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第十二話 もういいよ! こんな事! こんな、……こんな事!



「……」



 私、女神アウレは今とても大変な危機に瀕しています。

そう、気持ち悪い事が連続で起きて胃の中の物が全部なくなったのに、また吐きそうになって、

また吐きそうになって、また吐きそうになって、……もう苦しいです。でもまだ吐きそうなんです。

だって、二人がまた巨大芋虫を食べているんですから。



「ペンベラー星人の右足がしょうゆ漬けのカバンを破棄させる勢いになったかもしれないはずだから、今日のマントヒヒの恋愛譚は豪商の教科書に刻んでおきましょうね」


「……ああ、わしももう芋虫は飽きたぞえ」



 アオさんは少し膨れたお腹をさすりながらそう言いました。

一方の麟太郎さんも、最初は好んで手を付けていた巨大芋虫の肉の残りを尻目に溜息をついています。

っていうかどうするんですかその肉。



「まさか、おかわりであと三匹も来るとは思わなんだ」


「アッ↑ッヒョウ↓。キモティ。すこぶるハンティングホームラン!」


「まったくじゃの。……残りはどうするのじゃ?」



 アオさんにそう言われた倫太郎さんは、真顔になって無言のまま両手を揃えて軽くパンと手を合わせました。

すると、



「dfjvしあjbhなslふぃbjsふぃぅbhしlfbんskjfbなすふぃbはslfぶh」


「!?!?!?!?」



 突如空間が裂け、そこから得体のしれない化け物が首だけを覗かせました。

その大きさは、顔と思しき部分だけで私の二倍くらいの長さがあり、太さは勇者さんと私とアオさんの三人で輪になってようやく収まるほどの太さです。

肌は赤黒をベースとした紫、青色の血管のような線がいくつも入り、目は、蜘蛛のようなものが数え切れないほどついています。

そして、その目の中には数え切れないほどの瞳が入っており、その全てが別々の方向を見ています。

また口はまるで生皮を剥がれた犬のような剥き出しのものとなっており、また十字に口が裂けています。

な、なんなんですかあれは……!!



「kdfjhvsふぃvjなslbjsfぃヴぁすいbひあsんばしゃl」


(ねぶ)()めて! 小沢ぁ!」


「bぁいぶあshびうさほびうhしお」



小沢と呼ばれたその化物は、その大きな口を縦に横にと十字に開いて余った芋虫おおよそ二.四匹分を一気に丸呑みしてしまいました。

そして倫太郎さんが再び手を軽く鳴らすと、その首は空間の裂け目に消えていきました。

それと同時に、空間の裂け目も閉じてしまいました。



「な、な、な、ななななななんなんですかあれ!?」


「……それはわしも気になるの。おい勇者。あれは何じゃ?」


「さぁね?」


「呼んだ本人が分からんじゃと!?」



 どうやら、呼んだ倫太郎さんもなんだか分かっていないようです。

……ああ、なんだか突拍子もない事を見てしまったような、もう見たくないような……

うっぷ、思い出したら、さっきの化物も大概気持ち悪い姿してましたよね。

ああ、吐き気が酷い……。もっかい川に行こう……。



「!」



 私が川へと行こうとすると、倫太郎さんがついてきました。

……なんでしょう、私今そんなに顔色悪いんですかね……でしょうね。悪いでしょうとも。

でもなんで近寄ってくるんでしょう? 背中でもさすってくれるのでしょうか?



「……」



 と思ったら倫太郎さんは私を無視してまっすぐに川の方に向かってしまいました。

……まあそうですよね。狂ってる人が私なんて気にしませんよね。

ううっ……なんでこんな惨めな気持ちに…………



「みぃつけた!」


「?」



 倫太郎さんは川の向こう岸を指さしそう声を上げます。

林太郎さんの指さす先には、鬱蒼とした木々と草むらしか見えません。

私には何も見えませんが、倫太郎さんはそのまま指を上空へと持ち上げていきます。

すると、その指の動きに従って森の中から何か人のようなものが空中に出てきました。

……人? なんだか町娘っぽいような恰好……



「う、うわわ!? だ、誰か助けてぇ!」


「え?」



 そう言って倫太郎さんが指先をくるくると回すと、空中のその人影も一緒にくるくる回ります。

……あれは、恐らく念動力に近い類の魔術ですね。それで人を持ち上げているようです。

そしてそのまま倫太郎さんは徐々に徐々に回転に加速を加えていきます。

人は絶叫しながらまるでコマのように高速回転し始めてしまいました。

ああ、あの人、大変そうだなぁ。



「……!?」



……! い、いやダメでしょ!? あんな事したら普通の人は死んじゃう! 止めなきゃ!



