幸せの鳥
黄色
今日も波の音が聞こえる。
心地良いはずの波の音が、今は孤独を強調するBGMでしかない。俺一人だけで、もう何日も海をさまよっている。
幸か不幸か、船にもなるシェルターは頑丈で、食料も豊富だ。まるでノアの箱舟のようだ、と思った先から、箱舟には人も動物もたくさんいたな、と思う。不安だったかもしれないけれど、孤独ではなかったはずだ。
船外の様子を映すモニターは変わらない。海と空だけ。何かが近づけばセンサーが働いて、自動的に音で知らせてくれる。とはいえ、青いもの以外を見たくて、ついモニターを見てしまう。外の音を拾うマイクからは、相変わらず波の音。切ることもできるけれど、何か聞こえるかもしれないので、切りたくない。
そんなこんなで、もう、ひと月。
せめてシェルターに本の一冊でもあれば良かったのに。気持ちを紛らわすため、覚えている歌をかたっぱしから歌った。九九も言った。詩も諳んじた。
そんなこんなで、もう、三ヶ月。
ついに幻聴を聞くようになった。鳥の声がするのだ。喜んでモニターを見たけれど、映っているのは同じ海と空だけ。センサーも無反応だから、実際にはいないのだろう。幻聴だとしても、明るい鳥の声は心地良かった。
そんなこんなで、もう、一年。
最近は、幻聴に子供たちの声も加わった。
「今日こそ、この中に入るぞ」
「えっ、怖いよ」
「大丈夫だって。これは安全なものだって母さんが言ってたもん」
突然、太陽の光が入ってきた。まぶしい。
開いた天井から、日に焼けた子供達と、たくさんの青い鳥が羽ばたくのが見えた。