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Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す  作者: 登録情報はありません
第12章(最終章)
148/169

1591年九戸政実の乱(3/3)

あまりにも不毛な戦いであった。

戦争は最後の政治手段である、と何処かで誰かが言っていた。

だから駆け引きがあり、守るべきルールが存在する。


しかし九戸政実のこれには何もなかった。

あまりに不毛な戦いに、信康は和議を考えていた。

政実の意地とプライドは十分に分かった。


開城すれば部下の命は安堵しよう。

いつものこれでいくしかない。


だが和議の使者は誰が良いか?

信康の臣下は九戸氏の菩提寺を訪ねてみた。


戦国時代の僧は戦勝祈願は勿論、同盟や和睦の交渉に欠かせない存在であった。

薩天和尚は九戸氏の菩提寺である鳳朝山長興寺の住職である。


九戸政実はこの住職の教えを受け、育った。

言わば、幼少時から顔なじみである。

この薩天和尚なら良いだろうという事になった。


陣地に連れてこられた和尚は不貞腐れていた。

「政実はどのような説得にも、決して応じる性格ではないぞよ」

「現に今、勝っているのは九戸政実。和議に応じる訳が無い」


「冬まで待てば、気候は激変。25万人の兵は撤退するしかない」と和尚。

「陸奥の国の冬は上方と違い、特に厳しい。」

「野外で過ごせば凍死する」


「だが春になればさらに増援部隊が到着する」と浅野長政。

「そうなればもはや和議はない」

「ここにある兵器が全てではないのだぞ」


「まあ、どちらにもとれるし、どちらでもないとも言える」と徳川信康。

「行きたくないと言うのなら無理強いはせぬ」

「寺に戻って、座禅なり読経なり勤行(ごんぎょう)に勤めるがよい」


薩天和尚は、ふてくされて去っていった。

こうして、和議の使者の糸口さえ、消えてしまったのだ。


「ドローンに書状を持たせて飛ばせ」と信康。

「使者がおらぬでは話にならん」


その夜、天守曲輪にドローンが着地した。

忠臣・原田がこれを拾って政実に渡した。

「和議などとこざかしい真似を」と政実。

「とうに命など捨てておりますのに」と原田。


「ドローンは取っておけ。周波数を操って敵を錯乱させられるかもしれん」

ドローンには「和議ではない。話したい」と1行だけ(したた)めてあった。


翌日。

垂直離着陸機ミサゴが九戸城天守曲輪に着陸した。


乗っているのは総大将信康と信勝の2人だけだ。

「5000人vs250000人でようやるわ」と信康。


「いけませんな、こんな敵陣の真っ只中に」と信勝。

「まだ言うか、もう決まった事だし、ここまで来て何を言う?」


「しかし正すべきは正す、それが副官の務め」

「その為に信勝、お前をを連れてきたのだ、もう言うな、職務を果たせ」

信勝はぷうっとふくれた。


政実は自ら迎え出た。

「よう、来たのう、命知らずめが」

「政実殿の雄蛮に敬意を払ってのこと」と信康は頭を下げた。

「万策尽きたか」と政実。

「そのようで」と信康。


本丸屋敷の一室に通された。

襖1枚向こうには暗殺者が隠れ潜む死地である。

だが信康は飄々としていた。


話し合いが始まった。


「武士の本懐は名を惜しむ事であろう」と信康。

「例え身が滅びようと何世紀も語り継がれる英傑の名こそ本懐」

「だが戦の無い平和な世の中になったらどうなると思う」


「さあ、身共には分かり申さぬ」と政実。

「そういう世に生まれなんだ身なれば」


「もはや争いの無い世になれば出世が男の本懐になる」と信康。

「いかにして楽に生きるか」

「いかにして楽に金儲け出来るか」


「ばかな」と政実。


「男子の誉れというものがあろう!」

「男女平等ではそれはもはや邪魔な存在だ」と信康。


「では我々が一歩も退かず」

「多勢に無勢なれど死力を尽くして戦い」

「我ここに在りと死に場所を得て」

「華々しく討ち死にした事は」


「うん、何の意味も無い」と信康。


流通が進化して、産業が活性化し、消費が美徳となる未来。

流通は滞り、産業も地産地消で、倹約が美徳の今現在。


九戸政実には想像も出来なかった。

理屈はそうだろう。


だが、そんな価値観の時代が来るのか?

心の中に暗雲が渦巻いた。


それを政実は押さえつけた、冷静を保て!

「あいたあ」信親は思わず叫んだ。


政実は思わず信親を見据えた、何だコイツ?

なんだか知らんが押さえ付けられた格好だ。


次は心の動揺をつるし上げるのを意識した。

信親は苦しそうに首をさすっている。


なんか面白いヤツだな、徳川の副官信親というヤツは!