「倫太郎さん! 死んじゃいます! 今すぐ止めて下さい」


「死ねばいいのよ、あんな奴。ここがあの女のハウスね」


「昼ドラみたいなこと言ってないで! あんなに回転させたら滅茶苦茶な遠心力がかかっちゃいますよ! そんなの常人には耐えれませんよ!」


「あれは、常人ではない。ポッパーだ。その証拠に聞け。あれは未だグルグルしている」



 倫太郎さんはそう言って町娘っぽい人を指さします。

……あれ? そう言えばまだ随分元気に絶叫してますね……

あんなに、最早コマが生ぬるく思えるくらい回転してるのに……



「みみんがちょ」


「ぶべがっ!?」



 倫太郎さんは唐突に回転を止め、そのまま両の手で叩き潰すような仕草をします。

それと同時に町娘っぽい人も潰れました……潰れましたが、なんだか変です。

変に身体が伸びているというか、なんだかスライムみたいな……



「くそっ! このダーミアの擬態をと」


「もういいよ! ヴァヴァー! ヴァヴァー! ヴァヴァー! ヴァヴァー!」


「ぎぴっ!?」



 倫太郎さんが叫ぶと、その町娘っぽい人……人? は徐々に丸まっていき、最後は小さな小さな粒になってしまいました。

それを倫太郎さんは念動力で引き寄せてそれをつまみ上げます。

色は茶色っぽい赤の表面がややでこぼこした飴玉ぐらいの球体ですね。

……これをどうするのでしょうか?



「ふんっ!」



 倫太郎さんが力むとその球の表面が艶やかになっていました。

でこぼこなどなく、いえ初めからそんなものなどなかったかの如く……

これでは、見た目は飴玉そのものですね。



「ぱくっ」



 倫太郎さんはその飴玉っぽい球を飲み込んでしまいました。

……!?!?!?!?! な、何してんのこの人!?



「な、なな、何やってるんですか!? あ、飴玉じゃないんですよ!?」


「あめだま」


「違いますから! 早く吐き出して! ほら早く!」



 必死そうな私の姿を見て倫太郎さんは渋々といった様子で口の中の球をつまみだしました。

その様子を見て私はほっと胸をなでおろしました。



「はぁ……よかっ」


「ぺゃ」


「むっ!?」



 次の瞬間、倫太郎さんはそのつまみだした球を目にもとまらぬ速さで私の口に突っ込みました。

そしてそのまま吐き出せないように口を手で塞いで……









って、








はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!

ほわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!!?!?!?!?!!?

私の、く、口に! あ、あの、町娘っぽい人がぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!



「むー!!! んんー!!!」


「なめてみよ。あめだまであろう?」


「んんんーーーー!! んーーーーーー!!!!!!」



 なんで!? 何してんのこの人!? 自分の口に突っ込んだもの人の口の中に入れるとか正気の沙汰じゃない!!!

か、間接キスになんのこれ!?!?!? 意味わかんない! 意味わかんないよ!! このシチュエーション! なんじゃそりゃぁ!?

っていうか、町娘っぽい人が! 口の中に、町娘っぽい人がぁああああああ!!

絶対血の味とかするよぉおおおおお!!!!!



「んんんん!!!!! んんんんんんんんんんんーーーーー!!」



いやぁああああああああああ!!!!! ああ、口に広がる! 広がっちゃうううううううう!!!!!!! 口の中に甘酸っぱいイチゴの果汁のような甘みが広がるぅうううううう! まるで朝摘みたてのイチゴをそのまま凝縮したかのような濃密で濃い、濃いイチゴ味がぁああああああああああああ! 甘酸っぱくて、もぎたてフレッシュな味わいぃぃぃいいいいいいいいいいいい!! あの町娘っぽい人ってイチゴ味だったのねぇぇえええええええええ!!!! 衝撃の新事実ぅううううううううう!!!

……って、え? イチゴ?



「……あ、甘い」


「だから飴だって言ったのに。嘘つき!」


「え、えぇ……」



 私がそう言いながら吐き出した飴玉を、倫太郎さんは何の躊躇もなく取り上げて再び自分の口に放り込みます。

……え!? ま、まだ舐めるの!? っていうか、それ、たしか私が舐めた後のやつじゃ……………………っ!? は、吐き出させなきゃ!



「も、もうダメです! それは吐き出してください!」


「むむむむむ」


「早く! 吐き出して! こっちも恥ずかしいんですから!」


「もむむむむむむもむむむむむ!」


「く、口が固い……! もう! こんなところで意地なんか張らないでくださいよ! っていうか早く吐き出して! 本当に困るの!」



 どうやっても口を開かない倫太郎さんに、私は最後の手段として顔を縦に手で挟み込みます。そしてそのまま、縦に思いっきり顔をシェイクします。さぁ! 早く吐き出して!



「ぶぶぶぶぶぶぶぶ」


「おらぁぁぁあああああ!! 吐き出せぇ!!!!!」


「っぶぶぶぶぶぶぶ……む」


「!? ……………………あっ」



 しばらく振っていると、不意に倫太郎さんの顔が真顔になりました。

様子が変わったのでいったん振るのをやめて手をどかしてみると、倫太郎さんののどが上下するのが見えました。

あ、これって……



「のんじゃった」


「……」


「まだなめたかったのに」


「……」


「……かなしみは、ふかい」



 倫太郎さんは悲しそうな顔のまま、そのままふらふらとどこかへ向かって歩き出してしまいました。

対する私は、そのまま倫太郎さんを追う気にもなれませんでした。

だって、ねぇ? あれじゃ、間接…………もう、なんで飲んじゃうのかなぁ。

まったく、悲しいのはこっちですよ…………はぁ。


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