1594年最上義光(1/3)
1594年:最上国。
夏季は強風、冬季は豪雪と厳しい自然環境の山間の国だ。
「あ~あ~あ」
「日本海で獲れるサケが食べたいなあ」と最上義光。
「やめてくださいよ、鮭様なんて言われてますよ」氏家守棟。
最上国は奥羽にある四方を山に囲まれた小国である。
動かせる兵力は最高2000人。
騎馬はその3割しかいない。
兵力で激闘すれば、あっという間に揉み潰される。
かつては伊達家の強力な軍事力に屈し、強い影響下に置かれていた劣等国である。
その為、調略と策略と謀略に明け暮れた最上義光。
敵に降った父と戦った(1574)。
調略した敵将に己の主君を撃たせた(1583)。
見舞いにきた敵将を騙し討ちにした(1584)。
出奔した部下に仕えた敵将を討たせた(1587)。
戦国と言えばそれまでだが、あまりにも苛烈な生き様であった。
裏切りと謀反で手に入れた他人の領土。
ようやく支配下の国人や土豪たちを手名付けて大国になった。
信長・秀吉政権が無かった事により歴史は大きく動いた。
伊達政宗を懐柔した武田軍は、最上義光に、駿河幕府への服従を突きつけてきた。
条件は現在の領土の安堵である。
これに異を唱えたのは越後の国主景勝である。
庄内平野の争奪を巡る、宿敵同士の意地の張り合いだ。
ここは太田城(常陸国)、佐竹義重の居城.
奥州を管理下に置く最前線だ。
ここに駿河幕府から派遣された2人の武将がいる。
彼らは、越後の国主景勝の訴状を睨んでいた。
諏訪勝頼・徳川信康「う~~む」
勝頼「知略を尽くすというか……」
信康「謀略詐欺というか……」
2人とも奥州に別々に仕置きに出て、北の国の意固地さは充分に身に染みていた。
勝頼「1度徹底的に戦わねば、将来に遺恨を残す事になる」
信康「うむ、して方法は?」
2人にも思い当たる身内がいる、同族にもいる。
武田晴信も諏訪頼重を罠に嵌めて誅殺している。
徳川家康も孕石元泰を些細な理由で切腹させている。
勝頼「バトル・アスリーティスだ!」
信康「ええ、大運動会?」
勝頼「ちゃうちゃう、誰が訳せといった!」
1600年。
こうして庄内平野の争奪大戦が勃発する事となった。
いわば「戦国プロレス・金網デスマッチ」である。
私闘禁止令下での駿河幕府公認の戦闘であった。
納得するまで戦い奪い合う、未来に遺恨は残さないルールである。
援軍は無い、後退して戦陣を整えても良いが1度だけである。
どちらかが降伏するまで続けるが、駿河幕府のレフェリーストップはある。
景勝(直江兼続)軍24000人vs3000人最上義光軍。
勝頼「8倍もの戦力差で後にも引かないとは」
信康「これよ、一歩も引かぬ、この意固地さが奥州の統治の難しさよ」
私闘開始!
決着は景勝軍の辛勝であった。
兼続本陣に突撃を敢行した義光。
自らも兜に被弾し、あと1歩の所まで兼続に肉薄した。
だがあと一歩及ばず、惜敗である。
誰かが駕籠に乗って押しかけようとしたがレフェリーに止められていた。
過去にも何回かやっていたらしかっった。
判定は景勝(直江兼続)の勝利であった。
辛勝だが勝利判定は覆らない。
辛勝と惜敗でまた揉めた。
これでは切りがない。
だが決めた事だ。
勝負を私情で覆す訳にはいかない。
そこで庄内平野は出羽特別行政区(1国2制度)となった。
どちらの国のものでもあり、どちらの国のものでもない自治区である。
こんな制度は経年とともに形骸化するのは分かっていた。
しかし宿敵同士の奪い合いに白黒をはっきりと付ける事など出来なかった。
庄内平野。
古代ではもともと潟湖であり、海水と淡水が混じり合う汽水湖であった。
そこに最上川と赤川から流れ込む土砂が堆積して、形成された扇状の平野である。
その為、水はけが悪く、低湿地である(沼が多い)か、高燥地(砂のガレ地)のどちらかだった。
また最上川は、川の標高が土地より低い掘込河道であり、揚水が出来ない状態だった。
川があるのに用水路がひけないのである。
手桶で水汲みは出来るがそれも限度があった。
支配下にあるのはいいが、これではどうしようもない。
ここに1人の男と1人の僧形が登場する。
最上義光に北楯利長という家臣がいた。
彼がここ、庄内平野の水利灌漑を任されて、やはり猛烈に悩んでいた。
3000石の農地ではあった。
だが耕されているのは十分の一であった。
不毛の地、そんな言葉が頭をよぎる……。
「あかん、何も思い浮かばん……」
「桶を最上川に釣瓶で落として、人力で引っ張り上げてる今の方法しかない」
「誰か早く何とかしてくれ……」
「このままだと大変なことになるぞ」
ある風の強い日。
彼が川の治水と用水の調査の為、河辺を測量しようと彷徨っていた。
「神さま、仏さま、サン・ジワンさま、どうかお助け下さい」
祈るような気持ちで河辺をとぼとぼ歩いていた。
その時、1人の僧形に会った。
「なんぞその御用でしょうかな?」