表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第3章
24/169

1420-1438年日本住血吸虫症001(駆虫薬)

日本住血吸虫症の駆虫薬編です。

薬剤からのアプローチ:駆虫薬


駆虫薬により日本住血吸虫を殺虫する方法も検討された。


だが日本住血吸虫症の薬を作るにもまずその手立てが何もない。


既存の虫下しを列挙してみる事から始まった。

古代から知られるあらゆる処方を、南蛮の知識からも総動員した。


マクリ:回虫の駆虫薬。

海人草(カイニンソウ)という紅藻から生薬として取れる。

日本では和歌山県潮岬以南に生息、インド洋から紅海、地中海と広く分布する。

古くは平安時代の医書「金蘭方(866)」や「頓医抄(1303)」にも記述がみられる。

煮出すと寒天質も抽出してしまい、分離が厄介で、冷温抽出で成分を分離する。

成分はカイニン酸で、イノミ酸の1種に位置づけられる。

カイニン酸は回虫に効き、回虫の運動を興奮状態にした後、麻痺させる。

 こうして運動能力を失った回虫が、宿主の腸の蠕動運動により便と共に体外に排出されるのだ。


ドウモイ:紅藻から生薬として取れる。

珪藻由来の貝毒として、ムール貝から抽出される事(貝の毒化による)がある。

産地は奄美諸島の徳之島で産出する。

成分はドウモイ酸で、イノミ酸の1種に位置づけられる。


ペレチエリン:ザクロの皮

古代ギリシャからザクロの皮には、薬効がある事は知られていた。

ザクロの幹や根の皮を煎じて服用する。

揮発性の為、新鮮なものほど薬効が高い。


シクンシ:回虫や蟯虫(ギョウチュウ)の駆虫薬。

インドやマレー、ジャワに分布する常緑蔓性植物の成熟果実を用いる。

漢方では使君子(シクンシ)で毒性が少なく甘みがあるので子供の虫下しに使われる。

種を炒めて香りを出し、噛んで服用する。


ほかにも苦楝皮(万葉集に記述有)、檳榔子(成分アレコリン)がある。


 さらに四塩化炭素、ケノホビル油(Chenopodium Oil)、セロトニン、がギリシャ時代からの駆虫薬であった。


これらの薬が腸内の寄生虫を麻痺させて、体外に排出するのだ。

1422年、ミヤイリガイが日本住血吸虫の中間寄生体である事が発見された。

直ちに虫下し薬が適用されたが、効果は見られなかった。


日本住血吸虫は腸内ではなく門脈にいた為、虫下しは役に立たなかったのだ。


 中世以降、駆虫薬といえば、吐酒石として知られる酒石酸カリウムアンチモニウムという劇薬だった。

南蛮渡来の駆虫薬であり、日本住血吸虫症に効用があるのはこれしかなかった。

名前の通り「酒石酸+カリウム+アンチモニウム」である。


 酒石酸は名前の通りワインの中や樽の沈殿物や結晶(酒石)で,ワインのダイヤモンドとも言われる。

ワインの液体中には、酒石酸水素カリウムとして、自然に存在する。

 低温環境にワインを置くと瓶底に沈殿するので、上澄みを除き、沈殿物のみ利用する。


アンチモニウムはアンチモンの事。日本でも採れる。

有史以前から顔料としてアフリカで使用された(眼のまわりを黒く塗る化粧品)。

逸話では15世紀の錬金術師バジリウス・ヴァレンチヌスが薬効を発見している。


15世紀の修道院では豚を放し飼いにして庭に飼っていた。

15世紀の修道院では生活ゴミは窓から投げ捨てていていた。

生ゴミの日もダンボールゴミの日もなく、ゴミ収集車もこない。

ゴミは庭に小山のように折り重なり、雑草が生え、豚はそれをエサにしていた。


ある日ヴァレンチヌスは豚が丸々と太って健康であるのを発見した。

当時、畜獣は寄生虫に冒されて、ショボショボの豚が当たり前の時代だった。

原因は自分が実験で使い捨てたアンチモンのゴミにあった。

豚は駆虫薬のアンチモンを自然に服用して、虫下しの効用で元気になったのだ。


「よし、わかった!」


ヴァレンチヌスはアンチモンを持って修道院の病室に向かった。

そこには栄養失調でショボショボの修道僧がベッドに寝かされていた。

「飲んでみろ、元気になるぞ」


早速、栄養失調でショボショボの修道僧にアンチモンを服用したからたまらない。

「ベホッ」

栄養失調に虫下し剤が効いて、さらに栄養失調になり、死んでしまった。


 このせいでAnti-Moine(修道僧殺し)という不名誉な名前になったという逸話である。


日本では7世紀からアンチモンは知られていた。

現在の愛媛県西条市市之川にある市之川鉱山である。

698年に既に「続日本記」に記述がみられる。

融点降下剤として知られ、薬効は知られていなかった。


さて以上の「酒石酸カリウム+アンチモニウム」の製法は実は簡単であった。

ワインを純粋なアンチモンのカップに注ぎ、25℃~26℃に保つ。

24時間経てば、酒石酸カリウムアンチモニウム溶液が出来た。


これを静脈注射する事が、日本住血吸虫を退治する唯一の方法だった。

25mg/kgの総容量を毎日、20日間静注する事で。治癒率70%を達成していた。

しかしお察しの通り、アンチモンは中毒を起こす(アダムス・ストークス症候群)。

意識の突然の喪失、心収縮不全、心室細動等である。


 治療法はあった。しかし、病気で死ぬか、治療で死ぬか、中世(近世初期)は恐ろしい時代でもあった。

次回は特効薬プラジカンテルです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