九戸政実は精神の集中を目の前の徳川信康に戻す。


信親はホッとしたように一息つくと、あわてて姿勢を正した。

「……」「……」


政実は未来の世相に言葉も無かった。

さらに信康は言いつのった。


「なぜ荒地を開墾しない?」

「なぜ水利を治め農業を豊かにせぬ?」

「なぜ土地に合った作物を手に入れて試さない?」


「それは雪深き地に住まぬ者に分からぬ事」

「厳しい大自然に耐え抜く姿こそ美徳、上方には分からぬ」


「誰かに相談したことがあるのか」

「上方に臣下を派遣して調べさせたか?」


「……」「……」

「……、……」


過去の色々な政敵との対立や御家騒動が、九戸政実の中を過った。

だまし討ちや暗殺で、あたら若い命を散らしていった者達が不憫でならなかった。


信親は今度はシクシク泣き出した。

コイツは本当に面白い、無言劇(パントマイム)の才能があるぞ。


九戸政実は、ふたたび精神の集中を、目の前の徳川信康に戻す。

 「それは、南部の御家騒動や治安維持に、全力を傾けていたので、失念して御座った」


「なぜ、我々の政策に従わぬ?そちらに利もある計らいであるだろう?」

京義(きょうぎ)(:上方風のならわし)の強要や兵農分離が我慢ならんのですわ」


「蛮勇か」

「そう呼びたければ」


信康は会見を切り上げた。

「政実殿、負けても降伏はせん腹積りとみた」

「こころゆくまでなさるがよい」

政実は沈黙を持って答えた。


信康一行は去っていった。

帰投する機内で信康は信親を労った。


信康「信親、大丈夫か」

信親「九戸政実、恐ろしいヤツ、超常の私を赤子のように」


信康「ここまでくれば距離もある、もう及ぶまい」

超常の無い信康には知る由もないが、九戸政実は苦手な相手だった。


深層心理下に心理防壁を持つ者がたまにいる。

自分では超常の力があるのに一生気づかない。


信親「とにかく彼には一生近付きたくありません」

信康「直接交渉はもうせぬ、以降はドローンによる通告投函だ」


それ以降はドローンによる通告が何度かなされた。

しかし、いかなる接触のキッカケも無視された。


無反応である、徹底的に籠城する腹だった。

こうなったら持久戦にもつれ込むしかない。


 九戸城と信康陣地の間には、塹壕による緩衝地帯と有刺鉄線が、三重に張り巡らされた。

鉄壁の守り。もはや特攻突撃も、騎馬突撃も不可能である。


スリーパーセルを恐れながらの長期の籠城戦にもつれ込む事となった。

混成軍団はまずい、直属の武田軍だけを残す。


 25万人の兵士は解散し、武田軍1万人程度となり、ただ九戸城を囲んでいるだけとなった。

ただ、ただ、城内の糧食が尽きるのを待つばかりである。


和議に応じず、命を捨てるなら勝手に飢えて餓死すればいい。

秋が過ぎ、冬が来て、春が来た。


どちらも動かない、攻めない。

着実に備蓄は減っているだろう。


だが動きはまったくなかった。


その内に斥候が気付いた。

動きがないのではなく、動くものがないのだ。

素っ破が調べてみると全員が飢え死にしていた。

九戸政実は首の無いミイラと化していた。


壮絶なる最期であったが、多くの外様大名は落胆していた。

 これだけ抵抗した九戸氏が和議に応じれば、どうなるかを参考にしたかったらしい。


あわよくば、後に続く心積もりも、あったといえばあった。

しかし結果は「東夷の愚鈍」と外様大名たちは受け取った。


結局はケンカして、意地を通したまでは良かったが、引き際を誤ったのだ。

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ 、である。

九戸政実は古い人間だったのだ。もはや、そんな時代ではなかった。


京義(きょうぎ)は確かに奥州の古い仕来たりにそぐわなかった。

検地と兵農分離、中央政府の役人の赴任による厳しい農民管理。

 武士と農民が未分離だった奥州では、「地方の意地と地元のプライド」が傷ついたのだ。


だが、これ以降、駿河幕府にたてつく者はいなくなった。

戦闘の規模が違い過ぎる。


25万人の大部隊に攻め立てられ、一体どうやって戦いを挑むのか。

こうして駿河政府の圧倒的な奥州仕置きは反逆の芽を完全に摘んだのだった。


九戸城は改築され、蒲生氏郷の元、南部宗家の居城となった。

 九戸の名は地元の伝説となり、その後、本庁が盛岡に移って廃城となっても、記念館として保存された。


 九戸氏の菩提寺である鳳朝山長興寺の墓所には、墓参りの地元民が耐える事は無かった。

九戸政実の名前は歴史に残ったのである。

次回は1591年大崎葛西の乱です。

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