第74話 新しい目的
フィンフの奴隷契約から十日が経った。
オーストセレス王国の民衆は魔王の国となったこの国はどうなるのかと心配したが、特別に変わったことは何一つ無かった。
当然だ。
ゼントは政治については素人だ。
フィンフ女王に丸投げしている状態でゼントの方から干渉することもなかった。
奴隷達もゼントの自由奔放さは理解しているので、何も言うことはなかった。
王城内で奴隷達に世話をさせながら自堕落に過ごしていた。
食欲、睡眠欲、性欲にとやりたい放題だ。
だからといって周りが迷惑していることもない。
性欲を向けられるのはアインスかフィーアだ。
ツヴァイは食欲と睡眠欲に使われていた、
ドライは完全に放置だ。
使用人達も自分に迷惑がかからないのならと、余計な干渉は控えていた。
それもゼントにとっては都合が良かった。
変に取り入れてもらおうと計る者が現れるかもしれないと思ったが、そんなことをする人は誰もいなかった。
もし気分を害したら殺されるかもしれないと恐れていた。
よってゼントは奴隷達と欲にまみれた生活を七日間行った。
奴隷の中にはフィンフも含まれていた。
オーストセレス王国の新女王に就任したフィンフは毎日忙しい日々を送っていた。
だが、主であるゼントに呼ばれれば、全ての仕事を部下や空気に投げ出して駆けつけていた。
フィンフが初めてを捧げたのは女王の式典が終わった日のことだ。
念入りに体を洗い、髪と服を整えて、ゼントの待つ部屋へと向かった。
ゼントの部屋はシューネフラウと同じ階にあり、今まで空部屋だったところだ。
シューネフラウは失礼しますと扉を開いた。
本来ならお付きのメイドが開くのだが、メイドを連れて行くのは失礼だと思って一人で来ていた。
ゼントはベッドに腰掛けたまま、酒を飲んでいた。
異世界では十五歳で成人のため、現在十六歳のゼントが酒を飲んでも問題はなかった。
例え問題があったとしても、魔王であるゼントに意見しようなどという人はいなかった。
「魔王様をお待たせしまい申し訳ございません」
「かまわない、早くこっちに来い」
「はい〜」
フィンフは甘いトロけるような声で返事をした。
ゼントの前に立つとフィンフは腕を引っ張られベッドに横になり、ゼントが覆い被さった。
「これからお前の全てを貰う。俺を満足させろよ」
「私の全てを受けっとって下さい。私を魔王様のモノにして下さい」
その日の夜は甘くフィンフに溶け込まれるようだった。
俺は目覚めると、上体を起こした。
隣ではフィンフがすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
布団を剥がすと当然の如く裸だ。
「おい朝だぞ」
フィンフの形も色も綺麗胸を揉んだ。
「ん……んん……」
色っぽい声を出すだけで起きる気配がなかった。
俺はフィンフの顔をペチペチと軽く叩いた。
「あ……おはようございます魔王様」
「起きたなら早く着替えるぞ。俺の服を持って来い」
「分かりました。でしたらディナに頼んで」
「お前が持って来い」
「私が……ですか?」
「そうだ。お前だ」
「かしこまりました」
フィンフは裸のままクローゼット内にある俺の服を持ってくると俺に差し出した。
起き上がる時に布団を持って行こうとしていたが、俺が許さなかった。
「どうぞこちらが魔王様の今日のお召し物になります」
フィンフが持って来たのは黒を基調に金や青色の装飾がついた前世で見たことがある貴族が着るような服だ。
オーストセレス王国を手に入れてから欲しい物は何でも用意してくれた。
奴隷達もドレスとかを着る時は嬉しそうだった。
だが、アインスやフィーアはドレスよりも俺が与えた服とかの方がいいらしい。
その考えは分かるようで分からなかった。
「お前が着せろ」
「よろしいのですか?」
「早くしろ」
「はい〜」
フィンフはゆっくりと時間を掛けて俺に服を着せた。
手だけでなく体をくっつけて来た。
昨日あれだけ堪能していたのにまだ足りないようだ。
15分以上掛けてやっと着替え終わった。
たまにならいいが、毎日はやめておこうと思った。
部屋を出ると奴隷達が全員跪いていた。
「「「「おはようございます魔王様」」」」
おぉ!
