過去からの贈り物
イエロー?
夢を見ていた。どこかで会った顔の青年が、「僕のことはもう忘れていいんだよ」と話していた。誰かわからずにいると、「自分の子供じゃないか」と笑った。五歳のとき、交通事故で失った息子が育った姿だ。もっと話したいと思った瞬間、目が覚めてしまった。
涙をふいて身体を起こすと、片付けたはずの部屋が荒れていた。明日は家で、事故の『被害者の会』で友達になった人たちと食事会をする。部屋をひっくり返していた夫に、何か探しているのか聞いたら、内緒と笑った。
被害者の会は、被害者にしかわからない悲しみを話すのが目的だ。私は会で話すうちに、悲しみは共有できないと知った。だから会には、もう参加していない。食事会のメンバーは事故つながりだが、事故の話は一切出ない。
食事会当日、今度は夫が交通事故に遭った。
命はとりとめたものの、記憶障害と言語障害で、回復は難しいと言われた。生きているだけマシだ。何も話せず微笑むばかりの夫を、自宅に連れ帰った。私は趣味のワイン作りを本格的に仕事にして、生活を支えた。
数年後、食事会で会うはずだった友達から、また集まりたい、と手紙がきた。ちょうど、参加したワインコンクールの発表がある。以前のように、私の家で食事会を行い、発表をみんなで心待ちにしてもらうことにした。
発表の日、緊張する私たちの前で電話が鳴った。入賞の知らせに部屋がわき上がる。
懐かしい声に顔を向けると、夫が普通に話しているではないか。驚く私に、夫は古ぼけた包みを手渡した。中には「10th」と刻まれた指輪があった。夫が事故にあった年は、息子の事故から十年目だった。
あの時、夫が探していたのは指輪だったのか。記憶を取り戻した夫を、強く抱きしめた。
だいたいこんな感じの夢を見たのでこれを書いた記憶があります。
これの「被害者の会」について膨らませたらいいよ、と意見をいただき、なるほどと思いました。