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第一話 こいつは多分、社会だけじゃなく人間としても不適合者



「ひゅひゅふ、べべンベンベンベベンベーン!! そうです! アイアムアパイナッポー!」



 ……ここは転生の間、と呼ばれる場所です。

この場所には、私と転生……してくれるかは分かりませんが、その予定の方。それ以外は何もないまっさらな空間です。

私はある世界の担当をさせてもらっている神……と言っても正しくは亜神ですが。

この世界では、私は「女神アウレ」と呼ばれています。



「興味謹慎、転身ソワカ。おまっ醤油の御造りやんけー!!」



 ……この度私はこの世界の危機に際し、異世界から一人の死者を呼び寄せてこの世界を救ってもらえないかとお願いをしに来たところです。

ただ、力の素質の無い者を落としてしまってはその方にも余計な苦労を掛けます。

故に素質のあるものを他の世界の神様に頼み込み、了承を得たうえで話し合いの場を設けてもらいました。



「もんげ~もんげ~、もうね、サティスファクションの蚕に胸中無若っていう、その!その心を!」



 ……あくまで、あくまで話し合いです。断られるのならそれでおしまい、協力してくださるのでしたらこちらも惜しみなくバックアップをするという予定となっておりました。

しかし、しかしですよ……



「あ、あの、話をきいてくださ」


「水金地火木土天海!!!!!!!!!!!!!」


「ヒィッ!」



 ……来てくださった方、風見倫太郎さんは、何故か何を言ってるのかも分かりませんし、話が出来そうもない方なのです。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「も、もう一度言わせていただきますね」


「アブラアブソーバー。おーいおーい、燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや~」


「……貴方は、元居た世界でお亡くなりになってしまいました。とても悲しい事だと私も思います……しかし、貴方には、勇者としての素質があります。ですので今回、この件に関しまして話を」


「ビジュアル系の水素ガス? 様式美にとらわれない素晴らしい画期的な相乗効果をもたらす趣味嗜好の塊じゃないか! いい加減にしろ!」


「ヒィッ!」



 突然の叫びに、思わず身がすくんでしまいました。

しかし、私は話さなくてはなりません。この人には、私の担当の世界を救えるかもしれないだけの力があるんですから……!!

そう思って私は自分を奮い立たせました。



「で、ですので! 倫太郎さんには、どうかこの世界に転生していただきたいんです! お願いします!」


「いいよ」


「い、いいんですか? って、あれ? 普通に話せ」


「ビビビビビビビビビジジジジジジジッジジジビビビビビビビビビ」


「……」



 ……今さっき、了承してくださったような……い、いえ! 聞き間違いだったとしたらいけません。

ここはもう一度お尋ねして、それで確かめましょう。



「あ、あの」


「ソウルフライ、ソウルフード、……半角英数字で、でしたら! ミンチミンチのヘテロヘテロ」


「……先ほどの、その転生の件になんですが、本当によろしいんですか?」


「いいって言ってますやん。今後ともよろしく」


「! ほ、本当ですか!? 本当にいいんですね!?」


「ワイハー? だからワイハーは無いって」


「……」



 …………どうしましょうか。この方の真意が分かりません。

結局、本当にいいんでしょうか。後から実は違うとか、そんな事言っていないとかそうなってしまっても戻れませんし……



「本当にいいんですね? 異世界に送った後からは戻す事は出来ません。今はもう死を受け入れて、安らかな魂の安寧を求めるというなら、断る事も出来るのですよ?」


「ネグリジェ? それともチューブトップ?」


「……服の話ではありません。あなたのその後の話です。それと、もし異世界に貴方が来て下さるのでしたら、こちらにも特典というものの用意があります」


「……寒すぎるサムシング」


「貴方の望むものを一つ。才能でも物でも、可能な限りではありますが何か一つ差し上げます。……異世界に来てくれますか?」



 私は極めて真剣な表情になるようにして倫太郎さんを見ます。

話は恐らく、通じていると見ました。であるのなら、恐らくこのよく分からない状態は演技。

であるなら、「こちらは真剣に話しているんですよ! 聞いてください!」というオーラを出せば多少なりまともに聞いてくださると私は考えました!



「……」



 やはり、上手くいったようです! 倫太郎さんは何か難しそうに考えてくださってくれています。

あれはただの演技……もしくは、自分の死を受け入れられずにパニックになってしまったのでしょう。

前者はともかく、後者であるのなら痛ましい事です。しかし、そんな方にしか頼れない自分の不甲斐なさは十分理解しているつもりです。

もし、この方が異世界に転生してくださるのでしたら私も全力でバックアップさせていただきたいと思っています。



「この床、何味かな……」



 すると突然、倫太郎さんが床を舐め始めました。

……えっ? え?え?え?え? な、何してるんですかぁああああああ!!



「り、倫太郎さん! き、汚いですよ! やめてください!」


「……アスタキサンチン。賞味期限切れのティッシュみたいな味がする。文明開化の音はしない」


「……うっ……」



 倫太郎さんはケロッとした顔でその場で前転を始めました。

もう……やだ……なんで、なんでいきなりこんな事に……

私はただ、転生するかどうかの話をもちかけようとしただけなのに……



「う、ううぅ……」



 …………なんて思っていたら、涙が出てきました。

どうして!? ここまで来るのにも結構苦労したんですよ!? どうしてそうなるんですか!?

自分の世界に適した方がいない事を隅々まで確認して、居ない事が分かったら上の神様の許可をとって、

あっちこっちに頼み込んでやっと一人、いいよって言われて連れて着ていただいたのに……



「ヒグッ、ヒグッ、こんなの、うぅっ、あんまりですよ……うう、うううぅ……」


「……」



 私が俯いて泣いていると、不意に両肩に手が置かれました。

顔を上げてみると、倫太郎さんの顔が見えました。

その顔は先ほどまでとは違い、真剣そのものです。

も、もしかして……慰めようとしてくれてるのでしょうか?



「……女神様、でよろしいんでしょうか?」


「えっ……あ、はい。なんでしょう?」



 私が答えると、倫太郎さんはとてもいい笑顔でこう言いました。



「――――――この世は地獄ですよ?」



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