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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第6章
55/169

1500-1510年マラッカ王国001(共闘と戦端)

ポルトガル戦列艦vsマラッカ野砲!

武器は朝貢している明国からの大砲があったが、ポルトガル砲には遠く及ばない。

射程距離が短いのだ。

だからといって火薬を増やせば、砲自身が暴発しかねない。


鋳造技術があっても、ポルトガルの技術には及ばなかった。

砲撃戦になれば、ポルトガルの一方的なアウトレンジ砲撃を受ける。

なんとか、なんとかしなければ!


 彼らの侵攻速度からして1505-1515年あたりにはマラッカに至るだろうとマラッカ王国軍部は推測した。


ここまでは奇妙寺の推測とほぼ同じであった。


 奇妙寺の僧形の弗朗が日本の技術を脈々と伝えてきた事で、日本兵器の噂は上層部も聞き及んでいた。

日本への技術供与の要請が即決された。

1も2もなく、マラッカ王国の軍部は日本からの技術援助に飛びついたのである。


自国開発している余裕なんぞなかった。

西洋の砲艦に勝てる兵器は喉から手が出るほどに欲していたのだ。


スルタン「日本の朝貢国にでもなんでもなるから助けてくれ!」

僧形の弗朗「朝貢国はいらないから、同盟国に……」

スルタン「よろしく、よろしく頼みましたぞ!」


 しばらくして日本から図面と供給される武器サンプルを持って、技術者が船で到着した(1500)。

 船はスクーナーの形状をしていたが蒸気機関とスクリューで航行できる切替式帆船(機帆船)だった。

マラッカの技術者が乗船を許可されて乗ってみて、愕然とした。


船底にある蒸気機関は見た事もない技術だった。

説明されたが、ちんぷんかんぷんであった。


艦橋に通されて、彼が一番驚いたのはジャイロスコープであった。

案内「角運動量保存の法則を利用し、慣性力を検出する事により」


なるほど、わからん。


これは陸地や島が目視出来なくても目的地まで航行できるシステムだった。

「軍事機密ですか」マラッカの技術者は聞いた。

「その質問にはお答え出来かねます」日本人の技術者は笑顔で答えた。


やがて迎えの馬車が来て、一行はマラッカが誇る王宮にある部屋に通された。

大きな机のまわりに軍の関係者と技術者が席に座っていた。

さっそく日本人の技術者は青焼きの図面を笑顔で広げた。

アンモニアの臭いがツンと鼻を衝く。


「色々ありますが、まずは30mm砲ですかな」

30mm回転弾倉式連発砲(リボルバーキャノン)。六連発の小型砲である。

小型ゆえに自走式台車に乗せて移動できる。撃ったら逃げる、これが秘訣だ。


「次は戦闘艇ですかな」

焼玉エンジン式高速戦闘艇。最高速は45ノット(時速83.34キロ)も出た。

高速スクリューを二基搭載している高速艇だ。


「この二つを駆使すれば、艦隊の船は陸地に近づけませんな」

「仮にボートで上陸出来たとしても……」

技術者は次の図面を広げた。

単発式の12.7mm対物ライフル。

技術者は床に置いていた長持から実物を出して見せた。

 「これで仏朗機夷(フランキ:フランク族<ポルトガル>の事)に島には1歩も上陸させません」

技術者はにっこりと微笑んだ。


次の便で建設関係者がやって来た。軍需工場建設のためである。

マザーマシンの旋盤、フライス盤、そして特注のガンドリルマシン。

銑鋼一貫製鉄所は突貫工事で建造する。

建設費2500億円。

アラブもインドも中国も協力した。

どの国も高炉をすでに持っているので、教化は簡単だった。


次の便で農業関係者がやってきた。土質改善工事のためである。

肥料の作り方(緑肥の根粒菌)、農薬の散布、農機具の数々。

熱帯雨林を開墾して大規模農場を作るのだ。


「プ、プランテーション……」

かつて奴隷だった農業土木関係者がガタガタ震えだした。


ガシッ!

