表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

ひだまりの花

ピンク

 実生(さねう)だわ。

 綾子は、見えない目を外に向けた。

 病を患っていらい、綾子の目は開かない。

 一日の大半を座敷に座って過ごす綾子は、以前より気配に敏感になった。

 足音がしなくても、声が聞こえなくても、そばに誰が来たかわかる。

 今、庭に開け放された窓から、実生の優しい気配が漂っていた。

 天気が良いから、庭の手入れをしているのかもしれない。

 声をかけようか。

 そう思うのに、言葉を飲み込んでしまう。

 迂闊に話しかけると、実生が叱られるのだ。

 綾子は畳に座ったまま、優しい気配に身をゆだねていた。



 庭師の実生は、広い庭をゆっくりと歩いていた。

 先日おこなった剪定の具合を確認するように、師匠から言われている。

 庭木に目をやっていても、わかった。

 お嬢様がいらっしゃる。

 枝越しに広間を窺うと、鮮やかな着物を纏った綾子がいた。

 鳥の声を聞いているのか、目を閉じて、穏やかに微笑んでいる。

 花のような人だといつも思う。

 自分なら、松の緑を見られなくなっただけでも、気が狂いそうなのに。

 高い声を上げて小鳥が庭に入ってきた。

 整えた庭が見えなくても、鳥が来れば、梢の存在を感じてもらえる。

 この庭は、綾子のための庭だ。

 自分にできることは、これくらいしかない。

 ひだまりの中の花から、実生はそっと目を離した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