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第1話 死んでしまった


 仕事終わりの深夜、俺こと青島一真(あおしま かずま)はいつもの帰り道を1人で歩いていた。

 あぁ、早く家に帰って大好きなオンラインゲームをやりたい。


 ゲーム名は『ブレイヴ•オア•サタン』


 これはプレイヤーが勇者側か魔王側のどちらかに立って戦闘をするゲームだ。

 プレイヤーキルとそれぞれの国のクエストでダンジョン攻略やモンスターを倒すゲームだ。


 俺は断然魔王派だ!

 もう数々の勇者を倒してきた。

 ダンジョンをいくつも攻略してきた。

 イベントランキングで10位以内に入ったこともあるが、それも学生時代の過去の栄光だ。

 ギルドを組んではいるが、最近はソロプレイが多かった。

 学生の頃とは違い、社会人になった今では遊ぶ時間には限りがあり、イベント自体に参加するのが難しくなってしまった。

 それでも俺はこのゲームが大好きでやめれなかった。


 休日だと一日中プレイしていられるが、平日で次の日が仕事だと早く寝て休まなきゃと考えて、ログインボーナスを貰うだけで終わってしまう日もあった。


 それでも俺はこのゲームをやめようと思ったことは一度もなかった。


 挑んでくる勇者を倒せることにワクワクしていた。

 だが、こんなことを考えている隙間で今日あった仕事ことが思い出されてしまう。


 今日も上司にこっ酷く叱られた。

 失敗する俺も悪いのだが、上司も毎回呆れもせずに言ってくる。


 人を見捨てないということであれば良い人なのだが、元々はその上司がしなければいけない仕事をまわしてきて、そのせいで本来自分がやらなければいけない仕事に手がまわらなかったのが原因だ。


 同僚や先輩達は俺を無能だと陰口を叩いていた。

 給湯室などで話している声が普通に聞こえてくる。


 学生の頃からそうだった。

 中学高校では赤点を取ったりしていたし、大学でも留年すれすれの成績だった。

 周りからは常に馬鹿にされていた。

 友達も少なかったため、寂しい学生生活だったと言えた。


 仕事の内容も大学を卒業したばかりの新人にやらせるような量や質じゃなかった。

 「お前のためだ」とか「これも経験だ」とか言って押し付けられていた。


 実際は他の女性社員や上司にいい顔する奴の仕事を押し付けて、自分達が早く退社して飲みに行きたいだけだ。


 さらには女性社員へのセクハラが絶えない上司だ。

 お尻などを触ったり、胸が大きいななどの発言をしたり、なんで訴えられないのか不思議な人だ。


 俺や女性社員が辞めない理由は給料が他の企業よりも良いのが大きな理由だ。

 金の為だけに働いているようなものだ。

 生きていくには金が必要だ。


 遊ぶのにも金が必要だ。

 早く帰ってゲームがしたい。


 明日は休日だから、夜遅くまで遊ぶぞ!

 

 一車線づつしかない短めの横断歩道で信号待ちをしていると、同僚の女性社員を見つけた。

 向こうは気付いていないようだ。


 彼女の名前は成宮遥(なるみや はるか)、今年に入った新人の中で一番の美人と噂されている人だ。


 上司が一番に手を出して、毎日のようにセクハラ被害を受けている人だ。

 首筋辺りまで伸びた艶やかな黒髪。

 綺麗というよりは少し幼さを思わせる可愛い感じに整った顔立ち。

 身長は160より下で低めだ。

 スーツの上からでも分かる程の豊満と言っていい胸部が素晴らしく、背中から伸びる腰のくびれが美しい。

 奥手な性格で自分から前に出ることがないところが、話しかけやすく、手が出しやすいと思われているだろう。


 俺も成宮さんの入れてくれるお茶と歩いていてたまに揺れる胸部に癒されている。

 俺とは別の意味で会社が嫌になっているはずなのに、どうして辞めないのだろう?


 やはり金の為なのだろうか?


 そんな彼女だが、今はその艶やかな黒髪がボサついていて、服装も少し乱れていた。

 周りの男どもがちらちらと成宮さんのことをいやらしそう見ていた。


 俺が一番いやらしくみているのだろうと思うがな。


 成宮さんは酔っているのか、少しふらついているように見えた。


「……え!」


 信号はまだ赤だと言うのに、成宮さんは突然道路に歩き出した。


 成宮さんに向かってくる車。


 咄嗟に俺は飛び出して成宮さんの背中を力の限り押す。


 何故手と足が出たのか自分でも分からない。


 車のブレーキの音がするが間に合わないだろう。

 ライトがゆっくりと段々近づいて来る。

 見える世界の全てがスローモーションに感じる。

 だが、非情にも車を避けることが出来ないことが分かってしまう。


 バンッ!


 これまで感じたことのない強い衝撃が俺を襲った。

 身体中に響き渡るとんでもない痛みが意識を飛ばそうとしてきた。

 

 俺は仰向けに道路に転がった。


 ボヤけた視界で成宮さんが駆け寄り、泣きながら声を掛けてくるがなんて言っているか分からない。

 周りの音も聞こえない。


 だんだん暗闇が襲い、成宮さんの顔が見えなくなってくる。


 無能だと言われ続けた俺だが、最後に彼女を助けられて良かったと思うことにした。


 これで会社を辞めずに生きてきたかいがあったと言うものだ。

 あーあ、彼女を作ってデートしたり、いろんな女の子と色々と楽しいことをしたかったな。

 それが目の前の成宮さんだったら、どんなに良いことか。


 来世があったら、イケメンになって身体能力が高い男に生まれ変わりたいなぁ。

そうすれば、モテモテになって彼女なんて選び放題だ。


 色々と妄想をしているなかで、俺の意識は途絶え、二度と目覚めることはなかった。




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