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第十一話 四賢芋虫 ※ガルドーザ視点



「……」



 バリアナが死んだ。私はその様子を通信用の水晶玉で見ていた。

バリアナは果敢に挑んだが、勇者はそれを赤子の手をひねるが如く倒してしまった。

挙句、そのバリアナの肉を調理して食しているのだ。



「……勇者という者は初めて見たがこれほどとは……」



……同胞を失ったのは、正直かなりこたえるものがある。

しかし、ここら一帯のリーダーである四天王の私がここで立ち止まっていてはなるまい。

幸い、勇者の居場所は知れている。おまけに今は食事中だ。

バリアナの名誉の死は、後でしっかり弔うとしてもこの機を逃すわけにはいかない。

そう思っていると、別の通信が入ってきた。



「ガルドーザ様! バリアナめがやられました!」


「……知っている。今先ほど見ていたからな」


「でしたらあ奴の敵討ちは是非、我らに!」


「……」



 私は答えに詰まった。

確かにこいつらならば動機もあれば連携も十分、しかも今勇者のいる場所に距離も近い。

だが、力はバリアナととくに変わらないうえ……



「ガルドーザ様! ()()()()があのように無惨にやられたまま見過ごすなど、このドルーゾはできませぬ!」


「……」


「同じく、このガダンナもあのまま我が兄弟が食われ続けるのは我慢なりません!」


「幸い、勇者は食事に夢中。今からならばこのヴァユナでも十分に仕留められましょう」



 ……みんな芋虫なんだよなぁ。

いや、実力はかなりのものだが器用貧乏と言うかあらゆる面が平均よりやや上で止まってるというか……。

いや、確かに事務は優秀である。どうやってするのかは知らないが書類の整理や記録、更には人間の文字にも強ければ計算もできる。

 ただ、戦闘も弱くはないが……バリアナもそうだが、こいつらは真正面からやり合うタイプではない。

さて、どうしたものか……



「……同胞が殺された気持ちは察しよう。しかし……」


「ガルドーザ様、我々の連携を信じてくださいませ!」


「必ずや、あの憎き勇者の首をガルドーザ様の前にご覧にいれましょう!」


「万が一の時は一度撤退し、その後機を伺いつつ尾行に移ります。どうか、我々に今一度チャンスを!」



 ……ここまで言われたらなぁ。

戦闘力ならもっと高い奴もいるけど、今連合軍のとこに回してるし……

こいつら以上に強い奴って言ったら、俺かあと一人ぐらいだったはずだしなぁ。

今この機会をものにできるのはこいつらだけだし、うーん……



「……仕方あるまい。だがあくまで己が命を優先し、危機を感じればすぐさま撤退するのだぞ。お前たちのような優秀な部下は代わりがきかんのでな」


「「「勿体なきお言葉にございます!」」」


「それでは行ってこい。くれぐれも、気をつけてな」


「「「ハッ! それでは我らが戦ぶり、ご覧下さいませ!」」」



 そう言ってあいつらは殺された自身の兄弟の仇を討ちに、勇者の元へと向かっていった。

……その数十分後には、兄弟と同じく焼き肉の仲間入りをはたしていたが。



「やっぱ行かせるべきではなかった……!」



 その様子を水晶玉で見ていた私は自身の決断の甘さを悔いた。

いやね? 連携は大したもんだったんだよ? 自分たちの欠点をお互いで補い合うってこういう事なんだなぁ、って改めて認識できたんだよ?

でもさぁ、勇者なんなんあれ? 盾で首落として輪切りにするって。盾じゃなくって剣でやるもんでしょそれ?

……また、私の判断ミスのせいで優秀な部下が、それも三人もいなくなってしまった。

はぁ……やっぱ、私が自分で戦う方がよかったかなぁ……

そうだよなぁ……優秀な部下失うくらいならなぁ……私も人語は読めるけど、そもそも人語読める奴が少ないんだし。

私だけなら、今の感じならば勝つことはできまいが手傷を負わせて時間を稼ぐことぐらいはできたよなぁ。

その時に部下に命じて総攻撃仕掛けた方が良かったよなぁ。

等と思っていると、不意に部屋のドアがノックされる。

これは多分あいつだろう。



「……入れ」


「ハッ」



 そう言って入ってきたのは、全身が緑色の粘液に覆われた形の無い液体のような姿をしていた。

そう、この者こそ我が部下の中で戦闘面で優秀な者の一人、ダーミアだった。



「バリアナ他、その兄弟たちがやられました」


「先ほどまで見ていた。知っている」


「ガルドーザ様、あの勇者の件をわたくしめに任せてはいただけませんでしょうか」


「……」



 ダーミアはそう提案してくる。確かにダーミアは強い。

魔術を使えぬ者ならば、その粘液で出来た身体に対抗する事は難しいだろう。

でもなぁ、さっきとデジャヴを感じるんだよなぁ。

なんか策がないと行かせる気にはならないかなぁ。



「何か良い策でもあるのならば……」


「……では、これはどうでしょう?」



 そう言ってダーミアは身体を大きく膨らませ、そのまま形を変え始めた。

そうして形が整うと、今度は体の表面の色を変えていった。

……なるほど、これは……



「いかがでしょう? どこからどう見ても人間の町娘。これならば、勇者の警戒をくぐり抜ける事も出来ましょう」


「なるほど。しかしてどのように勇者の息の根を止めるという?」


「信用を持たせたのちしばらく同行し、寝ている隙を襲います。鼻と口をふさげば、悲鳴も漏れず勇者といえど死を免れる事はかないません。いかがでしょう?」


「……」



 ……うーん、でもなぁ。

勇者さっきバリアナの擬態見破ってたんだよなぁ。

ちょっと心配だなぁ。



「……しかし、バリアナは擬態を見破られたのだぞ? 大丈夫か?」


「ご安心を。私は元々暗殺を中心としておりましたし、人を殺した数も一人や二人などではありませぬ。しかし、もしも万が一バレてしまったのなら一度撤退し、その後身を潜めて必ずや仕留めます」


「……」



 ……まあ、こいつの擬態は魔術でもバレる事無かったしなぁ。

勇者が五感で擬態かどうか読み取っているのなら、匂いや声も変えられるこいつなら問題ないだろうし、使っているのが魔術だとしてもこいつの擬態を見破るレベルの魔術なんてそうそうないし……。

それに、一度だけダーミアの擬態を見破った魔術師もいたがダーミアはそいつもちゃんと始末したし。

一対多でも無事に任務を遂行できる力はこいつには有る。

うん、大丈夫かな。



「よし、分かった。だが、あくまで己の身を優先しろ。お前のような優秀な部下は代わりがきかんのでな」


「ハッ。もしもの時は情報の収集に徹します。では失礼いたします」



 そう言ってダーミアは人の姿のまま出て行った。

挙動もおかしなところはない。外見や動作では人にしか見えない。

あれならば、勇者も初見で見破るのは困難だろう。



「……」



 しかし、そう自分に言い聞かせても不安を拭い去る事は出来なかった。

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