その両肩をガッシリ掴んで、技術僧形はニッコリと微笑んだ。

「ダイジョウブ、シンパイハイラナイヨ」


安心させようと思った行為が返って恐怖を生んでしまった。

農奴だった彼は、素っ頓狂な叫び声とともに全力疾走で、視界から消えた。


農機具は全て機械化されていた。

農民は土にさわる事さえしなくてよかった。

まるで夢でも見ているようだった。


次の便で鉱山関係者が……。

鉱山をもっと効率的に運用する。

蒸気機関による揚水、圧搾空気による削岩機の使用、電球。


ここでも鉱山は奴隷労働の地獄だった。

だが奇妙寺の異様な技術力は異質で威容だった。


鉱山関係者「特殊岩盤破砕鑿孔装置?」

ドッカアアーン、バラバラバラ!

「ひっひいいええええ~っ」


ダイナマイトで切り羽を削進する異常な光景に、鉱山技術者は腰を抜かした。

熱交換器が坑内の温度を調節し、送風機がうなりを上げた。

電球が明るく坑内を照らし、揚水ポンプが湧水を吸い上げる。


こんな世界があったのか!


次の便で……。

マラッカの技術者は茫然自失であった。

アラブの商人たちはぶったまげた。

ポルトガル人は青くなった。

今から真似しようにも10年では追い付けない。


銑鋼一貫製鉄所が完成した。

工場の長さは600mあった。

 高炉から鋳造、半製品から再加熱、冷間圧延と熱間鍛造のラインが同居する巨大工場だ。


高炉から出てきた鋳造品は半製品であり、ヤードに積み上げられる。

半製品は中実丸棒で、これを切削加工して、中空丸棒とする。

さらに再加熱(800℃)して、熱間鍛造にかける。


回転熱間鍛造(SWAGING)という特殊な工程を行う機械で鍛え上げる。

ガンガンガンッ、ガンガンガンッ。

振動で工場が微動している。

土台が振動減衰能の極めて高い構造であるのにも関わらずだ。

いかに高速かつ高荷重が使われているかが実感出来た。


鍛錬された中空丸棒は大砲の砲身になるのだ。

精密加工のため、専用の大型旋盤にかけられる。

ここでライフリングも施される。


ポルトガル人のスパイがこれを察知した。

彼らはぶったまげて、アゴがはずれそうな勢いだ。


物凄い勢いで兵器が、砲弾が、内燃機関が作られていく。


一方、化学工場では無煙火薬コルダイトの量産が始まっていた。

アンモニア酸化法による硝酸の量産体制だ。

超高速で白金触媒を通す事で硝酸をガバガバ作るのだ。


ポルトガル人諜報員は直ちに本国に連絡を取った。

だがここは1500年。


発信の返信は6ヶ月後。

その往信はさらに6ヶ月後だ。


写真があるわけでも、音声通信があるわけでもない。

現場の緊迫感が本国に伝わらない。

実際の臨場感がないのだ。


本国諜報部「回転熱間鍛造とスパイからの文面にはある」

そんな事が出来るわけがない。


本国最高権威の数学委員会の諮問(しもん)にもかけて検討した。

結果は出なかった。


ポルトガルはその時代の最新技術で対応した。

キャラック船だった船団に当時試作段階の戦列艦を採用した。

片面60門、両舷120門の怪物艦である。


建艦には4年の歳月がかかった。

オーバーテクノロジーなのだ。

おいそれとは完成しなかった。


ポルトガル国民は疑心暗鬼である。

「ポルトガルはどこと戦争するのか」

「アラビア海だそうだ」

「この砲の数を見ろよ、おかしいだろ」


当時、海洋新興国だったイギリスもオランダも笑った。

「アラビアンナイトの魔法の国でも見つけたか?」

注:千夜一夜物語のヨーロッパ紹介は1704年。

ここでは原本のガラン写本(シリア写本、15世紀中期)を言う。


