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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第5章
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1460-1500年抗生物質

抗生物質が発見されます。

路易(ルイ)という僧形がいた。

彼が実験でシャーレに青カビが生え、病原菌がそこだけ死滅してるのを発見した。

青カビが病原体に作用したのではない。

 青カビの中に、病原体の細胞壁を構成する酵素の生成を阻害する物質が偶然あったのだ。

青カビ(ペニシリンノターツム)だけが抗生物質を含んでいた。


たった1種類!


200種に及ぶ他の青カビは関係なかった。

これがわかるまで10年の歳月がかかった。

これがペニシリンだ。


これを単離する方法はフリーズドライという方法である。


フリーズドライには「真空装置」と低温を発生する「冷凍機」が必要だった。

真空を作るには熱交換器の圧縮機を応用した真空装置が必要である。

低温は熱交換器の冷凍サイクルで作る必要がある。

どちらも既存の技術で可能だ。


水分は1気圧100℃で沸騰するが0.1気圧なら45℃だ。

0気圧0℃で凍結しながら沸騰する。

これを使って熱に弱いペニシリン溶液から水分だけを蒸発させる。


こうして漉した溶液をフリーズドライに掛けて濃縮した。


単離されたペニシリンは培養液の中では増殖しなかった。

ペニシリンはコーンスターチの廃液コーンスティープリカーの中で増える。

 コーンスティープリカーには、フェニル酢酸という物質が含まれていてこれが増産に必要だった。

しかし1505年アステカ王国経由でトウノロコシが入手出来るまで、これはおあずけだ。


「一体どうすればいいんだ」

「……」路易は言葉も無かった。


「あきらめたらそこで研究終了ですよ…?」

「お師匠!」


奇妙寺最高顧問が研究室の入り口に立っていた。

「すいません……」と路易。

「ん?」と師匠。

「寒いので部屋に入るか出るかにしていただければ……」

「これは失礼」


師匠は入ってきた。

「ダイジョウブ、シンパイハイラナイヨ」

「増産の方法が無ければ、少量生産を増やせばいいのです」


「今ここでやっているシャーレでの少量生産を増産できるようにしましよう」

「どのくらいの規模でやっているのですか」

「1部屋に500皿です」

「じゃあ10部屋で5000皿にしましょう」


「ええっ」

「無茶です」と路易(ルイ)

空調と温度管理の問題もある。


「そうでしょうか?」

「何の方策も無くただ増やすのは問題があります!」


「その内に何か思いつくでしょう」

そう言って、師匠はニヤリとした。


実際、そうであった。

路易(ルイ)は、シャーレを尿瓶(しびん)のような培養瓶に変更した。

この大きさでおよそ10倍のペニシリンが採れる。

つまり10部屋で100倍にもなった。


さらに増産する目安も見えてきた。

フェニル酢酸はアベナやトウモロコシの幼葉鞘の先端部に濃度が高い。

アベナとはカラスムギ科の植物で、日本には史前帰化植物として渡来している。

史前帰化植物とは、ヒトの伝来とともに日本へ入ってきた外来植物である。


言ってしまえば、どこにでもある雑草だった。

これをすりつぶして乳液状にして、ペニシリン有効株を攪拌してみた。


こうかはばつぐんだ!


すさまじい量のペニシリンが増殖し始めた。


こうしてヒトは抗生物質を手に入れたのだった。


奇妙寺は全世界に「カビから魔弾の射手発見」の報を発信した!

