第十話 四天王(最弱)の部下(カマセ)の登場だぁ!
「それでは、えーっと今後の予定を話します」
場所は、一応王城の客間になります。
私はここで倫太郎さんとアオさんに、王様から伝えておくようにと言われた事を話します。
「これより北東に大きな村があります。ゴザ村というところなのですが、そこでは疫病が蔓延しているそうなのです。ここまではお二人ともよろしいですか?」
「うむ、わしは問題ないぞ」
「ちょっとそこまで分かりかけてるミーね、そうテンペロッサのビクトリア」
「……話を続けますね」
相変わらず勇者さんの反応は分かりませんが、首を縦に振っているので問題ないでしょう。
話を続けます。
「これを引き起こしているのが魔王軍四天王、風のガルドーザの忠実なしもべであるバリアナという魔物だそうです。今回はこの魔物をどうにかしないといけません」
「なるほどのう」
「笑止千万の、クジャクヤママユ。オーシズルジスン。ペーペーモデリング、リモデリング」
勇者さんは、ヘビメタのヘッドバンキングの如く頭を振っています。無視しましょう。
「そのため私たちはまずそのゴザ村へと向かいます。バリアナのおおよその位置はこちらですでに調べてありますので、まずはその情報をもとに探索しましょう」
「あい分かった。勇者はどうじゃ?」
「半開きのカミキリムシだからこそマーマイトを掛けたくなるんでしょ? 違ったならお仕置きだね。ケツバットだね」
「了解しとるそうじゃ」
「……アオさんは倫太郎さんの言葉が分かるんですね。羨ましいです。私は何言ってるかちっともわかりませんから」
私は溜息を吐きながら立ち上がります。さあ、そうと決まれば早速動かなくてはなりません。
あの村へは、どれほど速い馬車であっても3日はかかるんですから。
「では、その村へとすぐに行きましょう。時間は有限ですから」
「みみみみみみみみみみみみみみ」
「……何? 勇者に策があるらしいぞ?」
策……? 私には何を言っているのかさっぱりですが、アオさんの通訳を通してとりあえず聞いてみましょう。
「……どんな策ですか?」
「ポドゾル、ポドラゾベン。1d6でスイッチ」
「ふむ、地図を見せろと言っておる。どこへ向かうのか聞いておるようじゃな」
なるほど、そういう事ですか。なぁんだ、しっかり参加する気があるんですね、よかったぁ。
私はそう思いながら持っている地図を見せます。
「大体、私たちのいる王城がこのあたりで、……この、川を越えた森の近くの村です」
「なるほどのう」
「……」
私がそう言うと倫太郎さんは黙って少し俯きました。
……どうしたんでしょうか?
「あの、」
「セメントに向かう道の先、その先にきっと目指す国があると信じて……! ご愛読ありがとうございました!」
「は?」
倫太郎さんが早口にそう言った次の瞬間、私とアオさんと勇者さんの身体が光に包まれ――――――
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「……えっ?」
光が収まると同時に、私は周囲を確認しました。ここは……
「ゴザ村……」
「ぶるんぶるん。プルプル! プルプルぞ!」
「……転移の魔術かの。もう何が来ても驚かんぞえ」
こ、ここは確かにゴザ村の入り口ですね。……転移の魔術だなんて、そんな高等なものを一体どこで……
そう思っていると、倫太郎さんはゴザ村の入り口には入らずすぐ近くの川の方へと向かっていきます。
「ちょ、ちょっと待ってください倫太郎さん。一体どこへ?」
「カミキリムシ」
「は?」
「倒木。カミキリムシ。おっけ?」
何がおっけなのか全然分かりませんが、倫太郎さんはずんずん先へと言ってしまいます。
……ああ、もう何を考えているんでしょうか。
倫太郎さんが向かったその先には、確かに倒木がありました。
そして、倫太郎さんは――――――
「どっせぇい!」
その倒木を吹き飛ばしました。そして粉々になった倒木から何かを拾い集めています。
一体なんでしょうか? そう思って私が恐る恐る見に行くとそこには……
「ヒッ!?」
……お、大きな丸々とした芋虫を片手に山盛り乗っけていました。
あ、あれをどうするんでしょうか……?
「3、2、1、ファイア」
「おぉ」
「!?」
後から追いついてきたアオさんと私の前で、倫太郎さんはその芋虫を、魔術で焼きました。
そして、その焼いた芋虫を口元へと一匹……う、嘘ですよね? そんなの、食べるなんて……
「ムシャァア」
「えぇ……?」
……食べちゃった。食べちゃったよこの人。信じられない。
倫太郎さんはまた一匹、また一匹と口の中に放り込んでいきます。頬張ったその口の中でモグモグと咀嚼しています。本当に食べちゃってる……
呆然とする私の隣で、アオさんは特に何とも思っていないような目で見ています。
いや、ねぇ? 私がおかしいんじゃないですよね? ねぇ?
「モグモグモグモグ」
そして、倫太郎さんは効果音としてではなく本当にモグモグ言いながら食べています。
何なんでしょう。何を見せられているんでしょう。
私が少し落ち込んでいると、倫太郎さんが肩を叩きました。なんでしょうか?