だが、海上帝国ポルトガルの勘は「当たらずとも遠からず」である。


こうして10年の年月が過ぎた。


そして1511年。


遂にマラッカにポルトガルのアルブケルケ艦隊が現れた。

直ちにポルトガル船からマラッカ王国に使者が派遣された。


「マラッカ王国に告ぐ。ただちに降伏せよ」


マラッカ王国は即答した。


「バカメ、どうぞ」


艦隊は戦列艦が単縦陣のままゆっくりとマラッカ王国海岸線に接近し始めた。


その時だった!


ポンポンポンポンッ。

どこからか間の抜けた打撃音のようなものが聞こえてくる。

ポンポンッ、ポンポンッ。

やがてその音の主が島影から姿を現した。


「な、なんだ、あれはっ」ポルトガル人の艦長は叫んだ。


 漕ぎ手もいない、帆も無い小型艇が黒い煙を吐きながら、もの凄い速度で突進してくる。

焼玉エンジン特有のポンポン音がカッコ悪いが性能は超速である。

武装は……小さな砲らしきものが1門だけ艦首に備え付けられているようだ。


その時艦首の30mm砲が火を噴いた。


ズバァーンッ。


バリッ。木の裂ける音がして戦列艦の右舷喫水面に穴が開いた。


ズバァーンッ。

ズバァーンッ。

ズバァーンッ。


ポルトガル人は気付いた。

「連発です」

「そんなアホな!大砲だぞ!」

「どういう機構で排莢しとるんだ?」


小型戦闘艇は激しい揺れの中で射撃している。

照準はメチャクチャだった。

という訳ではないようだ。


揺れの周期と甲板傾斜角が0度になる瞬間に撃っている。

傾斜計と発射装置のスイッチが連動している。

射撃管制装置……。


勝てる訳がない。


敵は帆船の舵を狙っていた。


「何をしてる!応戦しろ!」砲撃担当の士官が叫んだ。

「敵小型艇が小さ過ぎます!」

砲の仰角を下げるハンドルがガキッといって止まった。

「敵が接近している為、仰角がこれ以下に下げられません!」

船縁(ふなべり)に近い所で発砲している為、砲を水平仰角より下げられないのだ。

もう1隻小型戦闘艇が現れた、さらにもう1隻。


「旋回砲を使え!」

ポルトガル水兵が叫んだ。

帆船には白兵戦用に小型の旋回砲が備え付けてある。

正式な備砲の砲門には数えられない小砲だ。

威力は弱いが無いよりはいい。


「反撃せよ!」

ボスンッ!

へっぽこな音をたててブドウ弾が撃たれる。


もともと白兵戦で、斬り込み支援の散弾銃のでかいヤツ的なものだ。

時速80kmで疾走する戦闘艇に敵う筈もない。


3隻の小型艇からそれぞれ艦首の30mm砲が火を噴く。

ポルトガル船の舵は木製である。

舵は粉々に飛び散っってしまった。

やがて舵を破壊された艦隊ははなすすべもなく漂い始めた。


小型艇は去っていった。


今度は島の密林から砲撃が始まった。


「応戦だ!応戦しろ!」

今度は陸上だ。

固定目標を外すわけがない。十字砲火戦法である。

全艦の右舷の艦載砲60門が一斉に火を噴いた。


ズガガアーンッ!ヒュゥルルルーッ!バアアァーンッ!


密林は薙ぎ払われた。

ポルトガルが誇る(一帯に満遍なく砲弾を降らせる)面制圧戦法だ。

粉々になったヤシの木が飛び散って巨大な空き地が出来上がった。

次にまた別の密林から砲撃が始まった。それも薙ぎ払った。


また別の密林から砲撃が……。

ちょっと待て、何でこんなに戦力があるんだ?

おかしいじゃないか……。

次回は「1500-1510年マラッカ王国002」です。

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