1430-1470年空中元素固定装置
空中元素固定装置の回です。
空気中には窒素がふんだんにあった。
この窒素を固定して、水素と結合してアンモニアを作る。
これは実は、実験室では簡単に出来る。
ガラス管に鉄綿を真ん中に押し込む。
一方から窒素を入れる。
一方から水素を入れる。
密閉して鉄綿付近をランプで熱する。
ガラス管を良く振る。
アンンモニア発生。
集気びんに集める。
これを大々的に工業生産する。
化学僧形A「これがハーブァ……モガ」
化学僧形B「しーっ」
僧形は口を押さえられてジタバタしている!
やがて、その若い僧形が急にシャウトし出した。
「ひらめいたああぁっ」
「これだああぁっ」
酸欠に陥った脳が神経回路の短絡を起こし、奇妙奇天烈な発想を生み出す。
アルミナ漆器(美濃焼、景徳鎮)の超高温がまず頭に浮かぶ!
それが高炉の耐熱レンガ素材(2000℃)とリンクした!
鉄触媒がやがて失効するのは、焼結するためだ。
それを防ぐためにはアルミナ|(二酸化アルミ)を担体(土台)にすればいい。
これは鉄鉱石の原石に含まれていた。
触媒反応の立体モデルが頭の中をぐるぐる回り始めた。
鉄触媒が活性を示すのは電子をが供給されるからだった。
実験で磁鉄鉱が異常な活性を見せた場面が走馬灯のように頭に浮かぶ!
磁鉄鉱石が活性を示していたからだ。
そしてその物質は!
……。
…。
・
・
・
ここでシャウトしていた僧形は元に戻ってしまった。
もうちょっとで電子を供給する第三の物質が見えたのに!
あとは地道に電子供給物質を探す実験が繰り返された。
それは酸化カリウムだった。
そのためには総当たりで、約2万種類の触媒が試された。
「鉄+アルミナ+酸化カリウム」の触媒が完成した!
あとは水素と窒素を鉄触媒を介して、強熱するだけでいい。
化学式は「3x水素+窒素=2xアンモニア+92kジュール」だ。
つまり工業化して、アンモニア生成するには、高熱高圧環境が必要だった。
まあ化学式は当時はなかったし、エネルギーも分からなかった。
温度はすぐ上げられる。
200℃…、300℃…、400℃…、500℃。
問題は圧力だ。
100気圧…、200気圧….300気圧。
500℃、300気圧の超臨界流体状態で直接反応を試みた。
爆発した。
おかしい。
圧力容器は機械構造用炭素鋼の切削研磨加工だ。なぜ爆発する。
この程度の圧力と温度ではびくともしない様、強靱に作ってある。
表面検査の単眼鏡(X24)で走査したが、加工の傷からではない。
何かの予期しない化学反応が、容器の何かと反応している。
うかつだった。
原因は鋼に含まれる炭素に高圧下で水素が侵入したことだった。
脱炭作用が生じ、炭素鋼の強度が急激に低下、爆発したのだ。
これを解決するため、軟鉄(Fe)で内張りした鋼製の圧力容器を特注した。
軟鋼は炭素を含まないゆるーい金属である。
これを強靱な機械構造用炭素鋼で包む。
軟鋼に阻まれて、炭素鋼は劣化せず、強度は保たれ、爆発はしなかった。
こうして、圧力容器の内で、アンモニアがどんどん出来始めた。
「ばんざーい」
「ばんざーい」
{万歳の起源は明治時代:戦国時代は実際は「えいえいえい」}
アンモニアは20℃、8気圧で液体化する事もわかった。
(融点-77℃、沸点-33℃)
アンモニアは肥料に使われる。
今まで肥料は、動植物の遺棄部分や排泄物を使っていた。
これらは、長い時間を掛けて、微生物がアンモニアイオンに変化させていた(アンモニア化成)。
土壌には、このアンモニアを酸化し亜硝酸に変える菌、亜硝酸を硝酸に変える菌がいる(硝化作用)。
<2017年natureにおいて単独でアンモニアから硝酸に変える完全アンモニア酸化細菌の発見が発表>
<微生物学の進歩は目覚ましいが、ここではまだ触れないでおく>
こうして出来た硝酸態窒素(硝酸イオン)が植物の毛根に吸収されていく。
このようにして、窒素を植物が吸収できる状態にするのである。
だが、と奇妙寺の僧形たちは考える。
「本当に化学肥料は正しいのか?」
例えば大豆の根っこにはこぶがある。
これは根粒菌というバクテリアの住み家だ。
この菌が、窒素をアンモニアに変換し(窒素固定)、大豆に窒素を供給している。
マメ科の植物はこのようにして荒れ地でも育つ工夫をして生きている。
ところが化学肥料をやると、大豆は根粒菌の生成をやめてしまう。
最初から化学肥料にアンモニアがあり、その生成過程を必要としなくなるためだ。
猛烈な化学肥料の効果で、でかい大豆が収穫できる。
だがそのかわり、もう化学肥料なしでは作物として、荒れ地では生きていけない。
逆に我々は根粒菌などの自然の力を利用すべきではなかったろうか?
また、堆肥や牛肥や腐葉土は土壌の微生物に分解される段階で腐植となり、これが糊のように土の粒子を接着する。
これが分子構造のように連なって密な部分は水モチがよく、粗な部分は水はけの良い土壌を作っている。
だが化学肥料は土壌を酸性に偏らせ、この構造を壊してしまうのだ。
その結果、雨で土壌が流されやすく、カルシウムなどの塩基類が流れ出す。
そしてさらに酸性に偏った土壌となり、最後には、作物に必要な微生物がいなくなる。
では化学肥料は悪者か、いやそうではない。
有機肥料で育て、化学肥料で実を大きくする方法だ。
化学肥料は速効性がある。
たとえばブドウの施肥は、「点滴かん水」になっているのがよいだろう。
速効性があるのだから元肥をやるより、減肥にもなる。
肥培管理は結実後50%、収穫期後30%、発芽期20%である。
果樹によって栄養管理は違う。
土壌管理を徹底的にやれば、作物も育ち、土壌も豊かになる。
多くの農家がこれに従い、また自分のノウハウも組み入れ、大きく収穫を伸ばした。
人間の人口増の幾何級数的増加に対して、生活資源は算術数的増加でしか追いつけない。
マルサスの人口論にはそのように書いてある。
農作物の量が人口増加に追い付けず、常に飢餓貧困に悩ませられるという説だ。
これをマルサスの限界という(1798)。
今や、窒素系化学肥料の合成は、マルサスの限界を突き破った。
人工肥料による莫大な収穫が、ついにこれを突破したのだ。
農作物の幾何級数的増加が、人口増加のグラフに重なるように急増した。
食料は人口増加に追随する事が出来るのだ。
だがしかし、農業事業部のアンモニアを嗅ぎつけた奇妙寺の別の事業部がいた。
奇妙寺化学事業部の僧形たちである。
ばんざーいはこれからも注釈付きで使用していきます。
マルサスの限界は戦国時代より200年先の話ですが説明の為参照しました。
ご了承願います。
次回は「ニトロセルロース・無煙火薬コルダイト」です。