第70話 陥落
王城内部では大騒ぎになっているが、ヴンディル達のように王女側についた一部の兵達の活躍で使用人達のような非戦闘員は避難を進めていた。
「既に魔王を名乗る者が王城内に侵入しています。国王様も早く逃げて下さい」
「第三騎士団と第二・第四騎士団の騎士達が向かっていますが、既に半分以上がやられたと報告がありました」
「魔王がこの謁見の間に攻め入るのも時間の問題です」
「いや、わしは此処に残らなければならん」
「宰相殿や三侯爵は行方が分かりません。既に城の外へ逃げたのだと思われます」
「第一騎士団は魔王に寝返り、もう城内部に魔王に反抗するだけの力はありません」
「我々が命をかけ少しでも時間を稼いでみせます。ですから国王様だけでも逃げて下さい」
「子供達のためにもわしは魔王と会わねばならぬ」
その顔は国民を思う王ではなく、子供を思う一人の父親の顔だった。
護衛の兵士達はそれ以上声を出すことが出来なかった。
自分達は国のために国民のためにと尽力していた国王に忠誠を誓っていた。
だが、忠誠を誓った国王はもう存在しない。
兵士達は自分が何をすればいいかもう分からなくなってしまった。
ドゴーーーーーン!
「なんだ?随分と質素な歓迎だな」
謁見の間に現れたのは黒と青を基調とした防具を身につけたゼントが高級で煌びやかなドアを火魔法でぶっ飛ばしてきた。
「そなたが魔王か?」
「そうだ。随分と偉そうだな」
「貴様!国王様に向かっ……」
兵士の一人が大声を上げるが、最後まで喋ることはなかった。
兵士の心臓部分には拳サイズの穴が空いていた。
ゼントが手の平から放った水魔法『アクアブレス』によって貫通させられた。
兵士は何をされたかも分からずに死亡した。
ゼント以外の誰も何をしたのか理解出来なかった。
「その国王とやらは魔王よりも偉いのか、おい!」
「兵士が失礼した魔王殿。それ……」
「魔王『様』だろ」
「……魔王様がわしになんのようですか?」
「お前には無様に死んでもらう。残虐な国王としてな」
「残虐とは、わしはこれでも民から信頼はあついと自負しておるがの」
「何を言っている?お前が第四騎士団に命じてタールに何したか知らないわけではないだろう?」
「あれは宰相が……」
「そうだな。お前と宰相が第四騎士団に命じめやらせたことだろ。しかも過去に何度も同じ過ちを犯してきたんだ。そんな王は残虐な国王ではなくなんだと言うんだ」
「そういう筋書きか」
「理解が早くて助かる」
「一つだけ頼みがある。聞いてもらえぬか?」
「言ってみろ」
「わしの子供達だけは助けて欲しい。それがわしのたった一つの願いだ」
「シューネフラウは俺が貰う。他はしらん」
「なんとか命だけでも助けて貰えぬか?」
「俺に逆らうようなら始末する。精々俺と関わらないように大人しくするそうに言っとけ。俺の邪魔をするようなら殺す」
「分かった。わしから必ず伝えさせてもらう」
「お前はシューネフラウ以外の子供に会う前に死ぬ事になるから、手紙でも書いとくんだな」
「感謝する」
殺されることに感謝されたのは初めてだな。
国王との離しが終わると同時に壊れた扉とは別の扉が開いた。
そこにはアインスとフィーアに連れられ、縛られた宰相がいた。
「離さぬか!私を誰だと思っている!」
「忠誠を誓った国王と守るべき民を己の命かわいさに見捨てた愚か者です」
アインスは縛られた宰相の縄を離して、を床に転がした。
「汚らわしい犬風情に言われたくないわ!」
ジャギ!
ゼントがアイテムボックスからデスサイズを取り出すと、床に転がっている宰相の顔数センチ先に突き刺した。
「俺のモノを汚らわしいと言ったお前を直ぐに殺してやりたいが、お前にはまだ使い道があるから生かしといてる。調子に乗るなよバカが!」
宰相ゼントの気迫にやられ、それ以上に言葉を発することが出来なかった。
「ヴンディルも予定通り行動しているようだな」
「はい、さすがは魔王様自ら計画準備した作戦です」
今頃はフラウも民衆に対応しているだろうし、問題はないな。
なんかこうもあっさり上手く行くと達成感があまり湧いてこないな。
「アインスはあの国王を捕らえて、そこの愚か者と一緒に牢屋に入れてこい。フィーアはフラウのところに『今すぐ来い』と連絡して来い」
「「かしこまりました魔王様」」
アインスとフィーアは一礼すると、無駄な動きなく命令をこなして行く。
こういう奴らがいると便利で助かる。
前世だとこういう時何かしらトラブルが起きるのだが、何も起きないな。
スムーズに事が進むならいいことだから、運が良かったと思っておこう。
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