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無能コンクエスト〜無能と呼ばれた男が世界を征服します〜  作者: 秋月玉
ニ章 オーストセレス王国編
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第59話 悪くはない


 数時間前。


 ドライとフィーアは宿屋に戻り、今日買った服を見ながら歓談ということはなく、勉強をしていた。


「また同じところを間違えてるわ」


「べんきょうきらーい」


「アインスさんにも言われたでしょ、それではいつまで経ってもゼント様の足を引っ張ることになるわ」


「たたかいではまえにたってる」


「それだけでしょ、日常でも役に立ちなさい」


「ふぃーあはなにしてやくにたってる?」


「私は……」


 フィーアは考えた。

 自分はいったい何で役に立っているのだろうか?

 不殺の呪いで戦いではまったくの足手纏いだ。

 日常生活では馬の操車と道案内だ。

 料理もしているが、メインはツヴァイで自分はサブどころか手伝いレベルだ。


 夜の相手としてはアインスばかりで、求められることはなかった。

 初めてゼントと会った時は熱い視線を貰えた。

 旅の道中でも視線を感じることはあっても、直接触れては来てくれなかった。

 

 もしかしたら、こっちから誘うのを待っているかと考えたこともあったが、拒否されるのが怖くて声をかけることが出来なかった。

 自分としても男の方から誘って欲しいという思いがあった。

 今までは性的な行いなど、情報収集の手段の一つでしかなかったが、その気持ちは変わった。


 ゼントに求めて欲しい。

 ゼント以外の男に触れられたくないという思いが強くなった。

 ゼントが命令で情報収集のために身体を知らない男に捧げろと言われたら仕方ないと思うが、それでも心の内では嫌悪感が出てきてしまう。


 早くのこの身体をあなただけのものにして欲しい。


「ふぃーあ?」


 いつの間にかトリップしてしまっていた。


「私ももっと役立てることを増やしていかなければならないわ。一緒に頑張りましょう」


「うん」


「だから勉強を続けるわよ」


「うーん」


 さっきの返事どだいぶ違ったが、気にせずに続けた。


 ダンッダンッダンッ


 部屋の外から数人の足音が響いてきた。


 ガチャッ


 外から鍵を開けられた。

 この部屋の鍵はフィーアが持ってるものと宿屋の店主が持っているスペアの二つだけだ。


 となると店主なのか。

 声もかけずに鍵が開けられて、ドライとフィーアは身構えた。


 部屋の中に男達が4人入って来た。


「おーいたいた、部屋は間違ってなかったな」


「じゃあ早く済ませようぜ」


「大人しくしていれば、怪我はしないぜ」


「素直に俺たちの言うことを聞きな」


 男達はそれぞれ剣を構えた。


 ドライはもしもの時のために用意していた剣と盾を持ってフィーアの前に立った。


「お嬢ちゃん戦うのかい?」


「やめときな、俺たちはCランクの冒険者なんだぜ。怪我じゃすまねぇぞ」


 男はドライの盾に向かって剣を振り下ろした。

 