「ばぁ」
「っ!?」
そう言って倫太郎さんは口の中のものを見せてきました。
その中には、歯と唾液と舌に絡まった、見るも無残な芋虫の姿がそこにありました。
内臓は露出し、体液と思しき黄色っぽい白の液体と幼虫自身の白い肉が絡み合っています。
……あ、まだ生きているのか僅かに足や顎と思しき部分が動いてるものもいるや。
あはは。あはは。あははははははは。
「うっ……」
そこまで理解してしまった私は、胃の奥からせりあがってくるものを抑えつつ川へと向かいました。
城に戻った時に済ませたお昼が、今は胃袋から逆襲しています。な、何でこんなことに……
「……勇者、今のは冗談にしてはやり過ぎじゃぞ」
「バリアナでしたよねぇ」
「? 何がじゃ?」
「この辺にぃ、バリアナ、でしたよねぇ?」
出せるものを全部出し切った私の後ろで、二人が何やら会話をしています。
……はぁ。やっぱあの人おかしいよぉ。何でいきなり口の中の芋虫を……
「うっ!?」
思い出したらまた気持ち悪い……でも、もう吐く物は何もない……気持ち悪いよぉ……
「ぺっ!」
「うわっ!? 何しとるんじゃお主!? 食べたものを吐きよるなんぞ……」
どうやら倫太郎さんは食べた芋虫を吐いたらしいです。
……だったら食べないでくださいよ……。
そんな風に思っていると、後ろから聞いた事の無い声がしてきました。
「くっ……! このバリアナの擬態を見破るとはな……! 貴様があの魔王様を討とうという勇者か!」
聞き覚えの無い声に私が振り向くとそこには、無残な姿になった芋虫たちの破片が合体していくのが見えました。
……ま、まさか、バリアナ……!?
「虫の方がおいしいですよ」
「は? ……まあいい。貴様を討てば、ガルドーザ様からの評価も上がるというもの。お前はここで消えてもらうぞ!」
そう言ってバリアナは本当の姿を現しました。
その姿は、先ほどの芋虫をずっと巨大にしたような姿です。ゆうに四メートルはあるでしょう。
白い巨体にはところどころ黄色い斑点模様が入っており、顔と足は白いからだとは正反対に黒光りしています。
「死ねぃ! 名も知らぬ勇者よ!」
そう言って芋虫の姿に似合わない速度で襲い掛かるバリアナに対し、倫太郎さんはぼそりとこう呟きました。
「……美味そう……」
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「~♪」
「……」
「……」
倫太郎さんは、河原の焚火の前で上機嫌に鼻歌を歌っています。
焚火の上には、輪切りにされて串に刺さったお肉が焼けています。
それも、何本も。
「お肉、お肉、おいしいお肉。ランララランラランラランラ」
「……」
「……」
既にお肉となってしまったバリアナはもうピクリとも動きません。
というか、凄まじい量の肉です。一メートルぐらいの直径の、四メートルの体長の芋虫ですからね。
あれ全部食べる気なんでしょうか?
「いっただっきまーす!」
倫太郎さんは不意に、焼けたであろうお肉を手に取ってかぶりつきます。
そこからは、黄色っぽい白の液体……多分肉汁だと思うんですけど、それが垂れています。
食欲? 少なくとも見ているこっちは湧きませんね。
「……なぁ、勇者」
「はらほれひろほれ?」
「わしも、少しもらっていいかの?」
「いいんだよ? そうなんだよ? 盾ですからね」
そう言って倫太郎さんは焼けた肉の串を一つ、アオさんに渡しました。
アオさんはそれを、顔だけ竜にして丸呑みします。
そうして二人は、主にアオさんの方が食べる量が多いですが、どんどん肉を平らげていきます。
あ~、なるほどね。アオさん竜だから食べる量も多いんだ。そうなんだ。へぇ~。
「……」
…………………………なんで? なんで平気な風で食べれるの? やっぱ私がおかしいの?
「……」
「……」
そう思っていると、ふと倫太郎さんと目があいました。
倫太郎さんは、バリアナの白い肉にかぶりついたままこっちを見ています。
……なんなんでしょう。この場で食べていない私がおかしいとでも言いたいんでしょうか。
「たべる?」
倫太郎さんはそう言って新しく焼けた肉を差し出してきます。
その肉は先ほどの芋虫と同じく、白い肉にむき出しの内臓、全体からはやや黄色っぽい白い液体が溢れています。
……いえ、内臓の部分からは若干黒っぽいような茶色っぽいような液体も出ていますね。
なんでみなさんはこんなのがたべられるんですか? どくでもあったらどうするんですか?
「毒は無いぞ? わしは水の魔術が得意じゃからの、毒にもある程度理解はあるでの」
「たべる? たべる? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 何か空腹な事が起こっている。腹の底が付きますよ女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べなくて大丈夫ですか女神様? 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べぇえええええええええええええええええええええええええ↑ 食 べ な く て 大 丈 夫 で す か 女 神 様 ? 」
どくはないそうですね! よかったですね! でもいりません!
いらないんです! いりません! いりません!
「うっ……」
私は口元を抑えて川へと向かいました。吐くものも無いのに。
私はしばらくの間、この二人には近寄れませんでした。




