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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第8章
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1549年天下統一への道

日本統一について晴信の考え方を述べます。

晴信はこう言った。「人は石垣、人は城、人は」

「兄上!ちょっと待ったあ!」

「浅信、またお前か」


武田軍は武田24将が示すように同族(経営)で世襲制度で成り立っている。

いわば親族経営の同族会社のような豪族の寄り合いである。


 甲斐信濃が一国である場合、同族(経営)で世襲制度が最も結束を強めるに都合が良い。

幹部が全員同族なら一致団結も簡単で異論は出ない。盤石である。


優秀な人材なら実力主義で優遇する、業績抜群の外様(とざま)なら傘下に加えるだろう。

 だが同族(経営)で世襲制度を固辞するならば、彼らは決して幹部にはなれないのだ。


だが天下(日本)統一はどうか?


全国を武田の同族で統一する事は出来ない。不可能である。

どうしても、今まで敵国の領主だった戦国大名が、領地を管轄統治する事になる。


天下統一とはいわば、究極の多国籍企業の経営になるのだ。

優秀なら幹部に取り立て、外様であろうと譜第(ふだい)の席に加えていかなくてはならない。


また当然の事ながら、譜第と外様の摩擦軽減に腐心しなければならない。

そんな時。「人は石垣、人は城」などと悠長な事は言っていられない。


晴信「ふぅーむむむ」

浅信「ふしゅるふふ」

晴信「なんだ?」

浅信「いえ何も」

晴信「」

浅信「」

……。


何となく兄弟の仲はいいようだ。

超常の弟は兄の心が読めなかった。


兄は上手くマインドトリックをブロックしていた。

弟はそれを破壊できるがしてはならなかった。


天下統一は軍事力や経済力のみならず政治力も必要だった。

晴信は早速同族家臣団を集め、会議に日本統一の際の統治について問うた。


実力第一主義、才能重視の成果主義について、譜代の者達はどう考えているのか?

全員猛反対で会議は決裂した。


そんな目で俺たち臣下を見ているなら考えがあるぞという呈だった。

 「武田」という形のない「モノ」が我々を支配しているのが分からんか、といった格好である。


やはりそうくるか。

まあ、そりゃあそうだろう。


今まで婚姻関係で、濃密な同族経営をやり続けてきた結果を、捨てるのだ。

実力のある赤の他人が、上下関係の厳しい主従関係に割り込んでくるのだ。


どうすれば、納得してくれるのか?

最初からは無理だ、とにかく説得するしかない。


忠誠心や愛国心を保つ事の難しさよ。

武田氏の御名の元に集う心意気や意気込み希釈する。


人的従属を経済的従属に切り替えて考えて貰うのだ。

それは武田の分裂を招くかもしれない。

ならば、分裂を今やるか、後でやるかの違いだけなのだ。


同族(経営)で世襲制度とは言え、重臣たちは智将名将揃いである。

種を早い内に撒き、心に染み込ませておく事が肝要であった。

合議制によって国政を運営しながらも、晴信はこの議題を重臣たちに問い続けた。


その度に会議は荒れ、支離滅裂になり、決裂した。


ここで効いたのは幼少時の教育課程であった。

全員が奇妙寺の家庭教師である僧形の最新の教育を受けていた。


1500年以降の世界情勢、南蛮国(特にスペイン、ポルトガル)の世界分割があった。

マラッカ防衛圏及び北米防衛圏は、兵站が伸び切っている。


最初は歓迎していた現地の支配階級も段々欲が出てくる。

畏怖と賞賛だけで、何十年も統治し続けるのは困難だ。


人間の業は深いのである。


今はかろうじて、防衛圏は維持出来ている。

だがいつ破綻しないとも限らないのだ。


 見識は世界市場であり、日本は出遅れており、一刻も早く天下統一して情勢を打開しなければならない。

そう教育され、そして育ったが、理想は理想、現実は現実である。


しかし何かが変わりつつあり、それは変化となって現れた。


ある日の夜、晴信が景虎(越後国主)宛てに手紙を書いていた。

越後は下克上のお家騒動で地獄のような有様だった。


 反目する豪族どころか長尾一族同士で殺し合いが起こり、いつ誰が謀反するか分からない状態である。


今回の書状は北信征伐と関東官領への北条氏康の進撃についての書簡である。


 小笠原長時と村上義清は北信の豪族だが、越後国境という事もあり越後と通じている。

北信征伐の折には越後に逃亡する恐れがある。

それを追い返すよう書簡を書いている。


また関東官領の上杉憲政も離反続きで北条氏康のいい餌になる。

攻められれば他国を頼って逃亡するやもしれない。


素っ破によれば常陸国(茨城県)名門の佐竹義昭を頼るだろうと報告が入っている。

だが彼はプライドが高いので素っ気なく断るだろう。

そうなれば越後の景虎を頼るしか道はない。


保護と捲土重来(けんどちょうらい)の交換条件として、関東官領と上杉の名をエサに匿うだろう。

かなり魅力的な好餌である。


だがそれは北条氏康と敵対関係になる事を意味した。

苛烈なお家騒動に加えて外交問題を抱えれば景虎はどうするか?


全部投げ出すか全部しょい込むか、である。


彼は後者を選ぶ、そして自分の宿命を悟るだろう。

戦争に正義はあるのだろうか?


その正義を信じて、戦い続けるとしたらどうか?

そうなったら狂った天才として、不毛な戦を続ける未来が待っている。


晴信は地図の上で指を這わせた。


最も可能性のあるのは川中島の戦いだ。

それは避けたい未来でもあった。


書簡にはまだ別の続きもあった。

越後と信濃を結ぶ通商ルート「大川-有尾-富倉・隧道(ずいどう)」構想についてである。


 今は標高681mの富倉峠があるが、そこをトンネルでぶち抜き、商業ルートを確保する計画である。

これにより豪雪地帯の冬でも交通に支障なくルートを確保出来る筈だった。


晴信自ら、景虎居城の春日山城に乗り込むのだ。


奇妙寺のシールド工法によるトンネル工事について第一次説明会を開く。

まあこれは、表面上の名目で、実際は直接会見が目的だ。


「御館様……」


その時一人の重臣が訪ねてきた。


天下統一の際の人事についてである。

承服致しかねるが、お館様の決めた事ならば、命に服すという呈であった。


そして、日を改めてまた一人。


「御館様……」


そしてまた一人……。

とうとう全員がやって来た。

「御館様……」

「御館様……」

同じように述べて帰ったのである。


晴信は重臣全員の不承不承ながらも同意を勝ち得たのだった。


その影に浅信がいたのだろうか?

 浅信のマインドトリックが心のレバーをほんの少し押して、家臣の決断を即したのだろうか?

浅信に聞いてみたが「さあねえ」とはぐらかされてしまった。

次回は1550年上杉謙信です。

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