第50話 ギガンツァー戦.2
ギガンツァーがついに腰刀を抜いた。
刀は日本刀のように片方だけ刃がついていて、柄頭と鍔がついていて大きさだけを除けば立派な日本刀だ。
鎬は赤黒く光っていて、波紋がギザギザに波打っていた。
封印されて何百年も経っているはずなのに刃こぼれ1つ見当たらなかった。
魔王軍の武器というのは全部不老不死なのか?
あれも俺の使いやすい大きさに変化するなら貰ってやろう。
日本出身としては日本刀は使ってみたい武器の上位にランクインする。
俺だってそうだ。
武器屋に無く、諦めて自分で作るしかないのかと思ったが、目の前に欲しいものが現れた。
これは俺に手にしてくれと言っているみたいなもんだ。
ギガンツァーは特大刀を振りかぶり、俺に向かって唐竹割のように真っ向から攻撃してきた。
そのスピードと破壊力は凄まじいものだった。
振り下ろされた地面には何メートルか分からないぐらい深い地割れと余波による突風で周りの木々が吹っ飛んでいた。
まさに災害という言葉に相応しい攻撃だった。
あんな攻撃を何回もされたら、スリィート伯爵領でも滅んだことだろう。
もし俺に当たっていれば、真っ二つではなく血と肉片だけになっていただろう。
だが、得物が大きく的が小さいと攻撃方法は大体予想が出来る。
故に見てから動いて避け切ることも可能だ。
攻撃範囲が大きい分避けるのは難しいと思ったが、今の俺のレベルなら50メートルぐらい動くことも大したことなかった。
ギガンツァーの後ろに回り込んだ俺は、地魔法でギガンツァーの四方を壁で囲んだ。
ギガンツァーがすぐに壁を壊そうとするが、それよりも早く俺は魔法を唱えた。
「フレイムストーム」
火魔法でギガンツァーの全身を燃やす。
地獄の釜の出来上がりだ。
しかし、5秒と持たずに壁の一面が崩れて剥け出されてしまった。
ギガンツァーの全身から焦げたような煙が上がっているが、動きが鈍ったようには見えなかった。
砕けた壁から炎が溢れ出して、森が火事になった。
もう周りの被害なんて知ったことか。
俺の領地なんだから、俺が壊す分には何の問題もない。
文句がある奴は俺がまとめて殺してやる。
俺は魔法を続けた。
相手のターンなどもうやる気はない。
「ベルク・ゲフェングニス」
ギガンツァーの頭上に楕円形の岩で作った巨大な囲を出現させた。
それを頭の上から勢いよく落とした。
出口無しの岩のかまくらだ。
しかし、かまくらの上には半径1メートルの穴が空いていた。
別に欠陥住宅というわけではない。
これはわざとだ。
その穴からはギガンツァーの頭ですら抜け出すことは出来なかった。
俺はその穴に向かって魔法を唱えた。
「アクアウォール」
魔法陣から滝のように大量の水が流れ込んだ。
火事になった部分に覆い被さる様に水が流れたので、これで丁度良いだろう。
ヒーロー願望がある奴だって、自分で他人の家に火を付けて火事を起こした後に、レスキュー隊に連絡して、到着まで救助活動をするもんだろ。
それで次の日のニュースにヒーローとして出演ゲットだぜ!
真犯人として載るかもしれないが、そんなことする奴は口封じすればいいんだ。
あらゆる手を使ってな。
それと一緒だろ。
つまり俺は火事を防いだヒーローだ。
ヒーローにやられたんだから、素直に倒されればいいのに現実はそうはいかなかった。
窒息死でもしてくれたら嬉しいんだが、そうもいかない。
檻が壊されて崩れてしまった。
瓦礫の中からギガンツァーが起き上がった。
鎧や隙間に見える皮膚に多少の傷が出来ていたが、超大刀には全く傷がなかった。
俺はそれからも魔法の連打を続けた。
闇魔法と光魔法の状態異常攻撃(主に目眩し)に地魔法で壁を動きを封じたり、檻で囲んだり、穴に落としたりした。
それに加えて、火→水→火→水→火→etc.
