1400-1440年火器001(弾頭+薬莢+火薬)
奇妙寺の僧形たちは結論を出した。
中ぐり盤ではなく専用のガンドリルマシンの開発。
ガイドパッド+切れ刃+シャンク+ドライバの構成の開発。
水溶性切削油剤の研究開発。
ガンドリルマシンの概要は
①部材は固定する。
②ドリルの芯ぶれを防ぐブッシュを設ける。
③ガンドリルの重心がマシン側にある特殊形状。
切粉を落とすホールを設けて、切削屑を逃がす工夫も必要だ。
こんな感じで、どの工作機械とも互換性の無い特殊工作機械だった。
1つ1つ問題をクリアーしないと部品さえ出来なかった。
いや、部品を作る工作機械をまず作らなければならなかった。
6ヶ月後。
「銃身を短くする、40cmだ」
「最初から長いのは作れん」
……。
1年後。
銃の原型が出来上がった。
長さ40cmの銃身である。
「火薬はどうするのだ」
「硝石だけは日本では産出しないんだよな」
「古い家の床下の黒い土から結晶がとれる。それが硝酸塩だと聞いた」
「知っているのか、伝来?」
ひげ面の伝来という巨漢の僧形である。
彼は南蛮渡来の知識や技術に広く通じていた。
「うむ」
「南蛮人の国では蚕の糞と山草などの培物を交互に混ぜた堆肥のようなものに尿をかける」
「四年もすれば塩硝(ショウベン塩)が採れると聞いた事がある」
「4年間ねかせて採取は5年後か……」
「気の長い話だなあ」
「堆肥には様々な有益なものと有害なものが混在してるからな」
「それは堆肥の中にいる放射菌のようなものが硝石(硝酸)を作るんじゃないのか」
<放射菌は腐葉土の葉の裏にいる白い菌>
<この時、存在は知られていたが、効用はまだ知られていない>
「硝酸を作るから硝酸菌か?」「まさか!」「いるわけない」
一同に笑いが起こった。
しかし彼らは知らなかったが、この時、最も真実に近かったのだ。
自然界には植物に有用な菌や微生物がたくさんいる。
土壌の腐敗物から分解されアンモニアができるアンモニア化成。
アンモニア化成菌、古細菌の酸化が寄与している。
アンモニアから硝酸が出来る硝酸化成。
亜硝酸酸化細菌がアンモニアから亜硝酸を生成する。
硝酸化成菌が亜硝酸を硝酸に変える。
酸化反応であるから、酸素が必要で、堆肥を天地返しするのは酸素供給のためだ。
これらがイオンとなり、植物の根毛から吸収され、グルタミン酸に同化される。
その硝酸を人類が横取りしているに過ぎない。
古い家の床下をさらう方法(古土法)で、塩硝をかき集め精製して硝酸を得る事にした。
何十年も経った古民家の床下の土を集め、温水と混ぜ、その上澄みを草木灰を混ぜ、煮詰めるのだ。
これは効率の悪さで群を抜いていた。
あとはカートリッジである。
火薬と弾丸が一体化した石火矢のカートリッジ方式は重くてだめだ。
もっと小さくて薄くて軽いカートリッジでなくてはだめだ。
理想と理屈は簡単だ。
①カートリッジに点火は水の中でもできる事。
②火薬の爆発と同時に銃身の尾栓側を密閉できる事。
③薬莢の排出は容易である事。
柔らかい材質で銃身にへばりつき、密閉する構造で、なおかつすぐに排出できる。
そんな構造があるだろうか?
「あるわけがない」
若い僧形たちは頭を寄せ合って考えた……。
だんだん頭が寄り合って、近づき……。
次の瞬間、全員の目に火花が散った!
ゴッツ!
「あいたあ!」
だが一人の若い僧形が急にシャウトし出した。
「ひらめいたああぁっ」
「これだああぁっ」
雷管。
これがひらめいたのだった。
少量の発火しやすい火薬(雷酸塩)と発火金。
<雷酸塩は硝酸と水銀を反応させ、エタノールに反応させ作成する>
①硝酸を蒸留水で希釈する。
②水銀を滴下する(この時、暗赤色の煙を吸い込まないよう注意!)
③エタノールに②の金属酸溶液を注ぐ(白煙に注意!)
④雷酸塩が析出するので、木綿の布で漉す。
⑤結晶をエタノールで洗浄し、空気乾燥する。
これも無数の試行錯誤からようやく発見された。
ここで雷酸塩を、まずプライマリー(初期)発火させる。
その爆発がフラッシュホール(伝火孔)を通って装薬に引火。
弾芯が爆発ガスによって推進力を得る!
「理屈は素晴らしい」
「だが薄くて軽い弾薬のケーシング(薬莢)はどうやって作るのだ?」
「深絞り加工を使えば出来るかも」
「割れたり、シワになって、ちゃんと加工出来ないぞ」
「多段絞りにしたら出来るかも」
宮天という僧形が呼ばれてきた。
彼は深絞りが大好きな塑性工学のプロフェッショナルなのだ。
「ふんふん、そうですねえ」
「金型もプレス油も特別でやりましょうか……」
深絞りは機械油ではなくプレス油という特殊な油を使う。
極圧添加剤と呼ばれ、主に硫化油(硫黄系石油添加剤)が使われる。
真鍮の板を深絞りして円柱にプレスする。
並大抵の努力ではなかった。
だがついに完成した。
次回は「ライフルを切る!」です