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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第8章
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1553年織田信長

1553年2月、織田信長の傅役(もりやく)、平手政秀が抗議の諫死。


これはすぐに美濃国の斎藤道三の知るところとなった。


稲葉山(岐阜)城・御殿内で家臣と斎藤道三が話し合っていた。


「なにっ、平手政秀が、信長に諫状を残して切腹?」と道三。

「信長は類稀なる麒麟児と聞くぞ」


「あ、いえ……は」

「どうした、娘婿とて遠慮はいらぬ」


「麒麟児ではなくて問題児、うつけ者であろうかと」


「そうか、皆も同じ意見か」

「おそらくは」


信長のうつけぶりは天下の知るところである。

しかし、道三は腑に落ちない。


一介の油売りから成り上がった野生の勘が何かを嗅ぎつけていた。


斎藤道三は美濃と尾張の国境にある冨田・正徳寺で信長と会見する事になった。

どちらも権謀術数(けんぼうじゅっすう)を弄する策謀家である。


「承知した」

信長は即答した。


「そうか、即答か」

道三は腹の内で舌を巻いた。


麒麟児め、やりおる。

道三「見せて貰おうか、麒麟児の気概と権謀とやらを」

美濃国の斉藤家で見抜いているのは、彼だけだったかもしれない。


信長には勝算がある。

道三は美濃のマムシと恐れられる梟雄(きょうゆう)であった。

ここで信長が道三を平らげれば、反信長派の分裂離反を促すという目論見だ。


反信長派はそのほとんどが力の強い方に付く、いわば「浮き草」だ。

ここで圧倒的支配力を見せつけ、味方に引き入れれば良いだけの事である。


当日、美濃国側は槍隊1000人+(かみしも)姿の侍1000人が、正徳寺に待機した。

2000人の威容である。


道すがら、さすが斉藤屋形の(いさお)しよ、堂々たるもんじゃと歓声が上がる。


その中を道三は、複数の家臣と共に、正徳寺を出た。

信長の道中行軍をあらかじめ盗み見るためである。


街道を見渡せるあばら家に2m測距儀を持ち込んでの遠隔偵察だ。

近くても遠くても盗み見る事が出来る。


やがて遠見の者から「行列見ゆ」の一報が入った。

「来たか」


ガタッ

道三が立ち上がった。


家臣が2m測距儀を覗きながら、道三に報告した。


「真先は200人、4列に組み、若い者ばかりです」

「ほう、して馬は?」

「輸入種のオミミガクルリンが20頭」

「おおっ、マルワリ種の戦馬か、よくそろえたな!」


「次は弩弓隊400名」

「今の流行だからな、弩弓は」


「次は対物長銃隊40名」

「12.7mmか、揃えたな」


「次が鉄砲隊400名」

「何!400挺だと」

当時の鉄砲はライフリングのない長銃である。

ライフリングの仕方がどうしてもわからず、弾丸にライフリングが切ってあった。

その為、弾丸が高価になり、実戦ではあまり戦力にはならなかった。


だが信長の発明した回転絞り器で量産が可能になっていた。

これは道三が知らぬ情報である。


道三も100挺は自前で持っている。

しかし400挺とは恐れ入った。


「次が長槍隊600名、長さおよそ6m」

「6m!おいおい持ち上がるのか」


「盾隊が600名」

「むむっ、噂に聞くファランクスか!」


ファランクスとは密集陣隊形で盾の間から槍を繰り出す陣形だ。

弓による上からの攻撃と側面からの挟撃に弱い。


これを信長は積層装甲と中空装甲で凌いでいる。


すでに線材圧延機は広く世間に広まっていた。

それを使って「メッシュ盾」を作ったのは信長だけだった。


また陣笠をかぶる足軽の様子がおかしい。

陣笠の形は今の「ヘルメット」に近い形である。


ファランクス陣形は平地でしか使えず、日本には向かない。

だが示威目的の行進では効果抜群だ。


槍ぶすまが自分の方に向かってくる錯覚に陥る。

盾が壁が迫ってくるように見える。


道三の部下が喘いだ。

「アタマ、おかしいだろ」


「どうなっとるんだ、信長の部隊編成……」

道三は宙を仰いだ。


しかもその数が多すぎる。

