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第十四話 ガルドーザの最期。これにて征服完了……って、んなアホな



「ま、待ってください!」



 私は勇者さんの後を追いかけるように駆け出しました。

それに続いて竜の姿のままアオさんもついてきてくれます。



「おい! 飛び乗れぃ!」


「! はい!」



 私は寄ってきてくれたアオさんに飛び乗ります。

そのままアオさんは竜の姿のまま器用に森の木々を分けて飛んでいきます。

私はその間、枝葉に当たらないように身をかがめていました。

しかし



「あっ! あそこに居ました!」



 倫太郎さんはすぐに見つかりました。うずくまって何かをしているようです。

その時に、アオさんが不思議な事を言いました。



「……? おい、敵はどこじゃ?」


「えっ?」


「この近くに、五つほどおるはずじゃ。勇者は今まさに囲まれておるぞ?」


「!!」



 私は勇者さんの周囲を注意深く見ます。

……しかし、敵はいないようです。もしかしたら木々に隠れているのかもしれませんが私たちにもアクションをかけてくる様子はないですし……何かおかしいです。



「わしも、目は悪くない方じゃが何かがおるようには見えん」


「でも、囲まれているんですよね?」


「……仕方あるまい。おい勇者! こっちに戻ってまいれ!」



 アオさんが竜の姿で叫びます。その声に気付いた倫太郎さんはこちらを振り向きました。

……? あれ? なんだかほっぺが膨らんでいませんかね?



「ゆ、勇者さん! 戻ってきてください!」


「ふぁいわい」



 倫太郎さんはほっぺを膨れさせたままでこちらに戻ってきます。

すると、アオさんがまた不思議な事を言い出しました。



「っ! どういう事なんじゃ!?」


「な、なにがどうしたんですか!? アオさん!?」


「……ゆ、勇者の口の中じゃ……」


「えっ?」


「口の中に、魔物がおる!」


「……!!」



 それを聞いて確信しました。あのほっぺの中に、魔物が、いる!

大変です! 急いで何とかしなきゃ!



「倫太郎さん! ほっぺ! ほっぺです!」


「言うね、マッチョマン」


「口の中に魔物がいるんです! 早く取り出さないと……!!」


「んべぁ」



 私の慌ててる様子を見て、倫太郎さんは口の中のものを取り出しました。

……えっ? 魔物、……?



「あめだま」


「……」



 そこには、よだれでべとべとになった飴玉が五つほど手の中に納まっていました。

……えっ? でも魔物って……?

そう思ってアオさんを見ます。すると、アオさんはうなりました。



「……間違いない。あの飴玉は魔物、いや魔物だったものじゃ」


「……えっ?」


「……わしの推測じゃが、勇者が魔物を飴玉に変えたのじゃろ、多分」


「……えっ?」


「先ほどまで囲まれておると思っておったが、そうではなかったようじゃな。あれは勇者が食っとっただけじゃったんじゃな」


「……えっ?」



 理解がまだ追いついていない私をよそに、倫太郎さんは満面の笑みでその飴玉たちを口の中に放り込むと、バリボリと噛み砕き食べてしまいました。

……えっ?




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「広いお城だ。可もなく不可もなく、十分である。……よし、ここを我が拠点とする!」