これを魔力のある限り続けた。
どんなに硬い鎧でも化学反応には弱いはずだ。
温められた物が冷やされるとどうなるか。
答えは一目瞭然だ。
俺の目の前から滅んでいくんだ。
もう無双状態だと思ってが、油断は出来ない。
時折、思いがけない動きで超大刀を振るって攻撃をしたり、殴ってきたりら、蹴りやを仕掛けてきて俺もダメージを食らった。
だが、先に膝をついたのはギガンツァーだった。
全身を覆っていた鎧は跡形もなく崩れていた。
顔は白髪が見えていたが、全て燃えて無くなったようだ。
それはギガンツァー自身も例外ではなかった。
身体中で黒くボロボロになっていた。
左腕は指が3本抜けて、超大刀を持てずにいた。
右脚は脛より下が無くなっていた。
超大刀を振るうどころか、立つことも出来ない状態だ。
こうなるまでに俺の魔力は1割ぐらいしか残っていなかった。
結構ギリギリだった。
レベルが上がったおかげで魔力量も上がっていたが、それでもやっとここまで来れた。
ギガンツァーもただやられっぱなしなわけは無く、魔法のインターバルを利用して反撃もしてきた。
周りの砕けた岩や鎧を投げ込んでり、ジャンプして超大刀を振ってきた時は本気で驚いた。
あの巨体がどうやったジャンプして来ると思えるんだよ。
デスサイズでのガードが間に合って良かったが、一瞬でも反応が遅れていたら、俺は真っ二つかミンチのどっちかになっていただろう。
それにガードした武器が魔剣でもやられていただろうな。
死神からデスサイズを貰っていて良かった。
「……ぅぅぅ……オォ……」
ギガンツァーがなんとか立ち上がろうとしているだろうが、片脚が欠けた状態で立ち上がれる筈もなかった。
トドメを刺してやる。
俺はデスサイズをしまうと、残った魔力を奮い絞って出し切る。
光魔法で体の筋力や反応速度などを上げる身体強化。
水魔法で鎧を作成して移動スピードを向上させる。
地魔法で3メートル程の槍を作成。
火魔法で槍をに炎を纏わせて攻撃力を上げる。
俺の持っている魔法で奴にトドメを刺す。
槍を構えて俺はギガンツァーに正面から突っ込んだ。
最短距離で最速の攻撃で反撃なんて与えない。
そう、
俺の頭には虫の息のギガンツァーが反撃するなんて考えは無かった。
動かなかったのは、あえてということを……
俺との距離が残り2メートルと迫った時、顔を上げたギガンツァーの目がこれまで以上に鋭くそれだけで人を殺せそうだった。
勿論、そんなことで俺が死ぬなんてことは無かった。
しかし、思い出した言葉があった。
『ピンチこそ最大のチャンス』
何の言葉だったかは忘れたが、漫画やアニメやラノベでよく目や耳にした言葉だ。
トドメを刺す時が1番油断している。
弱者が強者を倒す要因の一つだ。
身体中ボロボロの木偶の棒がどうやって反撃して来ると思ったか。
ギガンツァーは右手と左足で踏み出して俺に噛み付いて来た。
クラウチングスタートとはいかないが、超短距離でならそのスピードは計り知れないものだ。
正面から攻撃していた俺はギガンツァーの口の中に突っ込むかたちになり上半身が入ったところでギガンツァーに噛み砕かれてしまった。
ギガンツァーはヤッタと思ったと同時に違和感を覚えた。
間違い無く噛み砕いたはずなのに、感触が全くなかったのだ。
相手はギガンツァーに比べてたら、蟻のように小さい。
それでも全くないというのはおかしかった。
「よう、いい悪夢は見れたかよ」
ギガンツァーはあり得ない光景を見ていた。
見下げたそこには、攻撃を仕掛ける前の槍を構えていた俺がいるんだからな。
傷だらけの黒い顔からは分からないが、冷や汗でも流しているんだろう。
闇魔法『邪眼』
奴と目が合った瞬間に仕掛けた。
この魔法は事前に自分の目に魔法を掛けて、好きなタイミングで目があった相手に幻覚を見せることが出来る。
言ったろ、
俺の持っている全ての魔法で奴にトドメを刺すってな。
ただ、この魔法は準備と使用する時に同じ量の魔力量使用し、目に魔法をかけている間は段々と魔力が減ってくるし、準備にも時間がかかる。
つまり、効果はあるがものすごく効率が悪いんだ。
今回は相手が怯んでいる時間が長かったから出来たが、準備段階で種が分かっていたら対処されてしまっただろう。
そもそも、そんな時間を与えてくれるかどうかも分からない。
強い魔法ではあるが、頼りすぎるのも使いすぎるのも考えないとだな。
さて、本当のトドメといこうか。
俺は槍を地魔法で作った発射台にセットした。
大型孥砲だ。
あんな木偶の坊にあえて近付いてトドメを刺すなんて、俺がそんな優しい人間なわけないだろ。
俺は魔王だぞ。
ピンチこそ最大のチャンス?
それが間違っているんだ。
俺がピンチになったことなど、この戦闘では全くない。
こいつを前魔王が手名付けられなかったのは、単にじゃじゃ馬だっただけだろう。
こいつは単細胞のバカだ。
俺がそんなバカに負けることはない。
正気に戻ったギガンツァーが自棄になったかのように飛びかかって来た。
遅いけどな。
俺はバリスタを発射した。
火を噴いて勢いよく発射された大型槍はギガンツァーの口の中に吸い込まれていた。
ただし今回は歯や顎の骨を砕いてだけどな。
当たったのを確認すると、俺は次の魔法を唱えた。
「エクスプロージョン!」
ドゴォォォォン!
次の瞬間ギガンツァーの中から大きな爆発音と共に火花と肉片が飛び散った。
例え外皮がどんなに硬くとも中が柔らかいのが定石だ。
攻略には苦労したが、なんとか倒せたな。
やってやったぜ。
俺の意識はそこで途切れ、目の前が真っ暗になった。
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