1420-1460年甲斐国守護不在2
信長再登場。
武田信長は戦っていた。
戦って戦って戦い抜いた。
武田家滅亡後、鎌倉府は甲斐の国人、逸見氏を守護代に要請した。
しかし、鎌倉府と対立関係にあった京都室町幕府はこれを認めなかった。
高野山には、武田一族の穴山満春が出家しており、空山と号して僧籍に入っていた。
これを還俗させ、武田信元と名を改め、武田信長、小笠原政康の支援を受けて入甲した。
この際に小笠原分流の跡部一族も支援のため同行している。
その後、信元は甲斐国の治世に努めたが、跡部一族の横暴が目立ってきた。
信元支援の為に跡部一族を甲斐に引き入れたのが仇となり、今や専横を許している。
逸見一族をやっと退けたと思ったら、今度は跡部一族の甲斐乗っ取りが始まったのだ。
1421年とうとう荒川河原で両者は激突した。
両者とも甲斐源氏の血を受け継ぐ、鍛錬された騎馬戦術の持ち主であった。
戦況は五分五分、まさに同族下克上の地獄絵図であった。
決着は付かなかった。
信長は、その後9年間も戦い続ける事になる。
ある日、信長はまたひょっこり奇妙寺を訪れた。
奇妙寺は最初に来た時から変容していた。
実験施設では、なんだかわからない実験が繰り返されている。
高炉では銑鉄が溢れ出し、トーピドーカーが忙しそうに行き来している。
骸炭炉では石炭が乾留され、石炭ガスが回収され、照明に使われている。
松戸彩円が出迎えに出た。
上級僧形もズラッと並び、歓待の意を示した。
「これはこれは信長様」
「息災のようだな」と信長。
「これはナニをやっておるのだ」
「化学と工業でございます」
「歌学と勤行か、僧形らしいな」
{歌学:和歌の作法、解釈、歴史を研究すること}
{勤行:仏前に読経や回向をすること}
信長はキッと振り向いた。
その姿は逆光で表情は読めない。
「今日は別れの挨拶に来たのだ」
「なんですと!」と彩円。
「甲斐守護は信重が継ぐことになろう」
「だが信重のカリスマでは国人どもの遵従は叶わぬ」
「国人どもはまた下克上に走るだろう」
「敵は強力だ、また台頭してきて甲斐国は騒乱状態」
「9年間も戦ってきたから、分かる」
「敵側には人間的魅力、カリスマがある」
「だから敵側に分があり、いつも負けてしまう……」
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勝てない。
その悔しさがにじみ出ている。
戦国時代の戦力は、服従する国人の数で決まる。
勝てそうな方に味方するのである。
勝てないのは御大将のカリスマのせいでもある。
彩円は黙って聞いている。
「どうもこのまま戦い続けても無駄なような気がしてのう」
「わしは甲斐国を出て、関東公方足利成氏に仕えようと思う」
「乱世に一旗揚げる年齢でもないわ」
信長「松戸彩円に警告する」
彩円「はい」
「わしは最初、ライフル銃3000挺を奇妙寺に頼むつもりであった」
「これを多段構えにして装填、構え、発射の順で撃てば無敵だ」
彩円は無言のまま驚いた体になった。
「驚くでない、もうやめた」
「最新兵器で敵を粉砕は出来よう」
「だが、戦は勝ち負けではない、まあ、それもあるが」
「戦が人の命の取り合いである以上、結局は人の資質が人を惹き付ける」
「この大将なら国をまとめられる、常人を越えたなにかがある」
「それに人は魅せられ、命を投げ出すのだ」
「最新兵器という道具なんぞに命を投げ出す訳ではない」
「警告はこの後だ」
「まだ甲斐国の騒乱は3代にわたって続くだろう」
「時の権力者に結びつくのが宗教の常だろう」
「だが、まだ騒乱は終わらない、時を待つのだ」
「あと50年は甲斐国はまとまらぬ」
言いたい事は分かった。
現守護代も、その後も騒乱によって倒れるのだ。
奇妙寺は戦国時代の終わるのを待てと言うのだろう。
彩円「重々肝に銘じまする」
信長「よっしゃ!」
「わしの時代が来ると言ったが、あれは叶わなかった」
「だがなんというかわしには予感がある」
「3000挺の鉄砲兵を従えた強者がいつか現れる予感がな!」
信長は去って行った。
後日、信長は関東公方足利成氏に仕え、重臣にまで登りつめた。
その後、上総地方(現千葉県)に侵攻し、上総武田氏の祖となったのである。
次回は水車と歯車です。




