黒い狼
俺は教会の屋根の上で見張りをしている。
魔王である俺がこんなことをするはめになったのは奴隷達のせいだ。
フィーア達から街が魔物達に侵略されていくのを見過ごすのだが、ハルカは教会のガキの守りたいなんて言うから襲ってくる魔物を魔法で倒していった。
今回の作戦だが、俺は全く覚えてない。
アインスが分かりやすく説明してくれたが、殆ど覚えてない。
取り敢えず、その場の考えで動けばいいかと思って後半なんて全く聞いてなかった。
この後どうするんだっけ?
どの程度街が壊れるのを待てばいいんだ?
今までと一緒でボスが出てくるまで待てばいいか。
しかし、巨大な魔物の姿が見えなかった。
街から離れた剣聖が使っていた聖剣で封印されていたという場所の封印を破ってきたのは間違いない。
聖剣は確かにあって、アイテムボックスにしまっている。
だが、あのバカ勇者が持っていた剣も聖剣だった。
つまり、聖剣が二本あることになる。
剣聖は二刀流だったのか?
よく分からないが、特に考えないといけないことでもないだろ。
すると、俺の視界に黒い狼型の魔物が現れた。
体調は150センチメートル程でブルーウルフと同じか少し小さい感じだ。
しかし、そいつから感じる殺気は比べ物にならなかった。
そう。
シュラティールとかと同じレベルだ。
あいつがボスなのか?
小さいボスだな。
手始めに攻撃してみるか。
俺は下級火魔法のファイヤーボールを一発撃った。
黒い狼は避けよとしなかった。
ファイヤーボールが着弾すると煙が上がり、黒い狼は消えていた。
俺はすぐにその場から飛び退いて、地面着地した。
屋根の上を見上げると、さっきまで俺がいた場所に黒い狼がいた。
一瞬しか見えなかったが、奴が地面の中に沈んだように見えた。
また奴は自分の影に沈んで消えた。
俺はある憶測を立てて、自分の足元に向かってファイヤーボールを放った。
そこには俺の影から黒い狼が頭を出して、俺に噛み付くところだった。
俺はその場からジャンプして離れたが、自分の攻撃で多少ダメージを受けてしまった。
黒い狼も頭から何箇所か火傷していた。
漫画やラノベとかで影から攻撃されるなんてことは普通にある攻撃方法だったが、実際にやられると面倒だ。
こっちの攻撃手段が限られる。
こういう時は相手を観察して攻撃パターンを読んでタイミングよく攻撃すれば倒せるはずだ。
だから特に脅威には感じなかった。
俺は黒い狼を観察した。
黒い狼の頭は間違いなく狼なんだが、胴体の大きさに比べて手足が短かった。
ダックスフンド程じゃないが、それでも普通の犬より短かった。
狼なんて普通は恐ろしいとか思うはずだが、今の俺はなんとなく可愛く思えた。
飼うか?
魔物をテイムするなんてゲームだとよくあるシステムだが、この世界に来てやろうなんて思えなかった。
既に大食いのペットみたいな奴隷がいるし。
一匹ぐらい増やしても問題はないな。
どうやってペットにするか。
アインス達に聞いたら、異世界にはテイムのスキルはないんだと。
魔物は殺すものであり、一緒に過ごすなど自殺行為なだけだ。
オーストセレス王国で騎士団がブルーウルフをテイム出来るか試したが、失敗に終わってるらしい。
前世のあやふやな知識から、犬が服従の姿勢を取るときは腹を見せるんだったな。
黒い狼はまた影に潜った。
面倒な戦い方をする奴だ。
俺はその場を動かない。
黒い狼は俺の影から現れると俺の首めがけて噛みつこうとしてきた。
かなり早い。
俺は左腕を間挟ませると、黒い狼はそのまま左腕に噛みついてきた。
アインス達だと反応出来ずに殺されていたかもな。
防御が間に合ったとしても、それも意味をなさないだろう。
今も俺の左腕を噛み砕く勢いだ。
このまま此奴にくれてやるつもりはない。
俺は右手で黒い狼の喉を掴み、黒い狼を地面に叩きつけるように倒した。
黒い狼の口が緩んだ隙に左腕を引き抜いた。
牙が防具を貫通して腕に刺さっていたので、引き抜くときもけっこう痛みが走った。
黒い狼は両方の爪で俺を引き裂こうとしたが、俺は喉から手を離して爪の攻撃を回避した。