 パリッ


 盾に向かったのはわざとだ。

 今回の目的は殺人ではなく、誘拐なのでターゲットにはなるべく怪我をさせるわけにはいかなかった。

 相手は子供だ。

 盾ごと吹っ飛ばせばいいと思っていた。

 予想外だったのはドライのレベルだ。


 男のレベルが20に対して、ドライのレベルは30だ。

 さらにドライの盾王のスキルのおかげでドライへのダメージは0だ。

 つまり、男だけが吹っ飛ばされる結果となった。


「おい、子供相手に何してんだ?」


「こいつめちゃくちゃ硬いんだよ。レベルやスキルが上なのかもしんねぇ」


「まじかよ!」


 男達に緊張が走った。

 冒険者をやっていて、格上の魔物と対戦したことはあった。

 そういう時こそ、冷静になり連携攻撃が有効なことを理解していた。


「囲んじまえ!」


 男達はドライの後ろに回り込もうとした。ドライは何処からでも攻撃がきてといいように身構えた。

 しかし、それは失策だった。


 ドライはまだ初心者だ。

 レベルが上がっても状況判断が甘いところがあった。


 だから、致命的なミスをする。


「きゃあ!」


 フィーアの首に剣が突き立てられた。


 自分が攻撃されることばかりに気を張っていて、フィーアまで気が回らなかった。

 それもそのはず、今まではアインスやツヴァイがフォローしてくれていた部分が抜け落ちたんだ。

 それを理解するにはドライは経験不足だった。


「動くなよ、大人しく武器を捨てないとこいつが怪我することになるぜ」


 男達はフィーアに大きな怪我されるつもりなど無かったが、ドライにそれが分かるはずもなかった。


 ドライは俯き剣と盾を捨てた。


「最初からそうやって素直になっとけばいいんだよ」


 男の1人がドライの手と足を紐で縛り、口を布で塞いだ。

 フィーアにも済ませると、宿前の馬車に移動した。

 宿屋には説明済で見て見ぬふりをされた。


「俺はこいつを坊っちゃん達に届けてくるから、主人の始末は頼んだぞ」


「任せとけ」


 操車の男は3人を残して馬車で走り去った。


 これがこのパーティーの今生の別れとも知らずに。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 現在。


 男に言う通りに移動して目的地に到着した。

 目的の建物の前には見張りが2人いた。


「なあ、俺はもういいよな」


「さっさっと行け、もしどこかで俺のことをしゃべったら……」


「分かってるよ。あなたのことは今日で忘れるし、もう関わらねぇよ」


 男は背中を向けて走りだした。

 殺してもよかったが、あんなのはもうどうでもいい。


 俺は魔剣を抜いて見張り達に襲い掛かった。

 相手に武器を構える暇など与えない。

 2人を始末すると俺は扉を蹴っ飛ばした。


 中には誰もいなかった。


 嘘をつかれたか。

 それとも元から嘘の情報を教えられていたか。

 いや、それはない。

 偽物なら見張り達がいるわけがない。


 耳を澄ませると、下の方からうっすらと音が聞こえた。

 また地下かよ。


 奥に行くと地下への石階段があった。

 俺は急いで階段を降って行った。


 足音が響いて下にいる敵にバレてるだろうが関係ない。

 むしろこっちを警戒して手を止めてくれれば好都合だ。


 階段下に様子を見に来た執事服を着た若い男がいた。

 俺は魔剣を投げた。

 魔剣は執事男の心臓部分に突き刺さった。

 

 床に着いた俺は魔剣を抜いて周りを見渡した。

 中には高級そうな服を着た若い男が2人いた。

 1人はヒョロそうな暗い雰囲気の男で、もう1人は普通の優男だ。

 ヒョロ男はドライの手を掴んでいて、優男はベッドの上で情事の最中だった。


 その他にドライとその周りにドライと歳の変わらない女の子が5人いた。

 フィーアの姿が見えない。


「誰だおまえは⁉︎」


 ベッドで女の子を押し倒していた優男が俺を指差してた。


 それよりも気になるのは、


 神速と呼べるような速さで俺はドライの手を掴んでいたヒョロ男の右腕を掴んだ。


「いででで、はなせー」


「おまえ如きが俺のものに触れるな!」


 俺はヒョロ男の顔を殴り飛ばした。

 ヒョロ男は石壁にめり込んで、後頭部から出血していた。


 ベッドにいた優男は逃げようと階段へ走った。


 俺が逃すわけないだろ。


 優男に追いつくと、後頭部を鷲掴み地面に叩きつけた。

 そのまま背中から心臓部に向かって魔剣を突き刺した。

 絶命したのを確認して魔剣を抜いて血を払った。


「フィーアはどこだ?」


「あっちにつれていかれた」


 ドライが指差した方向には、小部屋があった。

 俺は急いで部屋の扉を開けた。


 中には裸のフィーアに覆い被さっていたガタイの良い男がいた。


「テメェなんの……」


 言葉を言い終える前に俺はガタイのいい男を蹴り飛ばした。

 壁にぶつかって転がった身体の心臓に魔剣を突き刺した。


 これで全部片付いた。

 人数が少ないように感じるが、こいつらも世間にバレたくはないからだろう。

 

「ゼント……さま……」


 フィーアは俺に抱きついて子供のように泣きじゃくった。

 俺はフィーアが泣き終わるまで抱きしめ続けた。

 

「すみません、情け無いところをお見せしました」


「構わない、身体は大丈夫か、さっきの奴に何もされなかったか?」


「身体を見られはしましたが、乱暴を受ける前にゼント様に助けられましたので大丈夫です」


 それはよかった。

 フィーアの裸を見るなど万死に値するが、既に命はない。


「怪我がないならさっさと外に出るぞ」


 俺はアイテムボックスから服を取り出してフィーアに着るように言った。

 先に部屋を出ると、ドライが泣いてる子供達を励ましていた。

 

「そうとおり、ご主人さまは強いからもうだいじょうぶ!」


「……ほんとう?」


「ご主人さまは魔王だからあんしんして」


「魔王ってことはあの人たちと同じ悪者なの?」


「でも、私たちを助けてくれたよ」


「もしかして魔王って本当はいい人なの?」


「でも、お伽噺だと勇者に倒された悪者って書かれてたわよ」

 

「逆だったんじゃないの?魔王が救世主で勇者がそれを倒した悪者だったのかも」


「それなら納得できるわ。魔王は救世主だったのよ」


「魔王様は救世主だったのね」


 おかしい。


 何故ドライよりも育ちが良さそうでちゃんと話せる子供がそんな勘違いをしているんだ。

 ヴンディルもそうだったが、この王国には魔王を信仰している宗教でもあるのか?

 そう思えてきて頭が痛い。


「ご主人さま」


 ドライが近寄って来た。

 多少言葉使いが良くなったようだが、まだまだしゃべり方が変だな。


「魔王様だわ」


 他の子供達も近寄って来た。


「助けてくれてありがとう」

「魔王のおかげで助かったわ」

「ちょっと、ちゃんと魔王様って呼びなさいよ」

「魔王様ありがとう」

「救世主様ありがとう」


 なんでこんな状況になっているんだ。

 俺はただ自分の奴隷を取り戻しに来ただけなのに、なんでこんな子供に感謝されてるんだ。

 魔王の威厳が台無しだな。


「ご主人さま……すごーい」


 ドライがキラキラとして目で見てくる。

 

「こんにも慕われているとは、さすがは魔王様ですね」


 いつの間にか部屋から出たフィーアまでキラキラとして目で見てくる。


 魔王ってこんなキャラだったか?


 前世のゲームとかとは全然違うな。


 でも……


 俺は群がる奴等の顔を順番に見た。


 悪くない気分だ。


読んでくれてありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思ったら、下にあります☆☆☆☆☆で作品への応援をお願いします。


ブックマークをしてくれると嬉しいです。


感想•レビューや誤字脱字の報告なども受け付けていますので、書いていただけると執筆の励みになります。



どうかよろしくお願いします。


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