「ダメですよ、倫太郎さん」



 今、私たちは風のガルドーザの城の中に居ます。

確認したところ、少なくとも動かなくなっている魔物は全て倫太郎さんの手によって飴玉に変えられてしまった可能性があるのだそうです。

念のため、一応周囲を見て回る事になったのですがその際倫太郎さんが城の中に突撃してしまったのでそのまま城の中から探索を始める事となりました。

ですが……



「あめだま」


「……飴しか落ちてませんね」


「そうじゃな。じゃが、どういう原理か魔力はそのまま残っておる。どうなっておるんじゃ?」


「あめだま」



 倫太郎さんは落ちている飴玉を拾っては口に入れていきます。汚い。

そう、ここまで魔物に全く遭遇せずに代わりに飴玉が落ちているのです。

その飴玉は、アオさん曰く元々は魔物だったものだそうです。

ちなみにトラップの類もあったそうなのですが、勇者の魔術のせいで起動しなくなっているのだそうです。

…………もうこの人一人でいいんじゃないかな。



「……ついに、一番奥の部屋まで付きましたね」


「ああ、ここがガルドーザの部屋じゃろ。薄気味悪い魔力が扉越しにもひしひしと伝わってくるわ」


「あめだまかな?」



 ついにガルドーザのいる最深部の部屋まで来ましたが、これではムードもへったくれもありませんね。

倫太郎さんは鉄製の両開きの扉を開くや否や飛び込んでいきました。



「あめだまぁ!」


「「……」」



 念には念をと、私たちはゆっくりと後に続きますが、特に何も起こりません。

部屋はやたらに広いのに部屋の一番奥に玉座と水晶、そして玉座の隣にある水晶を置く台しかありません。

そして……



「あめだま」



 倫太郎さんが玉座に乗っていた、鮮やかな黄緑色の飴玉をつまみ上げました。

……アオさんの方を見て、確かめます。



「……ああ、あれが、ガルドーザじゃな」


「……」


「飴になってもうたの」


「……」



 ……それを聞いて、私は溜息が出てしまいました。

私の居たジェンキンス王国、その王国騎士団が二年もの間攻め入る事の出来なかったこの地の、その大将の最期が飴玉…………。こんなふざけた話、誰も信じてくれやしないでしょうに。

なんて言ったらいいんでしょう。疫病を退けに行ったら、その大本である四天王を倒しました? になるのかなぁ。

まだ任務を受けて一日も経ってないのに、かの四天王の一人を倒しましたなんて言っても信じてもらえるわけないですよね……。なんて報告すればいいんだろう……。



「……」


「いっただっきまーす!」



 私の胸中などつゆ知らずといった様子で、倫太郎さんは飴玉で膨らんだパンパンの口の中に風のガルドーザ……だった飴玉を口の中に放り込みました。

今、倫太郎さんのほっぺの中は飴玉でいっぱいになっています。まだ入るんですね、あの口。



「おいちぃ!」



 そして倫太郎さんは短くそう叫んだあと、やたらと広いその部屋の中で横になって転がり始めました。

ほっぺを飴玉でいっぱいにして床を拘束で右に左に行ったり来たりするその姿は、傍から見ても勇者とは思えません。

……なんて説明しようかなぁ、と思っているとアオさんがこちらに話しかけてきました。



「おい、レイラ、でよかったかの?」


「……はい。なんでしょう」


「もう帰っても良いのではないか? ここまで来るのに、わしは疲れた。お主も、見たところ大分疲れておるようじゃしの」


「……そうですね帰りましょうか。帰りは、どうしましょうか」



 そこまで話すと、いつの間にか近くまで来ていた倫太郎さんがこう言いました。



「もう帰るの?」


「……はい。一応はそのつもりです」


「では帰るといいよ」



 そう言って倫太郎さんが指をパチンと鳴らしました。

すると、行きと同じく私たちの身体が光に包まれ始め、気が付いたら王城の客間に戻っていました。

……………………よく考えたら、王城にある転移魔術防止の結界をすり抜けて外に出たんですよね、私たち。

……結構まずいんですよね、国家の防衛の要の一つなんですし。勇者と言えすり抜けるのはまずいですよね。……ああ、でも出国記録とか見たら一発で分かっちゃうかなぁ。分かっちゃうよねぇ。

…………………………なんて、説明しよう……。



「あめだまおいしいなぁ」


「……」



 頭を抱える私の傍らで、飴を口いっぱいに頬張って恍惚とした表情を浮かべているのは倫太郎さんです。その表情は、確かに勇者には見えませんがとても幸せそうです。

……ああ、ある意味、あんな風になれたら幸せなのかもしれませんね……ハハハ……。

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