黒い狼が起き上がるより早く、俺は黒い狼の頭を踏みつけた。
これで一応服従のポーズをとらすことは出来たな
だが、黒い狼は暴れるだけで全く大人しくならなかった。
折角教えてやっているのに……。
素直に従えよ。
あとはどうやればペットに出来るだろうか。
俺が考えている間も黒い狼は暴れている。
考え事をしている間は邪魔をするなとも教えなきゃな。
「なぁ?お前はどうやったら俺のモノになりたがるんだ?」
黒い狼は「ぐるるる!」と唸るだけでまともな返事なんて返ってこない。
もう面倒だから殺そうか。
すると、黒い狼は影に飲み込まれた。
また移動する気かと思ったが、黒い塊はその場から動かず、黒いモヤとなって大きくなっていった。
150センチメートルぐらいになると、黒いモヤが晴れて中から獣人姿の女性が現れた。
何故女性だと分かったというと、その体付きが女性らしさを良く表していたからだ
肌は人間と同じ色だが、腕や脚に獣時の黒い毛が見える。
ドライと同じ『人化』スキルか、別のものなのか分からない。
だが、女だったら尚更ペットにいいかもしれない。
女は自分の影から二メートル程の真っ黒な長槍を取り出した。
長槍には無駄な装飾は一切なく、ただ黒い棒の先に棘のような刃があるだけだ。
切断ではなく、刺突に特化しているという感じだ。
自分の体よりも大きい武器を上手く扱えるのか?と考えていたら、俺の目の数cm先に黒槍が迫っていた。
俺は魔剣で槍の軌道を逸らして目を貫かれることはなかったが、代わりに右頬を裂かれた。
獣人の少女が何十回も刺突を繰り返す。
フェイントなど無く、一撃一撃が俺を殺す気で突き出してくる。
だが、狙いが分かっていば捌くことは簡単だ。
相手の動きが分かれば、反撃だって出来る。
俺はアイテムボックスからシュベルトゲーベルを取り出すと、獣人女の懐に潜り込み、抜刀一閃した。
「ハッ!」
その動きは獣人女よりも早く、相手は防御も回避も出来なかった。
女だろうが、俺の敵なら容赦なんてしない。
右腰から左肩にかけて深く切り裂かれた獣人女は、なんとか倒れないように踏ん張っていたが、フラフラとゆっくりと前に倒れた。
俺は血で汚れたくなかったから、受け止めなかった。
バタンッと地面にぶつかる音が響き、元の狼の姿に戻った。
斬られた腹から血が流れ続けている。
このまま放置すれば、確実に死ぬな。
「助けて欲しかったら、俺に服従しろ。でなければ死ね」
狼はアとかガァとかなどの声を出すばかりで、全く動かない。
あれはどういう反応なのだろう。
獣の顔なんてよく分からない。
獣人女(獣モード)はゆっくりと足を動かした。
まだやるつもりなのか。
しかし、獣人女は立ち上がろうとはせず、仰向けに寝転んだ。
服従のポーズだ
表情がよく分かりないが、まぁ及第点としておくか。
俺は光上級魔法で回復してやった。
俺が切り付けた傷が塞がっていく。
流れた血や体力まで回復することはないが、これで死ぬことはないだろう。
獣人女はそのまま、ゆったりとした顔になって眠りについた。
俺は愛犬家が喜びそうな顔を
おもっいっきり踏みつけた。
「おい!寝るな!これからお前に奴隷スキルを使うから起きろ!」
獣人女は驚いたように飛び起きると、体勢を低くした。
「そうじゃないだろ、もう忘れたのか」
獣人女は、はっ!とすると仰向けに転がって腹を見せた。
「そうだ、その姿勢だ」
躾は最初が肝心だ。
こっちが舐められてはいけない。
言うことを聞かなければ殺されてしまう。
俺のペットになるんだから、それぐらいの覚悟を持たせる。
「よし、これから俺のペットに最初の命令を与える。『この建物に近づく魔物を始末しろ』分かったか!」
獣人女は首を縦に何度も振った。
「返事は『ワン』だ、ちゃんと言え」
「わぁん」
なんか犬科しては変な返事だが、いいだろ。
さてとはるかにこのペットについて説明して、奴隷達がちゃんと働いているか見に行くか。
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