ故、我らを飴玉に変える勇者の魔術に抵抗する事もできなかったのだろう」


「……とはいえ、我らを飴玉に変える魔術など聞いた事も無いが……」


「……あ、キスしながら一つの飴玉を舐め合うプレイなんてどうでしょう? あっはぁ~ん♡ 唾液の交換なんじゃぁ~♡」


「マントン。今は作戦に関わりある事だけを話してはもらえないか?」



 ローグは大きくため息をつく。



「では、エスペランザ。お前はどう対処するのかを聞きたい。距離的に近いのは間違いなくお前の持ち場だ。来る可能性は一番高いからな」


「……ただ、そんな魔術が我ら、少なくともマントンには効かないと思う。それに私たち程度の魔力があるならば十分に抵抗できる可能性はある」


「……三人で仲良く裸で温め合うというのはどうでしょうか? きっと頭の中がグルグルグルグルするくらいに気が狂うほど気持ちいいぞぅ」


「マントン。話に参加する気が無いならば、帰ってくれてもいいのだぞ?」



 マントンを無視してエスペランザは続ける。



「抵抗できる可能性があるとはいえ、他の者達では対処しにくいと思われる。少なくとも我らほどの魔力を持っているものは、今はいない」


「……続けてもらおう」


「やめないで! とめないで! 続けて続けて! もっともっと、もっとぉおおおおおお!!!」


「……それに、ガルドーザの配下の者も決して弱い者ばかりではなかった。あのバリアナ率いる兄弟もそれなりの強者であった。それが一瞬のうちに倒されてしまった事も鑑みると、戦闘力も決して侮れないだろう」


「……では、いかにして対処する?」



 ローグの言葉を聞いて、エスペランザは決意のこもった眼差しでローグを見た。



「この四天王の内、二人で挑みたい。ローグ、背中を任せてはもらえないだろうか?」


「……それは構わないが、策はあるのか?」


「私は魔術が得意であり、お前は近接戦が得意だ。勇者は確かに脅威だが他の二人はそうでもない。一度勇者と引き離してしまえば、他の二人は我らの配下の者たちでも十分に殺れる程度の者だ。まずは分断するところからだが……」



 突如、エスペランザの説明をマントンの叫び声が遮る。



「あ↑ぁあぁぁぁあぁああ↓れぇえぇぇえぇええぇえええええ↑!?!?!?!!?!?!?!! おいらはぁぁぁぁあああああああああああ!?!?!!?!?」


「……マントン。お前には私の後ろは任せられない。何をされるか分からないからな」


「……残念だがマントン、私もお前を擁護しかねる。日頃の行い、というやつだ。諦めてもらおう」


「仲間はずれにしちゃや~だ♡ いや~だ♡ 心寂しいのほぉおおおおおあああああああああ!!!」


「はぁ……。しかし、マントン。お前は毎度の事だが()()()()()のだ。こちらの作戦に合わせる事は出来るのか?」


「だいじょうびぃ☆ 僕に任せて! お二人の後ろは僕が優しくじっくりねっとりほぐして×××して〇〇〇して△△△してあげるからぁ♡」


「……こいつは何を言っているんだ、ローグ?」


「知らない方が良い。世の中には知らなくてもよい事が有り余るほど存在している。これは人間だろうが魔物だろうが関係はない。ところでマントン。やはり帰ってくれてもいいのだぞ?」



 そこまで聞いて、エスペランザは溜息をつく。



「……やはり、この中で背中を任せられるのはお前だけだな。ローグ」


「私も同意見だ。ガルドーザでは奴の実力に合わせてやらねばならなかったであろうし、マントンは……頼る状況など考えたくもない」


「……だな」


「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!?!?!!?!? やだぁ! なにぃ!? 戦い前の熱い語らい!? こっからお互いの傷をなめ合うor間を引き裂く落涙必至ものの展開きちゃうのかなぁあ!?!?!?!? うっ! ……ふぅ」


「……マントンはさっきから何を言っているんだ、ローグ?」


「マントン。今でも遅くはない。頼むから帰ってはくれないか?」



 そう言って、ローグは溜息を一つ着いた後にエスペランザの方を見る。



「では、私とエスペランザとで勇者の討伐にあたる。仲間の二人に関しては、我らの配下の中でも腕がたつものを集めてあたらせよう」


「ガルドーザは弱かったが、あいつには人望があった。……配下の者に声を掛ければ、仇討ちに加わりたいと言う者も出てくるだろう。……もっとも、今回の事で大勢が居なくなっただろうが」


「……そう言えば、ガルドーザの城の周辺の者は絶望的だが連合軍にとして参加していた部隊はまだ生きていたな?」


「! ではそちらには私から声をかけておこう」


「では、魔王様への報告の後、各自準備に当たるとしよう」


「淫☆蕩☆バ☆ズ☆ー☆カ♡」



 そこまで話したところで、ローグとエスペランザの二人は立ち上がる。



「では、当日は頼むぞ。エスペランザ」


「ああ、ローグ。……魔王様のためにも、な」


「無論、当然の事であろう」



 そう話す二人の間には、確かな信頼があった。

元々、魔王軍の四天王の仲は、一人を除いてかなり良かったのだ。一人を除いて。

お互いがお互いを信じているからこその、自身の忠誠を誓う君主のために協力し合おうという悪の組織にあるまじき信頼と確固たる己が忠誠という信念が彼らを支えているのだ。一人を除いて。

故に互いに研鑽し合い切磋琢磨して成長し合う、ビジネスパートナー、いや同僚としてはこの上ないほどに良好な関係であったことは言うまでもないだろう。そう、一人を除いて。



「あぁん♡ のっぴきならない状況での抜き差しは止められぬぅううううう♡ ぬふぅ♡」



そんな二人の間に割って入ったのは、除かれた一人ことマントンの絶叫だった。



「あはぁん♡ もうだめぇ! 我慢できないのンホォォオオオオオオ!!!」


「「……」」


「見られてるぅ♡ 見られてるのぉ♡ こんな養豚場のブタを見るような冷たい眼差しで見られちゃうなんて、痺れちゃう♡ あたまがおかしくなっちゃうぅぅううううう♡ オッヒョウ☆」


「「はぁ……」」



 ローグとエスペランザの二人は同時に溜息をつく。

……頭を抱えなくてはならない問題があるというのは、いつ、どの組織であっても変わらないようだ。

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