1430-1470年スキとクワ
農機具についてです。
犂と鍬は古代メソポタミア時代から使われてきた代表的な農機具だ。
プラウ(Plow)ともいい、数千年の間、変わらない形状だった。
古代エジプトの壁画にも残されている。
Plow(鋤)を牛に引かせてHarrow(砕土器)で耕している場面である。
松戸彩円と莫斯利は甲斐国の地図を広げた。
甲斐は四方を山に囲まれている。
山しかない。
現代の測量では、全域の77.5%が森林であり、農地はわずか5.7%しかない。
また、その農地の3分の2は山沿いにあって、きわめて農業に不利な条件にあった。
耕地面積のほぼ6割が田である全国平均に対して、甲斐国は3割弱と少ない。
これは果樹を主体とする落葉樹の割合が多いからだ。
米の自給率が53%しかない甲斐国はやはり赤貧国であった。
松戸彩円と莫斯利は地図を指で摩りながら考えた。
もう少し耕作地があれば(チラッ)、安曇野、佐久、松本、伊那とか(チラッ)。
諏訪から北信濃にかけての水田が広がる穀倉地帯。
ここが甲斐の領土だったら、どんなにか、いいだろうなあ……。
だが諏訪も信濃も他国である。
他国であるから、いたしかたがない。
農作で使うあらゆる道具を機械化して、効率を上げるしかない。
農機具をバンバン改造する。
日本人は発明は下手だが、魔改造は大好きだ。
早速、奇妙寺の僧形は魔改造に着手した。
あらゆる手作業を自動化した。
工作機械があるので、農機具すべてを金属で加工する。
ねじがあるので部品は総てねじで締結する。
牛が引く重量に合わせて、大型化は見送る。
単機能の農機具で複合化はしない。
①畑、田圃を耕す機械(プラウ(plough)、ロータリー)。
およそ紀元前12世紀頃に現れた耕作機械。当時は牛が引いていた。
これで地面を掘り返して②のロータリーハローで粉砕する。
②農地の土を砕く機械(ハロー、パッカー)。
①で穿り返された土塊を細かく破砕して、植え付けが出来る土壌にする。
地表面が細かく砕土される。
砕土の細かさは作付けする作物による。
③肥料や堆肥を撒く機械(ブロードキャスター、マニュアルスプレッダー)。
②で出来た砕土土壌に元肥を捲く機械(施肥機)。
主として堆肥や緑肥などの遅効性肥料が用いられる。
ホッパーは大中小が取り替え可能。
④種まき、植付けの機械(プランター、シードドリル)。
③で出来た土壌に種子の精密な播種と鎮圧、覆土を行う機械。
⑤田圃の土壌、作物管理の機械(カルチベータ、畝たて機)。
カルチベータ:おなじみ耕うん機。中耕・除草に適している。
畝たて機:耕うん作業で畝を作る機械。
⑥農薬散布の為の機械(スピードスプレヤー)。
文字通りの農薬噴霧器で、風向きで自分に掛かると大変。防護服を着る。
{農薬がまだないので、構想のみ(実機なし)}。
⑦収穫のための機械(コンバイン、バインダー)。
稲などを収穫する為の機械。
バインダーは刈り取りと結束を行ってくれる便利な機械。
米は天日干しをした方が味が良くなる。
{コンバインは動力がないので構想のみ(実機なし)}。
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農家の民はぶったまげである。
「へ……えっ、これ、なにっあ」
「ウソだろ?」
日がな一日、耕していた畑が、プラウで20分で耕されしまった。
翌日だった砕土は、その後の20分でおしまい。
施肥機で堆肥を撒いて20分。
あんなに苦労した畝立ても20分で出来てしまう。
それにしてもバインダーである。
稲刈りは家族総出で重労働のひとつだったのに……。
20分で終わってしまった!
恐ろしいのは「1回も農民なのに土に触らない」ことだった。
そんな事が可能なのだろうか?
可能なのだ、奇妙寺の技術なら!
だがもっと恐ろしいのは値段である。
まあコンバインなどは1000万円は下らない、現代なら。
「お代ははいただきません」
「ほげえぇぇっ」
「そのかわり収穫の5%をいただきます」
奇妙寺の僧形はニッコリ微笑んだ。
たった5%!