ついに熱油も強酸も焼きごても必要ない。

病原菌だけを殺す手段を手に入れたのだ。


その辺に生えているカビから。


一方、南蛮では動揺が広がっていた。


「んな、アホな!」とポルトガル科学院。

「Estupido」とスペイン科学アカデミー。

異教徒集団キーミョウデールの噂を西欧で知らぬ者はない。


Far East(極東)と馬鹿にしていた小島の劣等民族からの報に欧州は揺れた。


負けるわけにはいかない。


全世界に抗生物質探しの祭りが伝染した。

ありとあらゆるカビ、腐葉土がひっくり返され、検査された。


 フランスのリビエラの松林の土壌から放射菌が発見され、その種が抗生物質を産する事が分かった。

これは放射菌のリファマイシンである。

 腐葉土をひっくり返すと白く菌株が見えるアレだ。これから半合成してリファンピシンを生産する。

結核菌に効く。


日本の春日大社から出たカスガマイシンも同様だった。

これも放射菌だ。農薬として使う抗生物質で、耐性菌がでない(環境適応能力が低い)事で知られている。


 サルデーニャ島の排水溝から採取されたフンダマカビからセファロスポリンが発見された。

これはβ-ラクタム系抗生物質だが、ペニシリンの効かないグラム陰性菌にも効く。


 グラムは顕微鏡で見る際に染色する染料の事。細菌は無色に見えるため見やすいように染色する。

 グラム陽性は紫か紺青色、グラム陰性は赤色に染まる細菌の種類の二種類に分かれる。


こうして奇妙寺の喧伝のおかげで次々と抗生物質が発見された。


突如として欧州も祈祷や民間の妖しい療法から開放された。

香水や酢、キリスト像や経札はもう実際の治癒とは関係ない。

それぞれが別の道を歩む時が来たのである。


1300年代の黒死病の大流行から欧州は「魔弾の射手」を求めていた。

それがこの抗生物質だったのだ。


黒死病の原因はペスト菌(グラム陰性菌)である事は現代ではわかっている。

これの有効なワクチンがない事もわかっている。

腺ペストにはあるが肺ペストには効かない事がわかっている。


長期にわたる接種と激しい副作用がある事もわかっている。

つまり罹患したら、グラム陰性菌対応の抗生物質を投与するほうが有効であった。


これは順序が逆だった。


細菌が発見されて、効く薬がないか開発するのが普通の順序である。

薬品が発見されて、効く細菌が無いか探すのは順序が逆だった。

これも技術チートの弊害だろうが、贅沢な悩みであった。


いわば、病気にかかった患者は、薬棚の前に寝かされているようなものだ。

スペクトラムの広い薬から初めて、順々に薬効を絞っていく。

最後に特効薬が投与されて全快するのだ。


まさに薬効満漢全席である。


日本からは南蛮商人を介してペニシリン株が欧州に渡った。

 欧州からは南蛮商人を介してリファンピシン株、セファロスポリン株が日本に渡った。

これには丁翁の海外貿易担当が手を尽くした。


こうして突如として、全世界は抗生物質渦に飲み込まれた。


すでに丁翁も巨大商業網を残して、この世を去っていた。

1410年に奇妙寺の松戸彩円と出会い、支援し続けてきた謎の商人。

70年にわたり、行商人から露天商、座商人と多くのスキルを手に入れていた。

しかし屋号を持たず、部下と共に全国を行脚して回った。

現場のやり取りが好きな根っからの商人(あきんど)だったのだ。

彼が仕入れる事が出来たからこそ、入手したモノも多かった。


莫斯利(もすり)ももうこの世にはいなかった。

莫大な冶金の知識は奇妙寺の松戸彩円にとって至宝(しいほう)の知識人であった。

だがその知識は多くの若い僧形の励みとなって、発明発見を導いてきた。

彼がいたからこそ、出来た事は多い。


時代は動いていた。

日本ではなく西欧で。

1484年、1人のイタリア人がポルトガル王ジョアン2世に謁見した。

彼の名はクリストファー・コロンブス。


コロンブスは現在の東回り航路に対して、西回りのインド航路を説いた。

しかし西回りが未知の世界なのに対して、東回りは喜望峰寸前まで来ていた。

王室は数学委員会に諮問したが、結果は否決だった。


コロンブスは後にスペイン王室に援助をうけ、スペイン船でアメリカを発見する。

次回は「1470-1510年山岳工法ナトム(NATM)」です。

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