明日
黒
私は何度も繰り返した深呼吸をもう一度して、改めて横を向いた。
間違いない。私の隣に、牛がいる。夫が寝ていた場所に、夫と同じパジャマを着た、牛が寝ている。
昨晩はいつも通りだった。違ったのは、夕食の前に、喉が渇いたと言って、夫が大量に牛乳を飲んだことくらいだ。
親友のアドバイスで、夫の会社には父が危篤、夫の実家には海外出張だと電話した。これで三日は時間を稼ぐことができる。
「この牛が本当に旦那さんなのかが問題ね」
親友は「はい」「いいえ」を書いた紙を一枚ずつ作り、床に置いた。
「あなたは純子の旦那さんですか?」
牛は「はい」に足を置いた。
「待ってよ。こんなの半分の確立でしょ?」
カードに「どちらとも言えない」「知らない」を加えて、複雑な質問をすると、正解率は八十パーセントだった。
「一問でも間違うなら、夫じゃないわ」
「間違ったのは、眠くなったからじゃない?」
親友の言うとおり、牛はもう寝始めていた。
「夫なら、こんな時に寝ないわよ」
「牛の生活サイクルがあるんでしょ。初めは全問正解だったんだし、認めてあげなさいよ」
「いやよ。夫が冗談で牛を置いていったって考えたほうが普通じゃない」
「それ全然、普通じゃないし。だいたい、このパジャマ、後から着せるの無理じゃない? 着ていて、身体が膨らんだとしか思えない」
親友を追い出して、精肉業者や牧場を調べていたら、あっという間に三日が経っていた。
結局、なにもわからなかった。ただ、夫が帰って来ないということだけは事実だ。
明日、私は、精肉業者に牛を連れて行く。