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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第2章
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1400-1440年高速度鋼の開発史

高速度鋼開発史です。

主に西日本を探し回ります。

 切削の工作機械を取り扱う時に避けて通れないのが、ハイスの材料の高速度鋼である。


松戸彩円は考えた。


鉄の溶融では鉄鉱石から不純物を取り除く。

それは硫黄や炭素やリン等で、鉄鋼スラグとして取り除く。


ではより鉄を強靱にする添加物があるだろうか?

莫斯利(もすり)「あるにはありますが、希少です」

彩円「一体何処にあるのだ」

莫斯利「商人から手に入れていました。原産地までは……」


おそらくは西日本の山陰地方のどこかだろう。

西日本で製鉄が盛んなのは優良な砂鉄が産出するからだ。

 もともと日本海沿岸では、真砂砂鉄(融点1420℃)が採れ、たたら製鉄の有能な材料となった。


真砂砂鉄は偶然にも不純物が少ない鉄鉱石のなれの果てだった。

材質の選別は手で握った感触と色で識別した。

一子相伝の感触と口述である。文献は残っていない。


ではタングステンやマンガンはどうか?

現兵庫県養父市にある明延鉱山は平安時代初期の大同年間に開山した鉱山だ。

スズの日本一の鉱量で知られているが、タングステンも採れる。

丹波地方には多数のマンガン鉱山が知られていた。


また、足を伸ばせば、東北三陸海岸にも瀬戸内海宇和島にも巨大な鉱床があった。

数年の歳月が流れ去った。


松戸彩円「おお、見つかったか?」

丁翁「はれほれへれ日本中を探し回りました……」

商人は疲労の為、呂律(ろれつ)がおかしかった。


丁翁は自ら名乗り出て、鉱石探しに赴いていた。

変な事が好きなのは男の性分である。


彼は懐から白い結晶のある鉱石を取り出した。

白い金属結晶はマンガン鉱であった。

実際には鉄とマンガンの二重炭酸塩であるがここではまだ分からない。


これを溶鉄に添加する。

それには純鉄を作らねばならない。

 たたら製鉄で真砂砂鉄のみを使い、厳選した炭で加熱し、石灰を入れ、スラグを採る。

得られた純鉄に少量のマンガン鉱を添加する。


 何百回の試行錯誤の末、入れ過ぎるとボロボロになるが、適量で鉄が強靱になる事が分かった。


次はタングステン鉱だった。

現山口県岩国市にある喜和田鉱山で産出する。

タングステンの融点は3422℃、沸点は5555℃のバケモノである。


戦国時代には、喜和田鉱山はニ鹿鉱山と呼称されていた。

採掘の記録がはじまるのが1669年(寛文9年)である。

 名前の由来は、平安時代に2つ頭の凶暴な鹿を、梅津中将清景が討ち取った事に由来する。

地域は不思議な鉱石が産出する事で知られていた。


この鉱山からタングステン鉱をお取り寄せで持ってきてもらい、添加を試した。


こうかはばつぐんだ!


マンガン、ニッケルクロム、タングステンカーバイド。

これらを狙って添加物として採用したのではない。


その経緯はこうだった。

丁翁はまず、たたら製鉄の盛んな山陰地方に出掛けた。

口述、口伝や伝承を頼り、真砂砂鉄の産地を巡った。

真砂砂鉄は黒雲母花崗岩(チタン磁鉄鉱)のなれの果てだった。


山陽地方では赤目砂鉄(フェロチタン鉄鉱)を追っかけた。

山砂鉄、川砂鉄、浜砂鉄も追求した。


いつのまにか丁翁は、鉄鉱石や砂鉄の目利きになっていた。

誰も、産地や選別方法を教えてくれない。

すべて、口伝や口述である。


また備後国、美作国ともに鉄の産地であり、注意が必要だ。

これらの鉄が備前国に卸され、備前刀として全国に流通していた。

その流通経路を探ることは死を意味する!


だったらいいじゃないか!

自分で探すぜ!


鉱石採取のかたわら、山道を歩く。

川の石には赤い色が付いている場所がある。

そういう場所の上流には酸化鉄を含む断層がある。


そういう断層を山歩きで探し回った。


また、砂鉄の選別方法も身についてきた。


手で握ってみて、一つの砂岩を握るように手応えがある砂鉄が良質だ。

火にくべればパチパチと音が鳴った。

また手で揉み潰した後の色が黒く、重みを感じるものも良い。


握っても手応えがなく、灰のような感じのものはダメだ。


触感と眼力、まさしく本当に地を這うようにして求めたものなのだ。

山賊「なんだ、またお前か、いいぞ、行っていい……」


戦国時代なので、山には山賊がいる。

いつもボロ着で垢まみれで石を背負ってる丁翁はよく山賊に会った。

金目のものはなにもない(鉱物はあった)。


猫またぎならぬ「山賊またぎ」になってしまった……。


現山口県岩国市にあるニ鹿鉱山は銅鉱石の露天掘りだった。

そこを訪れた丁翁は鉱床に案内された。

当地では、銅の鉱山は機密ではない。


だが!ここではタングステンを産出している。

タングステンは無用の長物であり、ボタ山に投棄されていた。

ボタ山には妖しい鉱石がどっさり捨てられていた。


石英の結晶付き鉄マンガン重石、灰重石、鉄水鉛華などがゴロゴロしていた。

石英の混じった赤ザクロ石もあったが、濁りがあって無価値という事であった。


それを丁翁が二束三文で引き取って持ってきたのだった。

「石集めが趣味でして」と丁翁。

「奇特な趣味ですな」と鍛冶部(かぬちべ)

丁翁が臭うので、しかめっ面での対応である。


臭うのは身体を洗わないからでしょうがないぞ!

丁翁はひきつった顔で、ニ鹿鉱山を後にした。


丁翁「美しい」「なんか効能があるに違いない」

石英の鉱床に金属の柱状の鉱床が紛れ込んだ、それが鉄マンガン重石だ。

引き取った理由はない、強いて言えば「役に立ちそう」だったからだ。

そういった直感とインスピレーションをビビッと感じたのだ。


こうしてニ鹿鉱山からいらないボタ山の鉱物をお取り寄せ出来るようになった。

他にも全国の鉱山と顔見知りになった丁翁は、部下を派遣し、支社を置いた。

全国の鉱山からいらないボタ山の鉱物をお取り寄せ出来るようになった。


試行錯誤の結果、タングステン+マンガン+炭素の添加物の最適値がわかってきた。

またタングステン鉱床の下にあるモリブデン鉱床も見つかった(小馬木鉱山)。

これも添加物として試したところ有用であった。


タングクテン、マンガン、モリブデン…。


高速度鋼の誕生だ。

普通の鋼と違い、熱が上がるほど、強度が高くなる。

だが硬度が高くなると、靭性(ねばり)が弱くなる傾向になる。

ねじりとかの力に対して折損、割損、欠損が生じやすくなる。


適材適所で使わなければならなかった。


ドリルの歯やエンドミルの歯、金鋸などはこの材料で作る事となった。

次回は錬金術から化学へです。

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