「信長の部隊は2000名以上、我ら信長誅殺隊は2000名だぞ」

「逆に我らが誅殺されるわ!」


道三「信長は、信長はどうした!」


「最後尾は信長とその直参です」


「貸せ!」

道三は2m測距儀を覗いた。


防弾衣(ボディアーマー)をざっくばらんに着こなした信長。

絹を蜘蛛の巣状に織り込んだ4僧の防弾層を持つ一品である。

胸から下げた3レンズ回転倍率変更式双眼鏡が厳めしい。


「ま、魔王」

道三は嘔吐いた。


これら会見に随行する行列は、軽火器携帯のパレードみたいなものだ。

当然、重火器は持ってきていないだろうが、コレだ。

尾張国の総軍事力は想像を絶するだろう。


道三の見積もりは遙かに間違っていた。

美濃国は内陸であり、海がない。

尾張国には海がある。


道三は海軍の存在を忘れていた。


道三とその一行は正徳寺に戻った。

「いかがでしたか、尾張のうつけは?」

何も知らない側近が、軽い調子で尋ねてきた。


道三は何も語らなかった。


対面の直前、信長は変身した。

「変身!」


スモークが焚かれ、軽やかな音楽が響き渡った。

パパラッパパラッパパラパー!


「神秘の預言」聖歌による変奏曲のアレンジである。

16世紀すでにクラレータ(clareta)は南蛮で製造されている。


ドライアイススモークの中から現れたのは正装した凜々しい信長の姿であった。

髪をマゲに結い、褐色の長袴(ながばかま)をはいた正装姿である。


平面ガラスにスズ・アマルガムを塗布した等身大鏡を、臣下が粛々と信長の前に持ち出した。

「うむ」と信長。


唖然としている道三の家臣・春日丹後と堀田道空。

その前を悠然と通り過ぎる信長。


道三の座る席の前に信長はどっかと座った。


「上総介信長でござる」と信長。

19歳の信長には、恐れも引け目も感じられなかった。

「おお、婿どの、よくぞ参られた」

<参られたは敬語の誤りだが、経緯として使われてきたものなので使わせていただく>


ここで彼らは当たり障りのない話をして、それが済むと食事の支度となった。

出汁入りの湯漬け(お茶漬け)とお惣菜だった。


その後は盃を交わして、談笑して、対面の儀は滞りなく終了した。


信長がいざ帰るとなると、道三はおかしな事に気付いた。

鉄砲隊の約半数が鉄砲を持っていない。

鉄砲の200丁は道三の家臣が持っていた。


信長「それは手土産として差し上げます」

道三「ほひょおええっ」


変な声が出てしまった。

種子島銃1丁60万円の時代である。


200丁は1200万円だ。

誰でも素っ頓狂な叫び声を上げるだろう。


道三「それではおぬしの持つ銃は半分に……」

信長「盾隊、前へ!」


ザシンッズザザザッ。

盾を持った600人が盾を構えて整列した。


盾銃(シールドガン)をお見せしろ!」

ザシンッガシャンッ。


道三「うひょおおいぇいっ」

盾の一部が起動して銃になった。


メッシュ盾の心棒だと思っていたモノ。

それは実は盾銃(シールドガン)であった。


ぶったまげたのは道三だけではない。

道三の家臣もぶったまげた。


道三「いいえ、静まれ、静まれぇい!」

「織田殿、さあさあお送り致しますぞ」


まさかの銃400+600=1000丁である。

200丁を差し引いても800丁である。


この調子だと槍隊の槍600本は実は……。


あの槍の根元のグリップの飾りだと思ってたモノは実は……。


まさしくこの会見は信長の思う壺であった。

このあと道三は2000mも信長を見送ったのである。


だが道三も美濃のマムシと恐れられた男。

信長を煽てて、危急の際の援軍の約束を、道中で取り付けている。


道三はこの会見で信長を高く買っていた。

信長もそれに答えて道三に報いたのだ。


この情報は晴信の元にすぐ伝えられた。


晴信「まずいな」

浅信「我々でない者が天下を統一する事が?」


晴信「ありえるな」

浅信「信長でしょうか?」


「我々が19歳の時このような事が出来たろうか」

「無理ですな」


信長、それは最大の敵となって武田軍の前に立ち塞がるのである。

次回1553年晴信3男信之です。

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