全員声を揃えて挨拶をした。
あのドライもちゃんと声を揃えていた。
勉強や作法や鍛錬も頑張っているらしいし、何か褒美でもよういしてやるか。
フィンフが用意出来る物以上となるとかなりハードルが上がる。
面倒なので本人直接聞いてもいいが、取り敢えず考えてはみるか。
「朝飯にしよう」
「「「「はい」」」」
大食堂でいつも通り豪華な食事を楽しんだ後は、
フィンフは女王としてのお勤め。
アインスは騎士連中と鍛錬。
フィーアはドライの勉強を見ている。
俺は部屋でゆっくりと本を読みながら、ツヴァイの淹れて紅茶を楽しむ。
お付きのメイドがもう一人いるが、身の回りの世話は殆どツヴァイにしてもらってるため、する事がない。
ドアの近くで人形のように立っているだけだ。
黒っぽい茶髪で表情が全く変わらない。
本当に人形のようだ。
なんであの状態で毎日何時間もいられるのか不思議だ。
たまには仕事を与えてやるか。
「ツヴァイ、こっちはいいからアインスと一緒に鍛錬をして来い」
「え⁉︎私は……」
「命令だ」
「……かしこまりました」
落ち込んでるようだが、あとで適当に相手してやればいいか。
「おいメイド、ツヴァイの代わりに紅茶を淹れろ」
「!!、かしこまりました」
メイドはビクッと驚いたが、すぐに冷静さを取り戻して決まった綺麗な動作で紅茶を淹れた。
「どうぞ」
俺は一口味うと人によって紅茶の味が違うのだと分かった。
ツヴァイの場合は俺に合わせた淹れ方だが、このメイドは喫茶店で出るような、みんなに好かれる淹れ方だ。
美味しいがツヴァイの方がいい。
「美味いな」
「ありがとうございます」
「名前はなんていうんだ?」
「カオレと申します」
「なあ、カオレ。この大陸で一番の美女は誰だと思う?」
「そうですね、私はフィンフ様が一番だと思っております」
「そうか、では二番や三番は誰だ?」
「……、ズィートラニカ国のエルフの王女姉妹が美しいと聞いたことがあります」
「他には?」
「騎士達の噂ではヴェストニア法国で聖女と呼ばれる美しい女性がいると聞いたことがあります」
「他の国にはいないのか?」
「ノルトワット王国は分かりませんが、ミッテミルガン共和国では前国王の王女が美しいと聞いたことがありますが、その種族も居場所も不明だそうです。長寿からエルフなのではと噂されています」
「ありがとな。さすが男だけあってそういう情報に詳しいな」
「……なんのことでしょうか?私は……」
「お前の佇まいをずっと見ていたんだぞ、お前がただのメイドではなく暗殺者なのは分かる」
カオレは返事をしないが俺は続けた。
「どこの所属なのかは知らないが、それはどうでもいい。お前なんぞ警戒するに値しないが、誰が狙いか分からなかったからな。今日初めてお前の淹れた紅茶に毒が入っていて狙いが俺だと確信した」
「では何故毒が入っていると分かっていて飲んだんだ?バカなのか?お前はもう指先一つ動かすことは出来ない」
カオレはスカートの中の太腿に隠した二つのナイフを持って襲いかかってきた。
狙いは首だ。
「お前程度のレベルでどうにか出来ると思うなよ」
俺は振り向くこともせず、二つのナイフは俺の首に当たったが、斬ることは出来ずに弾かれてしまった。
「その程度の武器で俺が傷つくと思うなよ」
俺は立ち上がって振り向く。
カオレは怯えた表情で後退った。
「何故動ける⁉︎毒は効いているはずだ!」
「あぁ、効いていたさ。だが俺には『自然回復スキル』があってな。毒は一瞬効くがすぐに治ってしまうんだ。残念だったな」
「そんなこと聞いたことないぞ」
「それは今まで俺ぐらいのレベルにお前が会ったことなかっただけだろ」
俺のはステータスを表示した。
名前:ゼント
レベル:300
年齢:16歳
性別:男
種族:人間
魔法:〈火魔法(上)LV10〉 〈水魔法(上)LV10〉up〈地魔法(上)LV10〉〈風魔法(下)LV5〉new〈闇魔法(上)LV5〉〈光魔法(上)LV8〉
スキル:〈剣王LV10〉〈槍王LV10〉〈闘王LV10〉〈投擲LV10〉〈隠密LV10〉〈自然回復LV10〉〈運搬LV10〉〈奴隷契約〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉
称号:無能王
「そんなバカな……」
「俺に殺されることを感謝しな」
俺は闇魔法『グラビティボール』を発動した。
丸く黒い塊は直径二メートルあり、カオレに触れると吸い込むように包み込んだ。
カオレは暴れて出よとするが、顔や腕や脚が押し潰されて、最後には一センチサイズの肉片へと変わり、俺はそれを窓から捨てた。
潰される前に誰かの名前を叫んでいたような気がするが、すぐに忘れた。
襲って来たことはムカつくが、いい情報を手に入れた。
次の目標は何処にするか?
ミッテミルガン共和国の王女は行方不明だから後回しにするか。
フィンフにでも調べさせておこう。
だとすると、ヴェストニア法国の聖女かズィートラニカ国のエルフだな。
本を読んである程度この世界の知識を覚えたが、エルフは種族的にあまり友好的ではない。
ズィートラニカ国も鎖国のような状態で外部からの侵入は断固拒否らしい。
いくつもの手順を踏んでやっと入国が許されるとのことだ。
面倒だから正面から行って邪魔する奴から殺して行ってもいいが、まずは簡単な方から行くか。
ヴェストニア法国の聖女を奴隷にしよう。
どれほどの美人か楽しみだ。
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