農家の人々は二つ返事で承諾した。
だが、5%をずっと徴収するという事は……。
やがて積もり積もって莫大な金額になるのでは……。
さて、奇妙寺は日本の土壌分布について研究していた。
山から海にかけては、大体6種類の分布に分かれていた。
①ポトゾル
②褐色森林土
③黒ボク土
④赤黄色土
⑤泥炭土
⑥低地土
である。
甲斐国の山は②褐色森林土、平地は⑥低地土で出来ている。
②褐色森林土は山林の土壌で有機物が少なく、層も薄い。
⑥低地土は河川の氾濫による堆積土から成る。
土壌養分が豊富で肥沃な土壌だ。
釜無川の氾濫による出来たのが甲斐国の平地だ。
甲斐国の生い立ちがよく分かる。
農耕での土壌位について研究していた。
土壌層は何層にも積み重なった形になっている。
表層は有機物や菌、微生物が多く生息して肥沃である。
作土は耕転して、作物を栽培する層で、膨軟で養分に富んでいる。
心土は農耕具で攪拌されない層。緻密で有機物が少ない。保水層。
基層は農耕とは関係ない深層位である。
岩盤層は最下層の土壌の基礎岩盤。農耕とは関係ない深層位である。
この表土と作土を耕転して作付け、作物を育てるのだ。
だが何回もやってると作土も深い部分が踏み固まる。
それは農業機械の高重量化による硬盤層の形成である。
人や牛が農機具で耕していた時の踏み足の重量と桁が違う。
硬盤層のため、洪水で冠水した畑の水がなかなか引かない。
水はけが悪くなり、排水性が不良になる。
じゃあ硬盤層を深耕して、天地返しをすればいいかというとそうでもない。
下層土は深度層の無酸素の劣悪な不良土である場合があるのだ。
酸性が強く、燐酸吸収係数も大きい。
深耕混層したら、取り返しがつかない、なんて事態もありうる。
じゃあ一体どうすればいいのか?
心土破砕機サブソイラで硬盤層を深耕し、土質改良材を供給して、化学性を改善する。
心土破砕をしても、耕耘せず、状況に応じて自然のまま使うのだ。
現代では、カッテイングソイラ工法と呼ばれるものだ。
①浅層心土破砕:硬盤層より浅い踏み固められた土壌。深さは30cmぐらい。
土壌に亀裂を入れ。暗渠機でモグラ暗渠を施工する。
暗渠を作るユニットが付いた農機。
ユニット拡大図。
矢印のように土壌を流して、暗渠を作る。
これが排水菅の役目を果たすので、暗渠本菅と接続しておく。
②深層心土破砕:硬盤層に亀裂を入れる為のもの。深さ40cm以上。
圃場の排水勾配に留意して施工する。
傾斜の方向に施工すると排水効果が大きい。
等高線の方向に施工すると保水効果が保てる。
土質改良材(石灰、溶リンなど)を供給して、土質改善を行うと収穫が改善する場合がある。
「さあて、収穫はどうかな?」と彩円。
「きっとすごいですよ」と莫斯利。
だがしかし。
便利になっただけで収穫高は変わらなかった。
「あれえ?」と彩円。
「おかしいなあ」と莫斯利。
中世の農業は良質の肥料と農薬がない。
葉や茎を育てる葉肥(窒素)。
花と実を育てる実肥(燐酸)。
根や茎を丈夫にする根肥(カリウム)。
これら肥料を生育と共に切り替えながら作物を育てるのだ。
これは現代では、N-P-Kのテクニックと呼ばれている。
これに該当するものがない。
しかも、農薬に該当するものがない。
祈祷やまじないの札を虫除けにするしかなかったのだ。
空中元素固定装置でアンモニアを作らねばならない。
農薬も急いで研究を始めねば!
「ええ、やってなかったの」と莫斯利。
「すまぬ」と彩円。
とかく研究者は実利より研究にこだわりがある。
これは長所であり短所であった。
すぐに肥料と農薬の研究が始まったが、両方とも難物だった。
しばらくは掛かるだろうと思われた。
土壌位の研究は続く。
硬盤層や心土については、多くの理論があり、現場でも様々な方法が試されている。
自然の土壌では、条件がその都度異なり、定説は存在しない。
この議論は現代でも活発に行われている。
次回は「農薬」です。




